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【七十九話】フラグ!フラグ!フラグ!

「ふう、今日はこのぐらいでいいか……」


 俺はここ最近の日課となりつつある迷宮探索でこれまでの階層を一階層更新したところでそう独り言ちる。

 気が付けば俺が迷宮に潜り始めてから既に一か月ほどが経っており、最初は()()()()()も引率として付いてきてくれていたが、俺が初心者向けの迷宮を踏破してからは「これからは一人で潜るようにしましょうか」と言われてしまい、もっぱらここ最近はソロでダイバー活動をしていた。


 ここ一か月で変わった事と言えば、そう渡邉さんの事を津奈ちゃんと呼ぶことになったもの勿論だが、いつの間にか仲良くなっていたのか、津奈ちゃんが暇さえあれば夕飯の席にいることが増えたことだろうか。


 正直外堀が埋められている気がする。


 問題はこれまでの皆と違いどこか打算的な雰囲気を感じるという事だろうか。

 まあ正直な所可愛い子は好きだし、打算ありきとはいえ嬉しいので特に反対というわけでもないのだが、前世の記憶もあって、少し怖いのが本音だった。


 まあそれはさておき、ここ最近のダイバー活動は好調と言える、今のところ死亡もしていないし、初心者迷宮は勿論。中級者用の迷宮も既に踏破しており、今現在潜っているプロに片足を突っ込んでいる迷宮ガチ勢が数多く活動している上級者迷宮も今日の探索で折り返し地点となる階層にまでたどり着いていた。


 例に漏れず夕食に出没する本物の迷宮ガチ勢である、津奈ちゃんからも上級者迷宮まで一度も死なず、かつソロというのは非常に珍しい事らしい。


 まあ、それも神様からもらったスペックのおかげなのでいまいち素直に喜べない自分がいるのだが。


「……出るか」


 何だかこれ以上このことを考え続けるとネガティブな気持ちになりそうだったので、頭を振って呟いて俺は目の前の扉に手をかざした。


 ◇


 相変わらずファンタジーな迷宮前の空間を横目に俺は更衣室に入って服を普段着に着替えて、今は刀が入った箱を肩に掛けてこれから迷宮に潜るであろう列と逆行して出口に向かって歩いて行く。


「あ~疲れた」


 俺は歩きながら、流石の神様スペックの体とはいえ半日ずっと迷宮に潜りっぱなしということもあってそんな呟きが漏れた。


 ここ最近はちょっと色々と手を出しすぎて、忙しい事忙しい事。


 平日は学校で学校が終わって家に帰ったら鏡花さんとVPEXの動画を取ったり、今日みたいに迷宮に潜ったり、ARの方で撮影があったり、土日も同じような感じで用事がなければ大体は迷宮に来ており、今の俺には完全に暇な時間と言う物は存在していない。


 この世界に来た時の暇さが嘘のようだった。


 興味のあることになまじ神スペックのせいで気軽に手を出せるせいで、ここにきて一気にしわ寄せがきていた。


「まあ、どこぞの津奈ちゃんと違って海外の鬼難易度の迷宮にいくほど、ガチるつもりも無いし、ここをクリアしたら少しは落ち着けるかな……」


 俺はここ最近の予定の詰まり具合から目を逸らしながら、自分に言い聞かせるように独り言を言いながら迷宮を後にした。


 ◇


「……というわけで、空さんもイギリスに行きませんか?」


 あっれえ、おかしいな……


 ここ一月食卓で見慣れた津奈ちゃんから俺はそんな言葉を聞きながら、顔面の表情が抜け落ちるのをどこか他人事のように感じていた。


 誰か助けてくれる人は居ないかと辺りを見渡してみるも、桜はキッチンで夕食の準備をしているし、鏡花さんはいつものように自室で動画の編集をしてくれている。

 セツナに至っては最近は世界大会のこともあってそもそも家に居ない。


「因みにどういうわけで?」

「もう!ちゃんと聞いててくださいよ!……えっと、そろそろ途中だったイギリスの迷宮を制覇しときたいなって思ったんですけど、この前はソロの限界もあってか26階層で一旦中断したんですが、ほら最近は空さんも上級迷宮で安定して潜っているのは知っているので丁度いいかと思って」


 すっとぼけても、同じ説明を津奈ちゃんに繰り返しされてしまう。


「いやいやいや、ほらやっぱり上級と津奈ちゃんが諦めた迷宮じゃ流石に、ねえ?」

「行けますよ!ほら、あんまり上級以上はあんまり難易度の違い無いので、ね?ほとんど我慢比べなので」


 ね?じゃあ無いんだよなぁ


「いやあ、俺もほらARの関係とかVPEXの動画も撮らないと行けなかったりするし、忙しいので」

「ARの仕事で大きいのは当分はいって無いって桜さんが言ってましたし、動画も撮り溜め分で一月は持つって鏡花さんが言ってましたよ?」


 裏切り者がいるぞ!


 鏡花さんは自室なので仕方なくキッチンにいる桜にツイと視線を送るも、桜は目を逸らして下手糞な口笛を吹いている。

 何というか上二人はなんだかんだ言ってセツナ然り妙に年下組を甘やかす節がある。


「……学校が」

「私も休むので、ね?駄目、ですか?」


 クソ……可愛いっ


 もはやわざとらしい程目を潤ませて上目遣いで覗き込んでくる津奈ちゃんにじりじりと距離を詰められ俺は目を逸らす。


 実際ウチの学校は普通科にも芸事関係で仕事を休むことに理解のある学校なので、きっとかの有名な渡邉津奈の迷宮探索のサポートと言えば公欠扱いにしてくれるのはこれまで何度かARの関係で公欠にしてもらったことのある俺が一番わかっていた。


「ほら、師匠の頼みだと思ってくださいよ~」


 ぐ、それを言われると地味に効く。


 セツナの知り合いということもあるだろうが、ただの趣味のつもりの俺の為に色々と津奈ちゃんは丁寧に教えてくれていたし、少しは協力するのが筋な気がしてくる。

 イギリスの迷宮がどれほど高難易度なのかは知らないが、迷宮内で死んだと言って滅茶苦茶痛いだけで命の危険は無いわけだし、実際はノーリスクと言える。


 むしろ、イギリスの迷宮を初制覇ともなれば、きっと何処からかスポンサードを受けることも出来るだろうしそれも加味すればノーリスクハイリターンである。


「まあ、学校が休めれば……」


 出来るだけ遊びに行く感じのテンションでそれじゃあ公欠は無理だと言われるように伝えよう。


 よし、そうしよう。


「本当ですか!やった!それじゃあまた予定が決まったら連絡しますね?」

「あ、うん」


 意地の悪い事を考えて言ったのにもかかわらず思ったより素直に喜ばれてしまって、少し悪い気がしてくる。


「二人とも出来たよ~、空君は鏡花さん呼んできて~」


 俺達二人が話していると桜からそんな声が掛かって、ひとまずこの話は置いておいて俺は鏡花さんの自室に呼びに行くためにソファーから腰を上げる。


 ダイジョブダイジョブ多分公欠取れんって。ウン。



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