【六十八話】そりゃそうだ
「おぉ~すっご」
ネットで検索したお店の近くのコインパーキングで車を止めてもらい、ダンジョン用品店はどんなものなのかと内心ウキウキしながら、歩くこと数分。
俺は当たり前だが前世では全く縁の無かったダンジョン用品店と言う物を目の前にして、語彙力が完全になくなった感想を漏らした。
それも仕方のないことで、目的の店「メイズ」はまず店の中に入る前から入り口の両隣であるガラス張りのショーケースには明らかに見ればわかる高級品の気配を漂わせる日本刀のような物や、西洋の剣が陳列されていてこんな店が普通の商店街に店を構えているこの状況は余りに非現実感に満ち溢れすぎていた。
「しゃあせ~」
恐る恐るメイズの入り口に手を掛けて店の中に足を踏み入れると、店内は入り口以上に武器や、色々な装備が並んでおりついきょろきょろと初めて都会に来た田舎の人の様に視線が行ったり来たりしてしまう。
店員さんは俺みたいな客にも慣れているのか、それなりに雑な挨拶をしてくれるが、今の俺にはそれに返事を返す余裕は無かった。
「何かお探しですかー?」
店内を見渡すだけで立ち尽くしている俺を見かねて店員さんが俺に話しかけてきた事によってはじめて俺は余りにロマンあふれる店内を見渡して飛ばしていた意識を取り戻した。
「……えっと、今度初めてダンジョンに潜ろうとおもってて」
「あー、初心者用はこっちですね」
アルバイトだろうか、大学生ぐらいの店員さんは店内の少し奥の方を指さして俺に教えてくれた。
「もしあれなら、一緒に選びましょうか?」
「お願いしても良いですか?ほんとに右も左も分からなくて……」
「全然いいっすよ。最初は皆そんなもんなんで」
その店員さんは、指さすだけでなく一緒に選んでくれるようでスタスタと慣れた様子で先ほど自分で指さしていた初心者用のコーナーに向かって歩いて行くので俺も置いて行かれないように店員のお兄さんの後を追った。
「この辺は全部各メーカーが出してる廉価なんがほとんどなんで、好きに選んでも失敗は無いと思いますよ」
初心者用のエリアに到着してお兄さんは一度手に取られたのか少し棚からずれているインナーのような物を直して言った。
「あの、今のところ一人で入るつもりなんですけど、どれがおすすめとかってありますか?」
何を選んでも失敗は無いと言われても壁に掛かるショーケースに飾られていたものと比べると少し簡素な日本刀や剣に視線が行くばかりで困ってしまうので、大人しく専門家の意見を聞くことにした。
「えー……一人かぁ、まぁ近接が良いと思いますよ、これとか」
そう言ってお兄さんが軽い調子で壁に掛かったロングソードのような剣を俺に手渡してくるので、恐る恐る手に取ってその剣の重さに少し驚愕するが鉄の塊だと思えばそれも当たり前だった。そして剣をよく見ると所謂刃引きがされていた。
「というか、これって刃引きされてるんですね」
「まぁ、刃がついてたら人殺せちゃいますしね。……まぁ刃引きされてても思いっきりやれば殺せるんですけど」
これで魔物?にダメージを与えられるのかと思って聞いたことだったが思っていたより当たり前の返事が返ってきた。
というかぼそっと殺せるとか言われると怖いんですけど。
「あ、別にこれが廉価版だから刃引きされてるわけじゃないんで、プロ仕様でもこうなんで」
「へぇ、そうなんですね」
「しかも、迷宮管理事務所に持っていったら謎技術でダンジョン内でのみ切れるようになるんで」
「謎技術って……」
「いや、マジなんすよ。管理事務の人も科学者もなんでそうなるのかは未だに解明できないらしくて巷では神様がそうしたって囁かれてますよ」
お兄さんが大っぴらに謎技術なんて言う物だから少し呆れた返事をしてしまったが、言葉通り謎技術だそうで最近は連絡を取っていないがあの神様が上手い事やってるんだろうなと自分だけ納得してしまった。
「ま、そんな感じで値段には切れ味とか全く関係ないんで、プロでも廉価版を好んで使ってる人も居ますよ」
「そんな結構雑な感じなんですねぇ、てっきり命を預けるものだから高い物の方が良いのかと」
「そもそも、死なないんでね」
流石に身も蓋もない事を言われてしまって俺も閉口してしまう。
ダンジョンに挑む人はこんな軽いテンションで死ぬとか死なないとか言うのか。
「ま、そんなこんなでマジでなんでも好きな風に選ぶのが良いと思いますよ、慣れてきたらお洒落がてらちょっと高い奴買うみたいな感じで……あ、まぁその時はウチでお願いしますよ」
「あはは、まぁその時は是非。取り敢えず、刀が見てみたいです」
「お、お兄さんも行ける口っすね。カッコいいですもんねぇ刀やっぱり日本男児としては使わずにはいられないって感じで」
「……まぁそうですね」
何だか饒舌になったお兄さんとは裏腹に少し気恥ずかしさを感じてしまう。
良いだろ日本刀!カッコいいもん
「……ただ、あんまりおすすめ出来ないんすよね~」
「え、そうなんですか?」
ウキウキしだしたお兄さんが不意に少し困った様子で言ったので理由が気になってしまう。
「やっぱり、日本刀って西洋の剣と比べると扱いずらいし、ちょっと扱いミスると歪んだりするんで、欠けたりとかはあんま関係ないんですけど」
「歪むとやっぱり切れ味とか落ちるんですか?切れ味って言うのもなんですけど」
「いや、鞘に入らんす」
「あぁ……」
何となく歪むと聞いて謎技術で切れるようになるのに歪みとかが関係するのかと不思議で聞いてみたが店内の非現実感とは関係なしに割と現実的な悩みだった。
「まぁ、それを差し置いても刀はカッコいいんで売れ筋なんですけどね~。扱いだってちょっと居合とか刀に関係する道場に通えば問題ないんで」
「あぁ、その程度なんですね……じゃあやっぱり刀にしようかな……」
「もしあれなら近場の道場とかも紹介できますよ?」
「それじゃあそれもお願いしても良いですか?」
当たり前と言えば当たり前の話で使えないなら使えるように練習すれば使えるし、ダンジョンに必要な技術がダンジョン関係の物を取り扱う店とそういう技術を教えてくれる道場と関係があるのは当然の事だった。
俺は壁に掛かっている中で鞘の色が白色で不思議と目を引いた一本の刀を手に取って軽く振ってみるが素人でも何というか振りやすかったのでこれを買うことにした。
「お、それYATUKAの新色っすよ、センスいいっすねYATUKAのは使いやすいし良いと思います」
「そうですか?」
「まじっす」
お世辞かもしれないが褒められるとなんだか嬉しかった。
その他にも必要な物をお兄さんに聞くと、防具に関しては多少モロに攻撃を食らった時以外はダンジョン内で転んだ時ぐらいにしか役に立たないと教えてもらったので薄めのインナープロテクターとこれまた武器と同じように謎技術で登録するといくばくか頑丈になるという動きやすい薄手のダンジョン用の服を購入して、その他にも刀をしまう用のキャリーケースや、細々としたものをお兄さんに言われるまま選んでいったおかげで、趣味の初期投資にしては結構馬鹿にならない金額になってしまった。
お兄さんが商売上手なのか、俺の財布のひもが緩すぎるのか購入したものは後日郵送で送られるとのことで店を出た俺の持ち物は道場のチラシのみだった。
その他にも、ダンジョンに潜る前に申請するために必要な書類や、ダンジョンまで刃引きされているとは言え刀剣を持ち運ぶ為にも役所に届け出が必要だったりととにかく色々申請しなければいけない事を教えてもらっていたら、思っていたよりも遅くなってしまった。
「等々力さん待ってるだろうし早く行くか……」
何となく色々と買ったのにも関わらず手元に残ったのはチラシ一枚という事実に少し寂しさを感じながら俺はコインパーキングに向かった。




