【五十四話】姦しいって言うか、疎外感
「すいません!遅れました!」
俺達は一旦荷物を部屋の片隅に置き、座椅子に座って話をしていると何だか桜と鏡花さんが二人で内緒話を始めてしまったので俺は一人ぼーっと外の眺めを見ていると、スパーンと襖が音を立てているんじゃないかと錯覚してしまうほどの勢いで開いた。
俺達三人は一斉にその襖が開いた音で「びくっ」っと肩を跳ね上げて襖の方を見つめると、案の定遅刻していた明星さんが額に少し汗を滲ませながら深いお辞儀をしていた。
お辞儀をしているためよく顔は見えないが、水にぬれているかのような綺麗な濡れ羽色の髪の毛の間から覗くまつげの長さと化粧をしているのだろうか、少し赤い唇が印象に残った。
「綺羅ちゃん会いたかったよ~とりあえず、座りなよ~」
三人の中で最初に口を開いたのは鏡花さんだった。
鏡花さんは残り一つの座椅子に向かって手のひらを向け明星さんを誘導する。
「ほわ~……あ、はい!」
明星さんはなぜか俺達三人を見て少し間抜けな呟きをしたが、途中で意識が戻ったかのようにハッとしてキャリーバックを俺たちの荷物の隣に寄せて座椅子に座る。
「……ねぇ、空君。あの人が明星さん?なんで着物なの?」
俺達が微妙な空気で座椅子に座る明星さんを眺めて居ると、桜が明星さんの格好を不思議に思ったのか俺の耳元でそう呟く。
「……わかんない。」
そう。明星さんは白い生地に薄ピンクの花の模様が入った着物を纏っていた。
なぜと桜に聞かれたところで勿論俺も明星さんと会うのは今日が初めてだし、正直に分からないと答えるしかできなかった。
「……今日は本当にすいませんでした!昨日ちょっと眠れなくて……」
明星さんは座椅子に座るや否やそう言った。
「全然いいよ~。ね?」
鏡花さんが俺達にも同意を求めてきたので俺達も同意する。
「本当に大丈夫ですよ。」
「そうですよ~」
明星さんはまだ何か言いたいそうにしていたが、飲み込んだ様だ。
「それより、綺羅ちゃん。お名前教えて欲しいな~」
鏡花さんが明星さんの様子を見てかいつにもまして明るくそう言った。
「……はい。柊 一葉18歳です。よろしくお願いします」
柊さんは自己紹介をして、品の有るお辞儀をした。
「一葉ちゃんね、よろしく~僕は、ミラーこと真壁鏡花です」
「鏡花さん、よろしくお願いします!」
鏡花さんが柊さんの自己紹介に続いて自身の自己紹介をしていたので俺も自己紹介をすることにする。
「柊さん初めまして、skyこと、硯空です。よろしくお願いします」
「あ、私も~。硯桜です!よろしくね~一葉ちゃん!」
「美男美女……」
「どうしたの?」
柊さんは俺と桜の自己紹介を聞いて何か呟いたが、俺には柊さんが何と言っているのか聞き取れなかった。桜にもそれは聞こえなかったようで、聞き返すと柊さんは急いできたせいか少し赤らんだ頬をパタパタと手で仰ぎながら少し慌てた様子で口を開いた。
「い、いえ!何でもないです!あと、私に敬語は要らないですよ!多分お二人とも私よりも年上ですよね?」
「あはは、私は確かに19歳で年上だけど、空君はまだ15歳だよ~」
「……えぇ!?空さん15歳なんですか!?」
桜が笑いながらそう言うと柊さんは酷く驚いた様子でそう言った。15歳と聞いてそこまで驚かれるとなんだか釈然としない。
「15歳です。一応?」
「結婚していると聞いたので、年上だと思ってました……」
「まぁ私は結婚してても不思議じゃない歳だけど。、空君の15歳は早いよねぇ」
桜の言葉を聞いて柊さんはこくこくと頷いていた。
というか、明星さんに俺の年齢って言ってなかったっけ?あまりにも柊さんが驚いているのでそう思ってしまった。
「で、でも!敬語は結構です!」
「……そこまで言うなら、敬語使わないようにするけど」
一葉さんが俺の方に顔を向けて言ってきたので、俺は改めてきちんと一葉さんの顔を見ることとなった。
まつげの長さと唇は先ほども目がいってしまったので、何か思うことは無いが、何というか一葉さんの表情とは裏腹に少し細めの目や化粧をしているのにも関わらず肌の綺麗さが分かってしまって少し緊張してしまう。
「はい!それでよろしくお願いします!」
「というか、それならこの中で僕が一番年上になるんだ」
俺と柊さんが話していると、鏡花さんが思い出したかのように言った。
「確か、鏡花さんは20歳でしたよね?」
「そうそう。てか、よく覚えてたね~一度話に出しただけなのに」
俺がうろ覚えではあるが、VPEXを二人でやっていた時に話したことを思い出しながら、確認すると鏡花さんはなぜかにやにやとしながら言った。
「僕が20、桜ちゃんが19、一葉ちゃんが18、空君が15。あはは、空君が一番年下だね~」
「なんですか急に」
「い~や。別にぃ?年上好きの空君には嬉しい環境だなって思ってさ~」
「確かに俺は年上の方が好きかもだけど、だからと言って、二人に何か思うことは無いですよ」
「へぇ、何か僕や、一葉ちゃんみたいな美女に囲まれても何も思わないんだ?ふ~ん?……桜ちゃんはどう思う?空君はこう言ってるけど」
俺から標的を桜に移した鏡花さんは揶揄うように言った。
話を振られた桜はちらりと俺の表情を見て、少し笑いながら口を開いた。
「あれは意外と嬉しがってる顔だねぇ~」
「えぇ!?空さん、そうなんですか?」
「奥さんはそう言ってるけど~?」
案外興味深そうにしていた一葉さんは意外だが、相変わらずにやにやとした鏡花さんと、完全に面白がっている桜の三人に詰め寄られてしまって、俺は観念するしかない。
「……まぁ、確かに二人は綺麗ですよね、びっくりしましたよ」
「きゃあ~」
少し照れたように顔を赤らめて俯く一葉さん
「空君流石!」
楽しそうに笑って言う桜
「ふんふん。空君がそう思ってくれてお姉さん嬉しいよ~」
満足そうに笑っていう鏡花さん
女の人が三人集まれば姦しいなんて言うが、その言葉通りの状態である。
男は俺一人なのでどこにも味方はいない。今度は一葉さんも参加して三人でこそこそと内緒話を楽しんでいるようなのでとにかく俺は話を変えようとする。
「……まぁ、それは置いておいて、温泉行きません?確か貸切の温泉あるんですよね?」
「……ん?あぁそうみたいだね~。僕たちはまだ話してるから、空君一人で行ってきなよ、ひと段落したら僕たちも入りにいくからさ」
「そうだね~、行ってらっしゃい」
「……すいません、お話が面白くて……」
鏡花さんが内緒話から一旦外れて顔だけ俺の方に向けて言って、二人もそれに賛成のようだ。俺の提案は女子三人でのお話に負け、すげなくあしらわれてしまった。
俺は一人で行ってこいと言われてしまったので、なんだか切なくなりながらも持ってきたキャリーケースを開いてタオルを持って温泉に入りに行くことにした。俺がそうしてキャリーケースを漁っている間も三人は楽しそうに話していて余計に切なくなってしまった。
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