【二十九話】黒木ィ?
まだまだいきます。
「「「これから、よろしく~」」」
3人でコップをカツンとぶつけて、歓迎会が始まった。テーブルの上にはオードブルとお菓子たちが所狭しと置かれている。
「等々力さん来れないの残念だね~」
「まあ、用事あるらしいし」
「しょうがないとは思うけど~」
夏が等々力さんも来ないかと誘っていたが、等々力さんはこれから用事があるようで、断られてしまった。
夏は等々力さんになついていて車の中でも等々力さんとよく話していた。何かしらのシンパシーが合ったのだろう。
「私は、硯が住んでる家のでかさにビビったけど」
黒木が携帯で机の上の写真を撮りながらそう言った。
「あ、確かに!株とFXだっけ?私にはよくわからない世界だけど、凄いよね!」
夏も同じ気持ちのようだ。
「運がよかったんだよ」
「え~そうなの?」
「そうそう」
俺は二人にそう返すことしかできなかった。運がよかった俺が今こんな生活をしているのはその一言で説明できるだろう。
「そんな事より、私はこのテレビで映画見てみたいな」
黒木は俺の話に興味がないようでテレビの方を見ながらそう言った。
「あ~加奈ちゃん映画好きだもんね~」
「え、そうなの?俺映画とか知らないから、おすすめの教えてよ」
黒木の映画好きと言うのは俺にとっては意外な物ではあったが、夏は既に知っていたようだ。
「まぁ、でも硯が気に入るかどうかは知らないけど」
「いいよいいよ!黒木がどんな映画見るのか気になるし!」
「ま、まあそういう事なら……」
黒木は俺がそこまで黒木の話に食いつくとは思っていなかったようで、少し照れながら、赤くなった頬を掻いていた。
俺はその黒木の照れ方を見て、黒木も照れたりするんだななんて思っていると夏から追加情報が出てきた。
「加奈ちゃんの家DVDとかブルーレイとか沢山あるもんね~!」
「マジか!じゃあまた今度持ってきて見ようよ!」
「面白いかは、しらないよ?」
黒木はまだ照れながらそう言ったが俺は黒木がどんな映画を見るのか気になって仕方がなかったので、正直なところ、面白いか面白くないかは重要ではない。
「大丈夫だって!加奈ちゃんの家でみた映画全部面白かったし!」
「いや、夏はアクションでドカンドカンしてればなんでも楽しいって言うじゃん」
「アクション面白いじゃん~空君もそう思うよね?」
どうやら夏はアクション映画が好きなようで、そのことを俺にも聞いてきた。
俺はそもそも映画はほとんど見たことがない。精々金曜ロードショーでやっているジブリとかしか見たことがない。
「まあ、アクションは見てて楽しいよな」
「だよね!だよね!ほら、加奈ちゃん空君もアクション好きだって!」
「いや、硯はアクション好きとは言ってないでしょ……」
黒木は少し呆れながら、夏にそう言っていた。確かに俺もアクションが特別好きなわけではない。
夏はその黒木の言葉を聞いてこの世の終わりみたいな表情で俺の方を見てきた。
捨てられている子犬みたいな目で。
「ま、まあ?アクション好きだよ。俺も」
俺がそう言うと夏はぱあっと表情を明るくした。
俺が何とか機嫌を取れたと思っていると、黒木が俺たちのそんな様子を見て小さくため息をついているのが見えた。
「そういえば、夏と黒木だいぶ仲いいよな?いつからの知り合いなんだ?」
俺がそう言うと二人は顔を見合わせた。
「えっと、加奈ちゃんと私の家が隣なんだ!だから幼馴染みたいな感じ!」
「ほんとの腐れ縁だよね……私と夏は」
「え~腐れ縁なんてひどいよ!大親友だよね?ね?」
「腐れ縁!」
俺が質問したは良いが俺が口をはさむ暇もないほどに二人は盛り上がっていた。
「仲いいな~」
俺がそう言うと二人は腐れ縁か大親友かの戦いを一度辞めて俺の方を見てきた。
「……まあね。16年も一緒だから。」
「16年一緒じゃなくても、私と加奈ちゃんは親友になってたよ~」
二人の間で認識の齟齬があるみたいではあるが、俺から見ると出会って1日ではあるが息は完璧にあっていて、仲がいいのは間違いないと俺でも思った。
「へぇ。ちょっと羨ましいな~」
「これから私も空君と親友になるつもりだけど?」
俺がそう言うと夏が当たり前かのようにそう言った。俺は黒木の方をちらりと見ると黒木も夏と同じように思ってくれているようで小さくうなずいていた。
「それは嬉しいなぁ」
「……まあ男女の友情は成立しないっていうけど」
俺が夏の優しさに感動していると、黒木がポツリと不安な一言を放った。
そう言うとこだぞ黒木ィ……
「もうっ!加奈ちゃんはひねくれてるんだから」
俺も夏とおんなじ気もちだ。
「その前例を俺たちが覆すんだよ!な、黒木?」
「ないなぁ。ないない」
黒木ィ
「あはは、大丈夫!加奈ちゃんはひねくれてるけど、普通仲良くしたくない人の家にまで来ないから!」
「……はぁ!?ち、違うし!ただ、夏が硯の家に行くって言ってたから!それだけ!」
夏のその言葉は黒木にとって図星のようで黒木は初めて見るぐらいにテンパってしまった。俺はその黒木の可愛らしく困惑する様子を見て可愛らしさと優位感でにやにやとしてしまうが、俺のその顔を見て黒木は更に照れてしまっていた。
黒木ィ?
黒木が照れてテンパっている姿は非常に眼福だったと言っておこう。
――――――――
時計の針は既に8時を少し過ぎた辺りを指していた。
「は~食べた食べた」
夏はその可愛らしいお腹をポンポンとしながらそう言った。どこかのサイヤ人かな?
夏がそう言うのも無理はない。もうすでにテーブルの上のオードブルは食べ終わっていて、その後のケーキも皆食べ終わっていたのだ。
「確かにもうお腹いっぱい」
黒木もお腹を叩きこそしないが、夏と同様に満腹なようだった。
「じゃあそろそろ、お開きにする?」
「「賛成~」」
俺も結構お腹がいっぱいと言うこともありお開きを二人に提案すると、二人とも賛成してくれた。
皆で手分けしてテーブルを片付けることにする。話しながら片付けをしていたので少し時間が掛かってしまったが、何とか片付けが完了した。
「もしよければ俺が家まで送ろうか?」
「あー、どうする?夏?」
「ん?送ってもらおうよ!この辺治安良いとはいえちょっと怖いし。」
「ま、多分加賀見ガードがあるから大丈夫だとは思うけど、一応ね」
俺が、女の子二人きりで返すわけには行かないと思ったのでそう申し出たが、二人とも賛成してくれた。
てか、加賀見ガードはこんな時間でも発動するのか……
「わざわざありがとね?」
俺が送ることに許可が下りたので、3人でそろって帰り道を歩いていると、夏がそう言った。
「いや、全然!好きでやってることだし。それに二人みたいな美少女を送らないって選択肢は無いしね?」
「よく言うよ」
俺が少しふざけながら言うと、黒木が噛み付いてきた。
「加奈ちゃん!せっかく空君が送ってくれてるんだから、そういう事言わないの!」
「はいはい」
夏が黒木に対して注意のようなものをしていたが、黒木には聞いていないようで聞き流されていた。
「冗談抜きで、二人きりで帰らすつもりは無かったから。」
間違いない俺の本心だった。これで何かあって加賀見ガードを貫通して俺の家からの帰り道で何かしらの傷を負ったなんてことになったら俺が俺を許せなくなる。
「うん!ありがとね!」
「……さんきゅ」
俺の本心からの言葉と言うのは二人にも伝わったようだった。少し黒木の返事が軽い気がしたが、それも含めて黒木だと思うことにした。
「じゃ、私たちの家あれだから!ありがとね!また明日!」
「また明日ー」
3人で10分ほど歩いていると、夏と黒木の家はもうすでに近くに来ていたようで、夏が一軒家を指さしながらそう言った。
その家を見ると隣にも少し似ている家が建っており、あれが黒木の家か。なんて思った。
「おう!また明日~」
俺は二人の振っている手に返事をするように手を振った。
「ど、どうも」
二人がそれぞれの家に入っていくのを見届けてから、家に帰ろうと振り向くと急に話しかけられた。
「二人を、送って、くれ、てありがと、う」
話しかけてきたのは加賀見君だった。
こわ。こいつマジで加賀見ファンネルとして動いてんだな。
「お、おう。加賀見君か良いよ別に。てか、今日加賀見君も来ればよかったのに」
そう俺たちは一応加賀見君も放課後誘っていたのだが、加賀見君には二人と遊ぶなんて恐れ多いと言って断られてしまったのだ。
「ぼ、僕は、二人を、見守り、たいだけ、だから。」
「そ、そうか。じゃあまた明日学校で!」
「あ、う、うん、また明日学校、で」
俺は少し加賀見君の口調が移るのを感じながら、加賀見君に挨拶をすると。加賀見君も返事をしてくれた。
そう言えば今日の歓迎会の時に聞いた話だが加賀見君は二人の両親に挨拶して二人を陰ながら護衛をすることに許可をもらっているらしい。
俺はストーカーと言うよりは忍者だな。なんて思っていたけど、気配の消し方といいきちんと夜でも二人を護衛しているのを直に見るとあながち間違いではない気がしてきた。
加賀見君のやっている武術とやらは忍術修行なのかもしれない。




