【三十話】初めてばっかり
加賀見君と別れ、少し日が落ちて暗くなりつつある道を一人で歩いていると携帯がブルっと震えた。
俺は携帯を取り出し、確認すると。桜さんからのLINEだった。
桜さんとはあの自然公園でのピクニックデートの後もちょこちょこLINEはしていたが、今送られてきたLINEは あの日言っていたことの核心に迫る内容だった。
桜『今日、空君の家に行ってもいい?』
俺はその桜さんからのLINEを確認してまず思ったのは下心ではなく、ついに頼ると言っていたことがこれから起きるのだろうと思った。
空『いいですよ!何時ごろ来ますか?』
俺は今日何が起きるのかと少し緊張しながらもそう返した。
俺は送信した後も桜さんとのLINEの画面を見つめ、返信を少し待ってみるが、俺のメッセージに既読は付かなかった。
あの時のように何かあったのではないかと心配になってきて、電話でもしようかと思い始めたころにLINEに新しいメッセージが来た。
桜『もしよければ、今から』
桜さんはどうやら、今から家に来たいようだが、俺も今夏と黒木を送ってきた帰りで、まだ家までは少し掛かる。
空『僕、今外に出ているので、九時ぐらいなら大丈夫です』
桜『分かった。それくらいに行くね』
今度は桜さんは直ぐに返してくれた。
俺はそのLINEを見て少しでも早く家に着きたかったので、少しずつ小走りになり、ついには走って家に向かう。
走って家に帰って時計を確認すると、現在八時四十分どうにか約束の時間よりは早く家に帰ってきて来れたようだ。
俺は時間を確認して、桜さんに今から大丈夫と言う旨をLINEした。
――――――――ピンポーン
俺のLINEに桜さんからの返信があって少し待つとインターホンが桜さんの来訪を伝えてきた。
俺は急いで玄関の扉を開けると、桜さんが立っていた。ただ、少しいつもの桜さんとは違う点があった。
肩から下げているパンパンにふくらんだ鞄、足元に置かれているどこか旅行にでも行くのかと聞きたくなるほど大きなキャリーバッグ。
俺はその二つの荷物を見て桜さんんの顔を見るが、桜さんは少し申し訳なさそうに眉をハの字にへにゃりと下げてしまった。
「……えと、取り敢えず入ります?」
「……うん」
桜さんと出会ってから、初めてと言っても過言ではないほどぎこちないやり取りを経て、桜さんを俺は部屋の中に案内した。
「広いね……このおうち」
桜さんはリビングのソファーに座るとそう言った。
「まあね、今日はどうしたの?そんなに大荷物でさ」
俺も桜さん隣に腰を下ろして、玄関で桜さんを見た時から気になっていた事を桜さんに質問した。
桜さんは俺の質問に玄関でした表情と似てはいるが少し違う表情で口を開いた。
「あのね?私、家……追い出されちゃった。」
俺には最初桜さんが何を言っているのか分からなかった。
「……それはまた、なんで?」
「ほら、自然公園に行ったときに言ったと思うんだけど、自分で解決するって」
確かに桜さんは自分が臆病なせいで、先延ばしにしてきた問題があるとは言っていた。
「それを、さ。勇気を出して解決しようとしたら、こじれちゃった。」
「それは何となく荷物の量とかで分かるけど……俺そもそも桜さんの問題知らないから、なんとも」
「あ、そっか。まあ簡単に言えば親の事なんだけど、うちの親って私を幸せにしたいのは分かるんだけど、何というか過剰、なんだよね」
桜さんが言った言葉が何となく俺の中で腑に落ちた。確かに桜さんはピクニックの日に誰と何処に行くのか聞かれていたことを思い出したからだ。
「それで、婚約者みたいなのも勝手に決められてて」
桜さんが何でもないように言った言葉は俺にとっては衝撃の事実だった。
「……え、婚約者?」
「そうなんだよね。お父さんの会社の社長の息子さんなんだけど、将来も安心だからその人と結婚しなさい!みたいな」
「それって、今俺の家に来て大丈夫なの?」
俺にはそれが疑問だった。仮にも婚約者がいるなら俺の家に来るのはまずいのではないか?と
「うん。大丈夫。今日その人と家族同士でご飯だったけど、その時に断ってきたから」
「え!?それこそ大丈夫なの?」
「……大丈夫じゃないから、今空君に頼ってる」
桜さんの今している表情を表現する言葉がさっきは思いつかなかったが今分かった。
多分桜さんは疲れていたのだ。
「頼ってほしいって言ったのは俺だから、全然構わないんだけど……」
「……迷惑、だよね?」
「それは無い。それに好きな人に頼られるのが迷惑なんてことは無いから」
「……あ、やっと好きって言ってくれた」
俺は桜さんが泣きそうな顔で迷惑だなんて言ってきたので俺が思っていたことを即答した時に今まで思ってはいても何となく言葉にできなった思いを口走ったことを桜さんのその言葉で初めて理解した。
桜さんは俺の間抜けな告白を聞いて凄く嬉しそうに笑った。
理由はどうあれ、初めて今日桜さんの笑顔を見て、そのことがとても嬉しいことに思えて、俺が桜さんのことが好きだということを再確認した。
「……本心だから」
「うん。知ってる。私も空君の事好きだよ」
俺がそう言うと桜さんも同じように繰り返し、俺の唇に桜さんの唇が重なった。
「んっ、食事会の時、私が断ったら雰囲気最悪になっちゃって、家に帰ったら初めてお父さんに叩かれたんだ」
俺たちは何度も唇を合わせて、離してを繰り返す。
「痛くない?」
「うん。痛くないよ」
俺が桜さんの頬に手を添えると桜さんは俺の添えた手に自分の手のひらを重ね合わせ、俺たちは引き合わされるように顔を近づけキスをした後、桜さんは言った。
「それで、私勘当されちゃった。私今日から一人になっちゃった。」
そう言っているときの桜さんの表情はキスをしているときの蕩けるような表情では無く、とても悲しそうな表情をしていた。
俺はそんな表情をしている桜さんに返す言葉が見当たらなかった。ただ俺にできることは桜さんの手のひらを握り、少しでも俺の存在を主張することしかなかった。
「……桜さん」
「そんな呼び方やだ、桜って呼んで」
「……桜」
俺が桜さんに言われて桜と呼ぶと桜は満足した表情をして何度目か分からない口づけをした。
キスをしながら俺も覚悟を決めた。
「俺、桜を一人にしないから。」
「あは、結婚でもする?」
俺が覚悟を決めて宣言すると桜はいつか見た時のようにふわりと笑ってそう言った。
「しようか、結婚。俺が18になったら」
「なんで?今すぐしようよ」
「え?なんで?まだ出来ないでしょ?」
「できるよ?」
桜のその言葉を聞いて俺と桜は二人で首をかしげてしまった。どうやらこの世界には18歳以下は結婚できないという法律は無いらしい。神様……
「ま、まあ問題ないなら、結婚する?」
神様がいい加減に世界を作ったことを今知ってしまって少し呆れてしまった。
「私、硯 桜になるんだね」
「そうなるかな?変かな?」
「全然。素敵だよ」
桜はそう言ってキスをしてくれた。
それからのおれたちの間に羞恥心なんてなかった。
何度も何度もキスをした。
「ね、ベッド行こっか?」
俺から唇を離してとろんとした瞳で桜がそう言った。俺は桜のその表情と言葉を聞いて無言で頷き寝室に桜と手を繋いで向かった。
桜と俺は寝室のベッドに座り、先ほどの口付けとは違いより深くつながろうと舌を絡めた口付けを交わし始める。
「んぁ……ねぇ、私……もういいよ?」
どれだけ長く深く口付けをしていただろうか桜が俺との間に銀糸を残しながら口を離して小さな声でそう言った。
俺はその言葉を聞いて固まってしまった。固まってしまった俺を見て桜は少し口角を上げ俺の理性に決定的な一撃となる一言を放った。
「……もっと……私を空君だけの物にして?」




