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第22話 心が乾くとボランティアしがち

ますます桝添増すマスマスマフィン。

 星馬暦1000年-ピアリハ74年、9月19日早朝。


 ヒューナフ農国の玄関、ハルーの町。


「短い間でしたが、お世話になりました!」


 一行を代表し、キャスクが挨拶した。その相手はアイダンス家の者たち、それにそこで働く下働きの中でも手が空いている何名かだった。

 残念ながら、ガベーデンは見送りに来られなかった。昨日から急な発熱で、病床に臥していたからだ。


「皆さんの旅のご無事をお祈りします。カイゼヘーブ神の加護が、常しえに皆さんを生きる強さで満たし続けん事を」


 ラビックは、アイダンス家の一同を代表してそんな祈りの言葉を別れの挨拶に替えた。


 その時、ふとキャスクはアイダンス家の屋敷を改めて見上げた。すっかり修理された2階の窓が、朝日を受けてつやりと光っているのが清清しい。


(また、来れるよ…ね)


 投獄など帝聖国での苦い経験で、素直にピュクトらとの再会を期待しすぎてはいけないのではないか、という思いをキャスクは振り切った。


(絶対にまた会える。そのためにも…もっと強くならなくては)


 強敵ハルバードとの出会いを経て、更なる修行を決意するキャスクなのだった。






 関所の近くまで歩いて来た一行。するとライドーンが口を開いた。


「なあ、みんなっち。ヒューナフ農国に来たからにゃ、もっと色んな国を見て行かねえべか?」

「良いですね、それ」

「そうね。ライにしては、まあまあ名案よ」

「確かに。折角だから、キキマン大陸に今すぐ向かうより社会勉強していきたいよね」


 キャスクだけは微妙にピントがずれている。皆、そうとは言わないが主に観光目的のつもりだ。ただ、万年金欠パーティーゆえにキャスクの理屈にも一理ある。


 アイダンス家に滞在している間、宿泊や食事はラビックが立て替えてくれていた。「出世払いで構いません…なんてね。期待せず待ちます」そう言っていたラビックの気前のよさは、やはり商売人の懐の広さなのだろう。

 更に、訛りの強い隣家の主人を手伝い、稲刈りをした謝礼の一部として、2日手伝ったため1日あたり紙幣2枚、しめて紙幣4枚を得た。


「すみません、皆さん。私が加わったばかりに出費が増えますよね」


 お金の話になると、トリティはいつも申し訳なさそうに頭を下げる。最早、それは一種の癖と言っても過言ではなかった。


「何じゃそりゃ。そんなモン、別にトリっちでなくとも同じ理屈だべ。自分を責めすぎんなって」

「…ジュニアさん!」

「ジョニアな」


 一行はヒューナフ農国を観光するため、停まっていた馬車に乗った。


「ぐるっと一周、回れるだけ行ってちょうだいな」


 プルーツが御者に指事を出した。御者とは、馬車の運転手のことだ。


「へえ、承知しました」


 御者が手綱で馬に合図すると、とことこ…と茶毛の馬が歩き出した。

 4人乗りの馬車なので値は張るが、キャスクたちには「金欠になったら稼げば良い」という気楽さがあるので、贅沢には逆に迷いがない。


 反時計回りに、ヒューナフ農国を回っていく。経済的に潤ってはいるが、この国に限らず今はどんな国でも馬車なら、半日もあれば巡りきる事が出来る。


 そうなっているのは、やはりかつてのハバナール帝国が大きすぎた反省である。王帝戦役はグマゴーバ王国が仕掛けた戦争ではあるが、ハバナール帝国の無秩序な国土拡大も戦役以前から警戒されてはいた。そして戦後は帝国の国土が大分割されたものの、帝国はかろうじてレウト島だけは死守したという形になる。


「要するに、戦に勝って世界に負けたのがハバナールなんだよ」

「おい、キャスっち。トリっちがいるっつうのに」

「良いのですよ、ジュニアさん。それは全て…確かにハバナールという国家の反省点。私自身、学舎でその事は学んできました」

「ジョニ…いや、ジュニアでいいべよ。もう…」


 ただ、ヒューナフ農国はそんなラノヴェス大陸の国家の中では国土面積に変化がない事が知られている。

 石壁に囲まれた国家建造の理念が効いたのもあり、むしろヒューナフ農国の国土規模が他のラノヴェス国家の規範となったのだ。そのため、最終的にはヒューナフ農国は、王帝戦役では農業で儲けたばかりか国づくりにも参画したと言って差し支えない。


「直に見えますは、…ドハップ。ドハップでございます」


 ガイドも兼ねる御者。たまに観光客にも似たようなサービスをするのか、その言い草は妙に慣れている様子だった。


 ドハップの町は、田畑が多いハルーに比べると市場や店舗が目立つ。


「本来はハルーをそうした町並みにする予定だったそうですが、国としての景観やイメージを大切にした結果だと言われております」

「へえ。確かにハルーに入った瞬間、農の国って感じ強めだったべよ」

「農国だからね。でも…なるほど、イメージか」


 キャスクはヤンカ村を思い出した。

 入り口も何も柵を越えればどこからでも入れる本当に小さな村は、端から見たらどんなイメージなのだろう、と彼は脳内で想像を巡らせた。


(そんな目線で故郷を思うなんて、考えてもなかった)


 ホームシックなのだろうか。キャスクは最近、ため息をつく事が増えた。


「またなの? …キャスク、さてはアンタ」

「うっ。何かな、プル」

「どっちなの?」

「えっ」

「アタシとリティちゃん、どっちに惚れたのよ」

「えっ…ち、違う。違うんだ。本当、そんなじゃないから」

「そこまで言うのは逆に傷付くから。女子はデリケートなんだからね、リティちゃん?」

「私は別に…」


 すると、ライドーンが珍しくキャスクの憂鬱の原因を言い当てた。


「はっはーん。要するに、オメエっち…心が乾いて家に帰りたいんだべ」

「そう…かもね。まあ、心が乾いたかは」

「まあまあ、まあ。心が乾くとボランティアしがちだべね」

「そことそこを繋げてきたの!?」


 ボランティアと言えば、ピュクト宅での畑仕事だろう。


「でも、ボクはちょっと稼いだからね」

「お、おう。…あ、話が逸れちまったべな」


 結局、その後もあれこれ話が脱線したが、キャスクのホームシックは少し軽くなった。

 それはライドーンの気遣いのためか、あるいは町並みが心を満たすからか、キャスク自身、よく分からないのだった。


「でも、リティちゃんも連れて、いつかはヤンカ村にも顔を出そう。アタシ、結構好きだよ。あの素朴な感じ」


 雑談は盛り上がった。しかし会話のきっかけを忘れた頃にプルーツはそうしてキャスクの故郷に触れた。

 なんだかんだで、キャスクは仲間に支えられているのだ。


「ドハップの町を出ますと、次はルン。ルンでございます」


 建物と人がせめぎ合っていたようなドハップの町を出るとすぐに次の町、ルンだ。


 ルンの町は、他国や他大陸間から来た移民が中心となって暮らす住宅街。そこからドハップや、他の町に通勤したり、ルンの町で不動産業や宗教、あるいは教育者として働く人が多い。

 住宅街とは言っても、教会や学校も散見されるのがそうした生活状況を示している。


「おっ。彼女…ちょっとお茶しねえ?」

「ライドーン=ジョニア。アンタ、何を馬車から口説いてんだ。アンタだけ追いていくよ」

「そんなあ…でも、せめてちょっとトイレ休憩は欲しいべ?」


 道行く美女とのデートは諦めたらしいが、道行く美女を眺めるため、ライドーンはまんまと体よく休憩時間を確保した。


(うっひょー。これだから旅はやめられねえ止まらねえんだべ)


 しかし鼻の下が分かりやすく伸びるため、ライドーンはやや遠巻きに通行人に避けられるのだった。


「そうだ、御者さん。お昼にオススメのお店ってありますか?」


 プルーツは御者に、昼食場所に適した店を尋ねた。彼女は語彙力に乏しいだけで、比較的グルメである。ただ、貧乏なためにそれが発揮出来ないのが常なだけだ。


(でも…今はちょっとリッチだし、良いよね)


 そして戻ってきた皆とも相談の末、2つ先の町がグルメ街なので、勧められた通りにそこにする事にしたのだった。


「ちょうどそこで1周が終わります」


 御者によれば、グルメ街を抜けると、ハルーの町に戻るらしい。


「ありがとうございます。まずは、次の町を拝見させてもらいますね」


 トリティが丁重に挨拶した。裕福かは不明さても、育ちが良い感じがするのは帝都の、そして師であるリュア=ダートスードの彼女への教育がなせる業なのだろう。もしくは、トリティの両親のおかげだ。


「そういえばさ、リティの父上と母上は…今の状況を知ってるだろうか」


 キャスクはふと、気になっていたそれを言葉にしたので、トリティも続けて答えた。


「さあ、2人とも普段は滅多に帝都にいませんから。それどころか…帝聖国にいるかどうかさえ。要するに、今の私みたいなものです」


 会話がそこに差し掛かった所で、闘技場が見えた。


「ねえ、キャスク。アンタなら優勝出来るんじゃないかな?」


 馬車には休憩に続いて再びしばらく待ってもらい、一行はルンに続く町、リートハズの大部分を占める闘技場に足を運んだ。


「キャスっち。頼んだべよ」

「今なら、リティもかなり頼もしいよ」

「わ、私ですか?」


 しかし、闘技場は魔法が禁止らしい。

 中は思いのほか広く、最大で5つの試合まで同時に開催出来るようだ。それでも予約待ちになるほど、見る側より出る側の行列が深刻である。


「無理そう…だべな」

「今度来る事があったら予約しておくよ」


 と、その時である。


「よう、そこのアンタ。強そうなアンタにとっておきの話があるんだけど、聞くか?」


 なんでも、自らを代理人と称するこの老人は、幾つかの試合予約を不正にならないように複数の代理を立てて入手し、通りすがりや旅の戦士に売っているらしい。


「つまり、それって」


 キャスクが尋ねた。そして、つまり支払いさえあれば今すぐに試合に出られるというのだ。


「出るんなら早くしておくれよ。あと数分で、午前の部の最後の予約枠が来ちまうからな」


 急かされると弱いのもあり、キャスクは闘技試合に出場する事になった。


「へへ、じゃあ金貨50ね。…まいどありぃ」






 試合はトーナメントの勝ち抜き戦だ。全部で7試合あり、優勝者に賞金が贈られる。賞金は紙幣3枚だ。


(やりすぎて建物を壊してもいけない。適当に真空斬(ブレイク)を撃って勝とう)


 そう思いつつも、準決勝までは普通の縦斬りすら見破れない三流戦士ばかり。拍子抜けするほど、トントン拍子にキャスクは勝ち上がっていった。


「ほう。随分と骨のある兄ちゃんじゃのう」


 任侠者が鎧を来たような見た目の、ヤクザな戦士がキャスクに話しかけた。


「ボクの決勝の相手ですか?」

「おう。降参するなら今の内じゃい…どうじゃの」

「どうも何も、ボクは正々堂々戦うだけです」


 そして闘技場の舞台に、2人は上がった。


「キャスク=ベータ。ゲガ=ババンゾ。両者、一歩前へ。構え用意」


 いかにも荒くれ者の対戦相手ゲガに、キャスクはハルバードにも使った構えで戦う事にした。


「試合、始め!」


 ビカートの構え。腰を深く落として、剣を肩に載せる盗賊の構えだ。

 オユワイルの剣だと怪我の恐れがあるため、闘技場が貸し出す、痛みのない魔法光の剣―――ライトセーバーのような見た目で、光に当たると花火が上がるような独特の音がなる―――をキャスクは肩に乗せた。


(あの時は、本来の戦いを出来なかった…)


 キャスクはようやく、ハルバードの半分ほどの力量らしいゲガに対してビカートの構えでの全力の戦いを試せる事を、相手には悪いながら胸の内では歓喜した。


「山猫走り」


 更に体勢を低くしたかと思うと、キャスクは相撲取りがたまにするような突進を繰り出した。その飛びかかる様は確かにさながら山猫のごとき動きである。


「爪の太刀・複複急刻」


 真空十字斬(クロス・ブレイク)のように同時に出る多方向の斬撃ではないが、細かく多様な向きに体重移動させながら放つ連続斬りだ。

 野生の山猫が暴れまわる様子を見て考案したという、ビカートの技である。


「ずあああっとぉ」


 時折当たってしまっているゲガだが、それは入りが浅い太刀筋のみである。つまり無駄な防御を一切せずに、キャスクの連続攻撃を防ぎきったのだ。


「蟷螂双迅撃・片手版ン!」


 本来は二刀流の斧使いらしいが、試合では1つの武器しか使えない。貸し出された魔法光の手斧を、ゲガはあたかもカマキリのように、残忍なまでに素早く振り下ろした。


「はああああァ」

「なんの…おぉぉおお」


 魔法光ではあるが、刃と刃が交差した。魔法光同士は互いに当たり判定を持たせてあるのだ。

 そして今はキャスクの剣がゲガの斧を受け、膠着状態になっていた。


(確か、こんな時は)


 山猫を模したビカート流剣術には、カウンター技がある。キャスクはその技を自らの意識の中で一旦、繰り出すイメージを描いた。


(うん、やれる。ボクなら…!)


 敢えて、それまで押し返していた力を急に抜く。すると、相手は体重を乗せた体が傾く。


「えっ、っととお」


 それだけだと当然、斧がキャスクに当たるだけだ。後は自らの速さを信じるしかない。

 のけぞっていた体を、一度倒しきる。つまりキャスクはわざと仰向けに倒れてしまった。

 だが、それにより一瞬だけ遅れてやってくる斧となり、時間が生まれるのだ。


 一人前の盗賊以上でないと出来ない離れ業。―――キャスクは倒れながらも瞬時に膝を曲げ、そしてまた瞬時に力強く伸ばしきった。すなわち足の伸ばす力だけで飛び上がったのだ。

 そして飛び上がる体をやや捻り、敵の斜め前へ立った。


「爪の太刀・刃刃発夢」


 キャスクは一振りで2つの斬撃を生んだ。今までのキャスクには存在しなかった発想、ビカートでなければ辿り着けなかった、彼の必殺技だ。


「どゆぁあああ」


 ゲガは叫び声を上げた。痛みはないはずだが、いるはずのない位置から飛んできた凄まじい一撃、いや二撃に驚き、気を失ったのだ。


「相手の戦意喪失により、勝者はキャスク=ベータ。勝者はキャスク=ベータ」






「いやあ、更に強くなったな。オメエっち」

「そ、そうかな?」

「かっこ良かったですよ、キャスさん」

「お…さてと、ライ。そろそろアタシたちはパーティーから抜ける時が来たわ」


 冗談混じりだったが、トリティは本気にした。


「私、もしかして何か失礼な事を?」

「いやいや。…いやいやいや。ふう、キャスクが2人になったのね」


 とりあえず賞金の紙幣3枚が手に入ったので、プルーツは深くツッコミを入れない事にしたのだった。


「よし、いよいよだべ」

「ええ、いよいよなのよ」

「え、何がいよいよなのですか?」

「いよいよ…次の町って事じゃないかな」

「「昼飯に決まってるじゃん」」


 合ってはいるのにツッコまれ、わずかに不遇なキャスクはさておき、一行は馬車で次の町に移動した。


 フードの町。そのままの名前で、観光客にも覚えやすいと評判のグルメ街だ。


「うわ…」

「ライ、どうしたんだい?」

「まだ昼だべ」

「い、今さら…?」


 昼食は、それぞれに食べたい物を適当に屋台で買い漁った。


「キャスク、バイトしてく?」

「流石にそこまで、馬車を待たせるのは悪いと思う」


 ミートパイを頬張りながら軽口を叩くプルーツからすれば、キャスクは完全なるバイトキャラとして大いにイジり甲斐がある。


(うーん、もう少し生き急ぎたいかも)


 時にお気楽なライドーンとプルーツを見るに付け、人生を真剣に考えてしまうキャスク。しかし今はただ、ベーコンチーズバーガーを黙々と食べるのだった。


 ふと見ると、ライドーンは謎の青色の麺類、トリティは焼きそばを食べていた。


「謎の青色の麺類、オメエっちも食う?」

「それが正式名? 嘘…うっわ、本当ね」


 昼食を手早く済ませて馬車に戻り、一行はハルーの町に戻ってきた。


「紙幣4枚になります。この度はわたくしの運転します馬車をご利用頂き、誠に、誠にありがとうございます」


 ヒューナフ農国を巡る旅は終わり、一行はようやくキキマン大陸に向けての旅を再開するのだった。






「うお、日差し眩しっ」


 石壁に囲まれている国から出ただけで、照り返しなどもあり、一行は随分と景色を眩しく感じた。


「はあ、定住が楽しい人たちの暮らしを知っちまうと急にしんどいべな」

「なんで?」

「なんでって、…なるほどな。キャスっちは定住の方が長いか」

「うん。ずっとヤンカ村で生きてきたから、まあ、そうだね」


 するとトリティが素朴な疑問をキャスクにぶつけた。


「キャスさんは、どうして騎士にならなかったのですか?」


 キャスクの年齢なら、ピュクトのように帝聖騎士を目指す道がある。ヤンカ村は村といえども帝聖国領ではあるので、生活の安定を考えるなら帝国の庇護がある騎士のほうが何かと得に決まっていると言い切れるほどだ。


「そうだよね。ヒューナフのピュクトですら騎士になるのに、ボクは…何がしたいんだろう」

「キャスク…」


 キャスク自身にすら、まだ旅の答えは明確に決まっていない。―――つまりは、それが本音なのだ。


「帝都に帰るか? 俺っちたちは、トリティがいるし。一応、情けないけど守っては貰えるべよ」

「そう、…ですね。キャスさんが、この旅に意味を見出だせないなら、帝都に戻れない私は放って、帰っても…大丈夫なんですよ?」


 旅の根幹にあたる、大切な事なだけに一行はいつしか、完全に歩みをやめていた。


「ボクは、…」


 キャスク=ベータ、20歳。

 その比類なき強さでライドーンたち旅の仲間を幾度となく守り抜いてきた青年は、今、旅の理由を求める自由を得て初めて、迷いが生じていた。


「ボクが旅する理由。最初はただ、ライとプルと帝都に行ければ良かったんだ」

「ああ。そうだべ」

「キャスク、仮にアンタが帝都に帰るとしても、アタシはアンタを恨まない。それで死んじゃったとしてもね」


 ライドーンとプルーツは、アイダンス家ではないにせよ、普通の生活を帝聖国に求めて旅をしていた。

 しかし色々あり頓挫し、理由も曖昧なままにキキマン大陸を目指す2人には、それでも普通の生活への憧れが残るに決まっている。


 だがキャスクにまでそれを強いる権利も意思も2人は有していない。キャスクは気軽に誘った旅の仲間で、それ以上でもそれ以下でもないのだ。


「むしろよ、キャスっち。色々、巻き込んじまって申し訳ねえくらいなんだ」

「ライ、アンタ…」


 しかし、気付くとキャスクは笑っていた。


「巻き込んだり巻き込まれたり、そんなのは当たり前じゃないか。旅してるか家に住んでるかが違うだけなんだ。ボクらはもう、普通の生活をしてるんだよ」

「キャスさん…。その考え方、とっても素敵です」

「リティちゃん。キャスクじゃなかったら誤解を生むわよ。ただ…本当、素敵ね」

「うんうん、俺っちたちには最高で最強の村人が着いてんだべな」

「ま、待ってよライ。まだ着いていくとは…」

「「「えっ!?」」」


 締まりがあるのかないのか分からないキャスクの発言に会話はゴールを見失い、とりあえずララク岩橋を目指す事になった。


 特に描かれる事はなかったがヒューナフ農国に近づくにつれ、明らかに強くなっていた魔物たちはララク岩橋から来たと言われている。


 特に描かれなかったのは、こまめに鬼のごとき鍛練を自らに課して、自体重負荷のトレーニングだけでメキメキと強くなるキャスクのお陰、そして特に何もしなくても歩く魔道書のトリティが強すぎたからである。


「光の杖、もうただの杖だべな」


 レウト島の闇の精霊により、ただの杖と化してしまっている光の杖を、なぜかトリティは今でも大切にしていた。


「確かに、この杖には何の力もありません。でも…不思議とこの杖を持っているだけで、なんだか勇気が湧くんです。私、まだ戦える、…その度にそう思えます」

「だったらアンタには、もう光の杖じゃん」

「プル、本当にそうだね」

「プルっち、今…俺っちが言おうとしてたヤツ、それ」


 ララク岩橋の手前にある、ララクの町に到着する頃には、日が暮れつつあった。


「しっかし、キャスクとリティちゃんにお任せ状態になって来たわね」


 ララクの町までの道中も、キャスクとトリティ無双。ハーフオーガやミノタウロス、それにブラック・ナーガがバサバサ斬られ、燃やされ、滅していく様だけを眺めるだけの簡単なお仕事。―――それが、実質ライドーンとプルーツの役目なのだった。

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