【12-3】
12-3
魔法のカードについて、その全てが詳しくは分かっていない。魔法術式を組み込んだ金属製のカードは、材質や加工技術からして、古代文明の遺産とするには無理があった。しかし、その製造者や目的といった詳細は全て不明である。
一番最初に存在が確認されたカードと共に見つかった文献によって、カードが全22
であるということ、その何れもがタロットカードの大アルカナを模した意味が付けられているということ、そして全てが集まった時ラグナロクが起きるという事が分かっていた。
そして、今。カードが全て揃った際に提示された座標に月夜風花-つや ふうか-は居た。
「魔術回路のロックを全て解除する為の魔法術式が隠された場所、その座標はカードを全て集めた時に開示される」
それがこの山中なのか、と月夜風花は周囲を見渡す。古代文明の遺産などと呼ばれていたカード、しかし座標の位置に来てみてもアルカディアの様な朽ち果てた都市があるわけでもなかった。
衛都楼水希-えとろう みずき-の言葉の中で、月夜風花には気にかかる点があった。
「ロックの解除の為の術式……、それじゃあまるで誰かが意図的に私達から魔法を封印したみたいじゃないか」
カードが全て集まったときラグナロクが起きて、古い人間は全て消え失せるという。その文言の意味は、人間に元来備わっている魔術回路のロックを全て解除することで、全ての人間が魔法使いになれるという意味であったようだった。
カードの作成者がどんな意図を持って、魔術回路のロックを外す術式をここに隠したのかは分からない。カードを全て集めた者にその術式を託すことを決めた理由も分からない。
だがそんなことよりも、月夜風花が知りたいのは衛都楼水希の事で。
「全ての人間を魔法使いにするって事? それで水希さんは救われる?」
「あたし達は、あたし達という存在は。この世界には必要ない、間違ったものだよ。あたし達の世界はいつだってその大多数がそうであるように振る舞うから、あたし達ではそうなることなんて出来ない。
だからあたしは、あたし達という存在の、この世界での立ち位置を変えるんだ。魔法使いを世界の多数派に変える。そうすれば魔法使いは、この世界に居場所が出来る。世界の構造の変革だよ」
「そんなのあまりにも一方的だ」
「一方的?」
「だって、それを急に押し付けられた世界はどうなるか」
そんな言葉しか、そんな否定の仕方しか私の口からは出てこなかった。衛都楼水希の言葉はあまりにも遠大で、まるで何かの台本のようで。私にはどんな言葉でそれを理解すれば良いのか分からなかった。
私はずっと、世界から外れた存在な様な気がしていた。魔法というこの世界には存在しないものに縛られて生きてきた。魔法は存在しないものとされて、故にそれが世界の多数派だった。だからそれが正しい方だった。
魔法なんてものを、魔法使いなんて者を、この世界は受容してこなかった。私という存在は否定を受容し続けてきた。私にとって世界はいつだって正しいように振る舞って、故にそれは正しい方であり続けた。衛都楼水希は、私にとっての衛都楼水希はその象徴だった。そうであり続ける存在そのものだった。
彼女は世界の正しい方だった。
けれど、彼女は彼女自身をそうでないと否定した。彼女も私と同じ場所に立つ存在で、そしてそれを変えようとしている。
「それに水希さんが言うように本当に全ての人間が魔法使いになれるとは思えない」
「微妙に違うかな。魔法使いになれなかった人間は死ぬだけだよ」
「何を!?」
「魔術回路は人体に深く結び付いた器官だけど、人間はそれをずっと封印されて生きてきた。だから、突然そのロックを外したら多分魔力の負荷に耐えられない人も居るだろうね。現に機関ミズガルズの行っていた実験でも原因不明のまま何人も死んでるし。
逆に言えば、現存する魔法使いはその負荷に耐えられる故に、そのロックが外れているのかもね」
「何でそんな簡単に、そんな事を言えるんだ。何人の人間が死ぬかも分からないのに!」
「魔法使いが世界の多数派となった時、あたし達はその中に埋没していく。それで良い。世界があたし達に刃を向けるなら、あたしは全部の刃を叩き斬ってやる」
もし、明日。世界に魔法が溢れたら。
衛都楼水希の手によって、全人類に備わっている魔術回路を、そのロックを外し解き放ったら。一体、何が起こるだろうか。どれだけの問題が生じるだろうか。混乱に陥る世界で、どれほどの被害が出るだろうか。新しい秩序は新しく秩序には成り得ない。
「例え誰も死ななくとも、新しい世界に突然変わったら。それで……何人の人間が傷付いて、何人の人間が泣く。そんな事をすれば、世界中が大混乱になる」
「なら、この世界で迫害され続けることを選ぶの? 月夜ちゃんだって、魔法使いなんでしょ」
「私は……、そうだよ。魔法使いで、私はそれからずっと逃げてきた」
魔法という存在から私は目を背けてきた。あの時から私はそれを何処かに沈めてきた。
今、私が衛都楼水希に頷いてみせれば、その言葉に笑顔を見せてしまえば、いつかの私は救われるだろうか。あの時の少女の残像にもう怯えなくて済むだろうか。私がいつも感じていた世界からの疎外感も消せるのだろうか。
この世界を変える術があった。私の目の前の少女はそれを知っていた。世界の正解を体現した存在は、私に新しい世界の可能性を提示してみせた。それは彼女にとって、そして私にとっても、私達を世界の正解の方へ導くものだった。新しい正解を造ろうとしていた。
「でも、違う。水希さん。それで多くの人が犠牲になるなんて、そんなの駄目だ。世界を変えるなんて事、きっと間違ってる」
「言ったじゃん、これはあたし達の復讐だって」




