1話 ファースト・コンタクト
「なんだ?!」
突然周りが暗くなる。
冷房の利いた喫茶店から、さんさんと照りつける憎らしい太陽の下へ歩き出したのだが、突然のできごとに俺は空を見上げた。
道路そのものが熱を持った巨大な鉄板になったかのようで、立っているだけでも靴底からじわじわと熱が伝わってくる。
その熱が、一瞬ヒヤリと冷めたようが気がする。
空一面を、真っ黒な何かが視界のすべてを覆い尽くしていた。
地平線の彼方まで途切れることなく広がり、まるで巨大な黒い天井が世界を押し潰そうとしているかのよう。
太陽の光さえ飲み込んだその異形の影に、昼間だったはずの世界は、音もなく暗闇へ沈んでいった。
辺りの人たちも、パニックになるでもなく、皆空を見上げて一斉にスマホを掲げている。
その様子は、まるでなにか祈りを捧げる宗教行事か。
再度、空に目をやる。
どう見ても、雲や自然現象ではない――滑らかで均一な平面を持つ人工物だ。
「なんすかあれ?」
さっきまで喫茶店の中で話していた若いクライアントさんも出てきて、一緒に空を見上げている。
「さぁ?」
「まさか、宇宙人襲来っすか?」
「ええ?」
スマホでニュースをググってみても、今のところなにも出ていない。
SNSでは、タイムラインが恐ろしいスピードで流れている。
皆が、この黒い天井についての書き込みだが、それ以上の情報はない。
『なにか、突然現れた』
『デカいものが空を覆っている』
『真っ暗になった』
そんな書き込みばかり。
俺もひたすら上を見上げるばかりだったが、いい加減首が痛くなってきた。
辺りが暗くなって、ちょっと涼しくなっただけで、なにも変化がない。
動きもないし、音もしない。
光ったりもしない。
そのうち、バラバラと空気を叩く音が聞こえてきた。
TV局の取材ヘリだろうか?
小さく見えるヘリとの対比で、空を覆うものの巨大さが解る。
「……まさか本当にUFO?」
口に出した俺も、ちょっと馬鹿らしい結論に達してしまったが、それ以外の答えが見つからない。
「「う~ん?」」
クライアントさんと、顔を見合わせた。
辺りを見回しても、慌てる人もおらず、いつものと同じような時間が流れている。
あまりに突拍子もないことが起きると、思考停止してしまうのかもしれない。
ここで爆発などがあれば、皆が逃げ惑ったりパニックになるのだろうが、空はひたすらに静かだ。
ここで佇んでいても、仕方ない。
俺は挨拶をすると、自分の家に帰ることにした。
あれが、本当に異星人の乗り物だとしても、俺たちには、なにもできないだろう。
あんな巨大なものを浮かべるぐらいのテクノロジーを持っているとなると、果たして人類に勝ち目はあるのか?
駅に到着しても、皆が空を見上げて、ざわざわしている。
そのうち、辺りに爆音がとどろき始めた。
ちょっと身構えてしまったが、どうやらジェット戦闘機の音らしい。
スクランブル発進ってやつか。
そりゃ、未知の物体の領空侵犯だからなぁ。
軍としては正しい判断だろうが、刺激して一瞬で破壊されたりしたらどうするのだろうか?
電車は、なにごともなく動いているので、そのまま帰宅。
2DKのアパートの扉を開け、散らかった部屋で服を脱ぐと、真っ先にPCの電源を入れた。
今回はイラストの仕事をもらえたが、そろそろ才能の限界ってやつが見えてきた。
自分には才能がなかったのかもしれん。
幸い、冗談で買った仮想通貨や、チマチマとやっていた投資で、数年食っていけるぐらいの蓄えはある。
もうオッサンと呼ばれる歳だ。
ここらへんで、進路変更をすべきか?
自分の将来に少々暗くなりつつ、動画サイトで情報を探す。
みんな黒い天井の映像ばかりだったが、LIVEのニュースをやっていた。
「おっ?!」
軍からの提供であろうか?
首都はるか上空からの映像である。
空を横切るように巨大で有機的な物体が横たわり、高度は2000mほどに停滞している。
下から見てもよく解らなかったが、その輪郭は不思議なほど滑らかで、どこか人間の女性の身体を思わせた。
黒だと思っていたものは陰になっていただけのようだ。
巨大な物体は美しいほどの純白で汚れ一つないが、光は反射しておらず、継ぎ目のようなものも一切見えない。
白いボディの上に白い雲が走り、黒い影を落としている。
水分の蒸発を遮っているのか、いつも空にそびえ立ってる入道雲も見当たらない。
夕方近くになるとゲリラ豪雨でやられたりするが、今日はそれがなかった。
「これだけデカいものがあれば、気候に影響も出るだろうな」
LIVEニュースのキャスターが地上のマップと物体の大きさを重ね合わせた。
「デカい……」
首都圏平野部をすっぽりと覆い隠し、山間部まで届いている。
まさか、こんなにデカいとは……。
そりゃ地平線まで真っ黒よな。
『突然、首都上空に現れた巨大な物体の大きさは、推定で全長60km以上だと推定され……』
部屋の中に、女性キャスターの声が響く。
「60kmかぁ~、やっぱりUFOだよなぁ……」
UFOだとすると、母船タイプってやつだ。
そんなデカいものを浮かべる科学力ってどのぐらいなんだ?
地球の戦闘機やら戦車なんてまったく役に立たないだろ。
ニュースではそれ以外の情報はないが、今頃政府内や軍ではてんやわんやだろう。
それは我が国に駐留しているア国軍も同じはず。
いったい、どうするつもりなんだろうか?
下手に手出ししたら、一瞬で地球が滅んだりしないか?
まぁ、人類を滅ぼすつもりなら、こんな様子見みたいなことはしてないよなぁ。
現れた時点で国中が焼け野原になっているとは思うが……。
SNSも眺めてみるが、当然目新しい情報はなにもない。
外国人からのコメントも沢山見られる。
『OMG!』
『OH! NO! 巨大なUFOだって?!』
『またニ国が、なにかやったのか?!』
またってなんだよ。
なにもやってねぇっての。
そのまま在宅の仕事もそっちのけで、ネットを漁る。
溢れているのは陰謀論みたいなのばっかりで、なにも目新しいものはない。
そういえば、1999年7月に空から恐怖の大王が降ってくるというネタがあったけど、30年遅れでそいつが来たのか?
辺りが暗くなってきた頃、やっと政府の緊急会見が行われた。
いつも真っ赤でアンパンみたいな顔をしている首相は、今日は倒れるんじゃないかと思うぐらいの真っ青な顔をしている。
『え、え~現在、首都上空に停滞している物体に関しては、調査中でありまして……』
首相は滝のような汗を拭き拭き、しどろもどろで記者の質問に答えている。
いつものらりくらりと、中身のない会見を繰り返している男が、これから国の行く末を決める確実な決断を迫られる。
そのプレッシャーからだろう。
こいつは嫌いなので、青い顔を見ても、「HAHAHA! ざまぁないぜ!」としか思わんが。
会見の内容からすると、結局なにも解っていないらしい。
あの空の物体から、なにか接触があったのだろうか?
ネットを見ていても新しい情報はなにもないし、このままネットを眺めていても仕方ない。
仕事はあるし、なにもしないわけにもいかないしな。
たまに動画サイトを見て、新しいニュースがないかとチェックしたが、仕事を進める。
そんなこんなすっかりと深夜になっても新しい情報はゼロ。
巨大な物体は完全に沈黙したまま。
「寝るか……」
世紀の大事件だが、向こうが動かなければなにも起きない。
このままネットを見てても仕方ないので、寝ることにした。
たとえ異星人の宇宙船がやって来ても、締切はまってくれないのだ。
――空に突然巨大な物体がやって来た、次の日。
ベッドで起きると、枕元にあるスマホを取って確認する。
虚ろな目で、ディスプレイを見たのだが――飛び起きた。
「消えた?!」
夜のうちに、突然あのデカいものが消えたらしい。
消えた時刻は俺が寝たおおよそ1時間あと。
「マジかよ……」
いったいなんだったんだろう?
地球を侵略しにやって来たが、あまりのしょぼさに、その価値なしと判断されたとか?
まぁ、あんなデカいものを飛ばせるぐらいの科学力だ。
地球のテクノロジーなんて、原始人みたいなものだろうな。
「やれやれ……」
スマホの通知にメールが来ている。
ベッドから降りると、台所の冷蔵庫を開けてパンを取り出した。
オーブンにそれを突っ込むと、お湯を沸かして、スープを作る。
「異星人がやって来ても、仕事は待ってくれない……と」
焼き上がったパンにバターを塗ると、PCの前にやって来た。
キーボードにカバーを被せると、パンをかじる。
こんがり焼けたパンが、バリバリという音を立てて、6畳の部屋に反響した。
「メールチェック……と」
クライアントからのメールでも、昨日の謎の飛行物体の話が書かれている。
「いつもお世話になっております……」
メールに返信を入れて、仕事を始めた。
たまに動画サイトとSNSをチェックして、新しい情報がないか確認する。
そんな感じで仕事をしていると、SNSに反応があった。
再び、タイムラインが激しく流れていく。
「なんだ? また、なにか出たのか?」
窓からチラ見しても、空を覆うようなものは見えない。
どうやら、騒ぎの元は国会前のようだ。
騒ぎの元の動画が上がっていて、国会議事堂前からのLIVE映像だ。
TVの中継車も駆けつけたらしい。
「お?!」
国会議事堂の中、純白の小型円盤が音もなく浮かんでいた。
小型と言っても直径は100mほどあるんじゃないか?
陽光を受けた表面は金属とも陶器ともつかない滑らかな光沢を放ち、風に揺れることもない。
まるで空間そのものに固定されているよう。
異様な光景を目にした人々が次々と足を止め、スマートフォンを掲げながら集まり始める。
たちまち道路や歩道は野次馬で埋め尽くされ、驚きと興奮のざわめきが、議事堂前一帯を覆っていった。
「今度は小型のUFOか……こりゃ、本格的に接触してくるつもりなのか?」
すでに、警察や機動隊なども出て、周囲を固めているのだが、どんな行動も無駄な抵抗に見える。
いや、炎上系の動画投稿者などが暴走するのを止めるためか?
なにかあれば、国際問題どころか、宇宙間問題に……。
いまだかつて、これほどまでに人類の存亡そのものが脅かされた瞬間があっただろうか――いやない。
戦争も、疫病も、大災害も経験してきた人類だが、今目の前にある脅威は、それらとは比較にならないほど得体が知れない。
人類の歴史をどれほど遡ってみても、今日という日は、おそらく誰も経験したことのない最悪の日になるかもしれないのだ。
「「「おおっ!」」」
群衆がざわめいた。
UFOが高度を下げて、地面の近くまで降りてきたのだが、機動隊や木々が邪魔で中が見えない。
動画のカメラがロングに切り替わる。
どこか、高いビルの屋上から撮っているような動画だ。
UFOが右、国会議事堂前が左の構図。
謎の物体の周りには、すでに警察などが囲んでいて、正面には――スーツ姿の、おそらく首相たちが揃っているように見える。
いや、あの太っていてアンパン顔は、間違いなく首相だろう。
まさか、自分がこんな世紀の決断を迫られる立場になるとは、夢にも思わなかったに違いない。
まぁ、一国の首相だし、そのぐらいの決断を下す立場にあるんだから、覚悟が足りないよな。
俺は、ネットのマップを開いた。
国会議事堂前の周りは、ほとんどが官庁のビルで、TV局が入れそうな場所は――。
「ここか?」
マップにあったのは、霞ビル。
たしかにここなら、構図的にぴったりと合う。
カメラがズームすると、なにか黒いものが出てきた。
二足歩行だ。
頭まで覆われているように見えるので、なにか黒いスーツのようなものを着ているのか?
地球の大気に合わないようなら、宇宙服みたいなものを着ていてもおかしくない。
それに――胸の膨らみのようなものが見えるのだが……もしかして人間と同じような女性なのか?
その光景を中継で見ていたネットが色めき立った。
ものすごい勢いで、タイムラインが流れていく。
『人形?! 女?!』
『メス型異星人キター!』
『おっぱい! おっぱい!』
『ピチスーおっぱい!』
『異星人の美少女希望!』
『OMG!Is that alien female?』
ものすごい盛り上がりで、英語のコメも沢山流れている。
リアルタイムで全世界が視聴しているのだろう。
UFOから、どんな化物が出てくるのかと張り詰めていたのだが、出てきたのが人形の女性ってだけで、緊張の糸がぶっ飛んでしまったようだ。
『まだ、異星人そのものと限らないだろう? お使いのロボとかドローンみたいなものかもしれん』
『地球人に合わせただけなんじゃね? 操っているのは、虫みたいな種族とか?』
『Niland, don't be fooled by the aliens!』
冷静な意見もある。
どうでもいいが、女性型ってだけで盛り上がるSNSを見て宇宙人たちはどう思うだろう。
その前に、すでに地球のネットなどは、盗聴されていたのかもしれないが。
なにも準備なく、いきなりこの国にやってきたとも考えにくい。
それにしても、地球上でなぜ我々の国が選ばれたのだろうか?
なにか取引材料になるようなものがあるのだろうか?
黒いスーツがアンパン首相たちの前にやって来た。
首相が前に出ようとしたのだが、緊張しているのだろうか? 足元がおぼつかない。
2~3歩進んだら、フラフラとその場に倒れてしまった。
『アンパン! あにやってだ!』
『国の恥やぞ!』
『口ばっかで、マジ役に立たねぇ!』
ネットでも非難轟々である。
一国の首相として、非常事態はある程度想定していたとは思うが、まさか相手が異星人だとは思ってなかっただろう。
首相は倒れたまま、起き上がれないでいる。
心臓でもパンクしてしまったのだろうか?
倒れたままのアンパンがSPなどに囲まれているのだが、相手は待ってくれない。
周りにいる議員たちは、顔を見合わせている。
頼りねぇ。
異星の使者の前に、別の男性が恐る恐る歩み出た。
もしかして、副総理か?
首相の顔はアンパンで覚えているのだが、副総理が誰か覚えていない。
彼がビビりながら、手を伸ばした。
果たして、握手の概念はあるのだろうか?
握手=宣戦布告の証だったらどうする。
異星人に降伏するために白旗を上げたら、徹底抗戦の証だったという話もあったし。
『……』
しばらく動画を見つめていると、異星人たちは、男性の手を取ることはなく、なにかを伝えたようである。
それを聞いた男性が驚いて、国会の中に異星人を招き入れようとしているようだ。
『お?! 話が通じたのか?』
『ニ国語なのか?』
『あれだけデカいものを飛ばせる科学力なら、自動翻訳ぐらいはあるやろ』
『ファーストコンタクトは成功か?!』
『アンパンはそのままくたばってて、どうぞ』
『アンパンの次に出てきたのは? 副総理?』
『いや、今の段階で副総理は指名されてないはず』
現首相の嫌われ具合が半端ない。
まぁ、口ばっかりで、なにもしない首相だからな。
そのくせ、偉そうにするから、嫌われるのも仕方ない。
議員と異星人たちが、国会議事堂の中に入って、動きはなくなった。
今度の舞台はニュースや動画サイトに移る。
異星人とのファーストコンタクトのシーンが全世界に発信され、ヘビーローテションで再生されていく。
逆に、全世界に恥を晒したのは、現首相のアンパンだろう。
これは挽回できない汚点として、彼の政治生命に影響を及ぼすのではなかろうか。
――突如として我が国を襲った、あまりにも現実離れした「異星人の訪問」というできごとに、世界中が大騒ぎ。
テレビもインターネットも新聞も、連日のようにその姿と動向を報じ、人々は固唾を呑んで画面に釘付け。
各国政府は緊急会議を開き、軍や研究機関を動員して、彼らの目的と正体を必死に探ろうとしたのだが、我が国の政府は沈黙を守っている。
いったい国会の中でなにが行われているのか、まったく不明だ。
当然、オールドメディアからは不平不満が噴出しているのだが、まったく相手にしていない。
それどころではないのだろう。
一方、街では歓迎する者、恐怖に怯える者、さらには陰謀論を叫ぶ者まで現れ、社会は瞬く間に混乱の渦へと巻き込まれている。
人類が初めて遭遇した知的生命体――その歴史的瞬間を前に、世界は期待と不安、そして底知れぬ恐怖に包まれていた。
突然、政府から発表があったと思ったら、官房長官をやっていた森という議員が副総理になったようだ。
おそらくは、その副総理を先頭にして、異星人の交渉をするのだろう。
やっぱりあのアンパンはそのままリタイヤになったらしい。
クソの役にも立たねぇ。
――異星人の表敬訪問を受けた次の日。
朝一で記者会見が行われるという通達を受けて、ニ国中が大騒ぎ。
全国民が、TVやネットに張り付いた。
記者会見の場所は超有名グランドホテルの天女の間らしい。
さすがにニ国中、世界中からオールドメディアが集まるから、国会の中じゃ無理か。
明るい照明に照らされたグランドホテルの広々とした会見場には、国内外から集まった大勢の記者たちが所狭しと並び、無数のカメラが壇上へ向けられていた。
シャッター音や記者たちのざわめきが絶え間なく響き、張り詰めた空気の中、誰もが重大な発表の瞬間を待ち構えている。
最前列には各社の腕章をつけた記者たちが陣取り、手にしたノートやスマホを構えながら、壇上へ鋭い視線を注いでいた。
もちろん、その様子をLIVEで見ているニ国国民も固唾を呑んで見守る。
当然俺もだ。
「おおお~っ!」
突然、記者たちから歓声が上がり、閃光のようなフラッシュが焚かれまくった。
横から出てきたのは、指名されたばかりの黒いスーツの副総理と昨日見た黒いふたつの二足歩行をするなにか。
黒くてつなぎ目のないピッチリと肌に吸い付いたスーツのようなものを全身にまとい、美しくしなやかなライン。
頭にはヘルメットなのか、丸いものがついている。
歩行の動きはスムーズで、今のところ生物なのかロボットなのか解らないが、このフラッシュの雨あられを攻撃だと勘違いされないだろうか?
「やっぱり胸がある……」
そう、黒いピチスーのなにかには、確実に2つの胸の膨らみがある。
なんでもできる証拠だと言うのか。
『やっぱり、ピチスーキター!』
『おっぱいおっぱい!』
『女性型なのか? それとも、ドローンとかロボ?』
はっきりとした女性の姿に、ものすごい盛り上がっているのだが、これを異星人が見たらなんというか。
黒いふたりが正面にきて、こちらを向く。
副総理に促されて席についた。
「「「ざわざわざわざわ」」」
その様子に、室内から巨大なざわめきが起こる。
正面を向いたふたりの頭部――ヘルメットらしきものの中心に巨大な1つ目。
パチパチと瞬きをして、こちらをじっと見つめているのだが、どう見ても生物の目ではない。
ディスプレイに写ってるCGのように思われる。
『デカい目?!』
『サイクロプスか?!』
『どう見ても、ディスプレイかなにかやろ?』
『やっぱりロボか?!』
ネットには、疑念、驚き――さまざまな意見が一斉に噴き出し、入り乱れていた。
場内も騒然としている。
記者たちも、聞きたいことが山のようにあるのだろう。
会見が始まるのを、今か今かと待ち構えている。
定位置についた副総理がマイクを取った。
まぁ、顔色はよくない。
おそらく徹夜で、あちこちとの調整を行っていたのだろう。
なにせ、宇宙からの訪問客だ。
ファーストコンタクトに失敗すれば、この国――ニ国が滅びるかもしれん。
「静粛に! え~記者会見を始めたいと思います」
「「「副総理! 副総理!」」」
記者たちから一斉に声がかかる。
「質問は、あとからにしてくれ!」
副総理の大声が室内の響き、キーン! としたハウリングだけが残る。
彼の必死の顔に、記者団もなにかを悟ったのか、会見場は水を打ったようになった。
「え~! 我が国――ニ国は、こちらのあまてらす国との間で国交を結び、平和的文化交流の条約を締結することになりました!」
「あまてらす国?!」
「「文化交流!?」」
副総理の言葉に、記者たちがどよめく。
「正式な調印は、あまてらす国からの全権大使が、赴任されてからになる予定である!」
「副総理! 文化交流とは、具体的にどのようなものになるのでしょうか?!」
「……」
彼が汗をかきながら苦虫を噛んだように、なにか言い淀んでいる。
「副総理!?」
「あ、アニメと漫画だ!」
「「「は、はぁぁぁぁ?!」」」
記者団が一斉に素っ頓狂な声をあげたのだが、そのぐらい彼の口から出た言葉が意外だったのだろう。
記者団の反応に、彼が苛ついたのか一段大きな声をあげた。
「あ、アニメと漫画だ!!」
「「「えええ~っ!?」」」
その中継を見ていた、ネットも一斉に――。
『『『ええええ~ッ?!』』』
宇宙人からもたらされた意外な言葉で、SNSのタイムラインも埋め尽くされた。




