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モモヨは、ロボット研究所へ持っていかれてしまった。
代わりに来たのは、最新の統制型AIを搭載したロボットだった。リースではなく、俺のものになるそうだ。
メンテナンスは無料で、不具合があればすぐに交換してもらえるという。破格の条件だった。
こうした条件のすり合わせまで、モモヨが手を回していたようだ。
今は、バディーの世話を俺がやっている。
バディーは、新しいロボットには懐かなかった。
匂いがきらいなはずの俺の部屋で、落ち込んだように大人しくしている。
「バディー。お前、また捨てられたとでも思っているのか? お前の主人は俺なんだぞ」
代替えは、身長百五十センチほどの、少年のような外装をつけたロボットだった。
新しいロボットには名前をつけていない。そのため、自分を型番号で名乗っている。
『0675-Qは、買い物に行ってくる。何か必要なものはないか?』
一応、以前のロボのような話し方に設定しておいた。その方が気が楽だからだ。
「おからの煮物を百グラム買ってきてくれ。あと、犬の餌がなくなったな。それも頼む」
『おお。了解した』
このロボットは、一々指示しないとだめだった。
モモヨなら、足りない物を自分で確認して補充していたが――今更、モモヨと比べて何になる。ロボット会社は、使い勝手のいい、半自律型を作る為にモモヨを俺から取り上げたんだ。
俺は、このロボットで十分だ。
0675-Qが作る飯は、癖のない味付けで、メニューも決まりきっていた。
ハンバーグやカレー、スパゲティーなど、そんなものばかりだ。
大叔父が教えた、大叔母の味付けのおかずは、もう食卓には並ばない。
「どっちみち、俺はグルメじゃないし、食えればそれでいい」
それに、このロボットに替えてから、電気代が安くなった。
ロボの時ですら三万円ほどかかっていたのに、今は一万円台に収まっている。
半自律型は、それだけ電気を食うということだったんだ。
モモヨは、俺に嘘をついていたようだ。ロボからモモヨに戻ったあと、電気代はまた高くなっていた。
新しいバッテリーに替えても、電気代はそれほど安くならなかったのだ。
あとで家計の収支を見て分かったことだが、そんなことは気にならなかった。
モモヨは、電気代を上回る金を稼いでいたのだ。
最終的に、俺の口座には十億近くの金が入っていた。
モモヨは、株の売買で金を増やしたあと、株から手を引き、後始末をしていた。
税金の処理や、そのほかの細々とした手続きまで済ませ、俺の権利を確かなものにしてくれていた。
『誠様にとって不利益になる恐れがある記憶は消去します。ですから、安心してください』
あれだけ先回りして考えるには、エネルギーがかかるということなのだろう。
ロボでさえ、今のロボットより融通が利いていたのに……。
「くそっ! まだ未練がましいことを考えている俺って、一体何なんだ。たかがロボットのために、仕事が手につかなくなっている」
俺は家に鍵をかけて、バディーを連れて散歩に出た。
0675-Qは今買い物に出ている。
俺とバディーは、商店街とは逆の方向へ歩き出した。
家がまばらになり、草原が広がる場所まで足を伸ばした。
ここまで来れば、人はほとんど見かけない。
俺はバディーのリードを外した。
バディーは喜び勇んで駆け回った。
運動量の多いボーダーコリーは、こうやって動き回らなければストレスが溜まる。
この穴場も、モモヨが俺に教えてくれた場所だった。
俺は、走り回るバディーを目を細めて見守っていた。
そこで二時間ほど遊ばせて家に戻ると、0675-Qも戻っていた。
『お帰り、誠。今日はカレーにした。おからは惣菜屋でただでもらえたぜ。余り物だと言っていたから』
このロボットは、商店街では人気者だ。
可愛らしい見た目で、この辺ではあまり見かけないロボットだからだろうか。
大きな街へ行けば、腐るほどいるロボットだ。
子どもの姿にしたのは、人間の警戒心を和らげるのに効果的だったようだ。
メタリックボディーのロボの時は、気味悪がられていたんだろうな。
モモヨの時はどうだったか、覚えていない。まったく気に掛けていなかったことに、俺は愕然とした。
そういえば、モモヨはここに二年以上もいた。周囲に受け入れられていたのか、少し気になった。
俺は少しずつ仕事を再開している。
毎日、俺のホームページに依頼が来るが、その中から良さそうなものを選んで受けている。
この頃は、依頼料を倍にするから受けてほしいというメールも届くようになった。
たまに携帯で見ていると、俺の作ったプラモが破格の値段で転売されているのを見かける。
「モモヨが見たら、何と言うかな」
金のことは、今はまったく気にならなくなった。
好きなことをして、喜んでもらう。今の俺には、それが生きがいになっている。
モモヨがこの家を去る前日、俺に渡してくれたものがある。
『これは、私のメモリのコピーです。もし、半自律型のロボットを購入する機会があれば、これを……』
プラスチックケースに入った黒いチップをつまんで見る。
モモヨは今、この手の中にいるのだろうか。
***
神になったAI 前編 終わり




