三日月ブランコと甘いおともだち
お空にキラキラと黄色い星たちがともる頃、街の明かりがひとつ、またひとつと消えていきます。
みんなが暖かいベッドに入って夢のなかへ出かけていく時間です。
ピンクのパジャマを着た女の子、ココアちゃんは、お部屋の窓から夜空を見上げるのが大好きでした。
今夜のお空には、まるでバナナのように綺麗な形をした、黄色い三日月が浮かんでいます。
「ふわあ……今夜のお月さま、とっても美味しそう。まるで甘いカスタードクリームみたい」
ココアちゃんは小さな口で大きなあくびをしながら、手に持っていた板チョコレートをぎゅっと握りしめました。
それは、今日のおやつに半分残しておいた、大事な大事なチョコレートです。
そのときです。
窓の外から、フワフワとした温かい風が吹き込んできました。
ふと見ると、夜空に浮かんでいた三日月が、すうっと静かにココアちゃんの部屋の窓辺まで降りてきたのです。
「わあ……お月さまが、こんなに近くに!」
ココアちゃんが驚いて目を丸くしていると、三日月の後ろから「ぽんっ」と丸くて白い影が飛び出してきました。
「ウララ〜! こんばんは、ココアちゃん!」
それは、わたあめのように真っ白でフワフワした、とっても小さなおばけでした。
つぶらな黒い目と、ピンク色のまんまるなお手て。
頭のてっぺんには、ちょこんと可愛らしい小さなカーブがついています。
「まあ! あなたはだれ? おばけさん?」
「ぼくはモコ! お月さまの上で暮らしている、星のおばけなんだよ。ココアちゃんがとっても美味しそうなチョコを持っていたから、匂いに誘われてやってきちゃった!」
モコはフワフワと宙に浮きながら、嬉しそうにパタパタと手をお振りました。
おばけと言っても、ちっとも怖くありません。
むしろ、できたてのパンみたいに柔らかくて、甘いココアの匂いがします。
「ふふっ、チョコが欲しかったの? いいよ、半分こしよう!」
ココアちゃんはニコニコ笑顔で、握りしめていた板チョコレートをパキッと半分に割りました。
そして、片方をモコに手渡しました。
「はい、どうぞ! モコちゃん」
「わあーい! ありがとう、ココアちゃん! いただきまーす!」
モコは小さな手で大切そうにチョコレートを受け取ると、大きな口でパクリと一口かじりました。
「ん〜〜っ! お口の中で甘い魔法が広がるよ! とっても美味しい!」
モコのお顔が、ますますフワフワと柔らかくほころびます。
ココアちゃんも自分の分を一口かじり、幸せそうに微笑みました。
「本当だね。夜に食べるお菓子って、なんだか特別な味がするね」
「ねえ、ココアちゃん! お礼に、ぼくの特別な特等席へ招待してあげる! 一緒にお月さまに乗ってみない?」
モコが三日月を指さしました。
よく見ると、三日月の下にはキラキラ光る小さなハートのチャームが揺れていて、まるで大きなブランコのように優しく揺れています。
「お月さまに乗れるの!? 行きたい、行きたい!」
ココアちゃんが手を叩くと、モコはココアちゃんの手を優しく引っ張ってくれました。
ふわりと体が軽くなり、まるで風船になったみたいに宙へと浮かび上がります。
トスン。
ふたりは並んで、黄色く光る三日月の上に腰かけました。お月さまの座り心地は、思っていたよりもずっと温かくて、フカフカのクッションのようです。
「わあ……すごい! 街がこんなに小さく見えるよ!」
見上げれば、紫色に染まった夜空に、黄色や白の星たちが宝石のように散らばっています。
星たちはパチパチと瞬きしながら、「ココアちゃん、モコちゃん、こんばんは!」とご挨拶しているみたいです。
ふたりは三日月に揺られながら、残りのチョコレートを一口ずつ大切に味わいました。
「ねえ、モコちゃん。お月さまの上で食べるチョコは、世界で一番美味しいね」
「うん! だってね、ココアちゃんの優しい『半分こ』の気持ちが入っているからだよ」
モコはキュッと目を細めて嬉しそうに言いました。
夜風が優しく吹き抜け、黄色い星たちがふたりの頭の上でくるくると踊ります。
甘いチョコレートの香りと、お月さまの優しい光に包まれて、ココアちゃんとモコの小さな胸は、ワクワクする気持ちでいっぱいになりました。
「ココアちゃん、これからも夜になったら、こうやってお月さまの上で一緒にお話ししようよ」
「うん、絶対だよ! 明日はね、星くずのシュガーをかけたクッキーを持ってくるね!」
こうして、女の子のココアちゃんと、フワフワおばけのモコの、秘密の夜空の冒険が始まったのでした。




