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憤怒を背負う者  作者: 縁側×野良猫


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第10話 眠る巨壁の剛撃  


 大扉の前で、六人は隊列を整えていた。

 正面にグラード。 その右後方にリオン。少し下がった左後方にはノクス。 さらにアルマ、その後ろにセラとヴェルナが並ぶ。

「いくぞ」

 グラードが大扉へ手を伸ばす。

「待って」

 ヴェルナの声が飛んだ。

「魔力の流れもおかしいわ。準備をさせて。待機魔法を準備するわ」

 右手に火。 左手に風。

 それぞれに魔力を通し、二つの魔法を組み上げていく。

「右手に《火の矢》、左手に《風の矢》。この手に待機を――」

 右手の上で小さな炎が形を取り、左手では細い風が渦を巻いた。

「準備できたわ。もういいわよ」

 そしてヴェルナはアルマを見る。

「それと、アルマ」

「なに?」

「中に入って敵が確認できたら、敵性鑑定してくれる?」

 アルマがこくんと頷く。

「わかった。観察もする」

「よろしく頼むわね」

 ヴェルナが再びグラードへ視線を戻す。

「グラード、もういいわよ」

「わかった。皆もいいか?」

「あいよ。俺はいつでも」

 ノクスが腰のホルスターから投げナイフを抜き、左右の手に一本ずつ持った。

「できている」

 リオンは左腰の刀へ手を添える。 左手の親指で鍔を押し、静かに鯉口を切った。

 右足をわずかに前へ。 上体もほんの少し前へ傾く。

「できてる」

 アルマも短弓に矢を番える。

「私も、できてます。でも、グラード……もう大丈夫なの?」

「なにがだ?」

「きっと、反動のこと」

 アルマが代わりに答えた。

「もういい?」

「ああ。それなら大丈夫だ。さっき休憩もしたし、美味しい飯も食ったしな」

 なぜかノクスが少し照れた。

 セラは安心したように息をつく。

「そう、よかった」

 

 全員が再び大扉へ向き直った。

 グラードの身の丈を越える巨大な扉。 オーガ族である彼から見ても、十分に大きい。

「では、開けるぞ」

 両手を扉につける。

 押す。

 だが、動かない。

「ウ……ウォォォォ――!」

 腰を落とし、全身へ力を込める。 右肩まで扉へ押し当て、床を踏み抜かんばかりに両脚で踏ん張った。

 ギ、ガ……ガ……。

 鈍い軋みが空間へ響く。

 ギィ………

 やがて巨大な扉が、ゆっくりと開き始めた。

 その隙間から、薄暗い空間が覗く。

 奥には微かに台座のようなものが見え――。

 ビュゴッ。

「なんだ?」

 一直線に何かが飛んできた。

 グラードが反射的に大盾を胸元まで持ち上げる。

 直後。

 ズドンッ!

「ぐっ!」

 大盾へ凄まじい衝撃が走った。

 踏ん張っていた両足が、そのまま床を滑る。

 何かが床へ落ちた。

 ゴトン。

「みんな俺の後ろに!」

「どうした。何があった。でかい音がしたが?」

「何か飛んできた」

「足元……」

 アルマが指す。

 ノクスが覗き込んだ。

「なんだこれ! 矢……槍……いや、杭かよ!」

 グラードも足元を見る。

「これだったのか」

 大盾には、わずかな凹みが残っていた。

「グラード……」

「問題ない。このまま進む」

 大盾を前へ。

 グラードを先頭に、六人は慎重に大扉をくぐった。

 フロアへ足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。

 先ほどより冷たい。

 靴音が広い空間へ響き、そのまま奥へ抜けていく。

 薄暗かった内部に灯りがつき、わずかに視界が開いた。 それでも、奥までは見通せない。

「奥がよくわからんな」

「広れーな……」

 ノクスが額へ手をかざす。

「範囲魔法も使えるわね」

「広さが活かせる。でも、警戒は必要」

「だな」

 ノクスはさらに周囲を探る。

「とりあえず、見える範囲に罠っぽいのはねぇな。……じゃあ、さっき飛ばしてきたのはなんだ?」

 視線を前へ。

「……何かいるぞ」

「どこ?」

「あそこだ。見えるか?」

「うん。何かいる」

 さきほど杭のようなものが飛んできた方向。

「あれは人か?」

 リオンが問う。

 アルマは首を振った。

「わからない。遠い」

「俺もわかんねぇ」

 グラードが大盾を構え直した。

「おそらく、あれが飛ばしてきたのは確かだな。では、敵だ」

 視線を動かす。

「セラ、支援を頼む。ヴェルナとアルマは一旦その場に。リオンとノクスは左右へ回り込め。俺は正面から行く」

「共に歩む仲間に加護と祝福を」

 セラが胸元の聖印を握る。

 淡い光が六人を包んだ。

 同時にヴェルナが待機させていた魔法を解放する。

「見敵一撃――!」

 《火の矢》。 《風の矢》。

 二つの魔法が薄闇を裂いた。

 数瞬遅れ、グラードが大盾を構えて走り出す。 リオンは右へ。 ノクスは左へ。

 アルマも矢を放ちながら少しずつ距離を詰める。

「まだ鑑定できない……遠い」

 火と風が人影のあった地点へ到達する。

 着弾。

 ――したように見えた。

 だが。

 そこにはもう、何もいない。

 次の瞬間。

 ガァンッ!

 グラードの大盾が跳ね上がった。

「な……っ、重い……!」

 さらに一撃。

 グラードは腰を落とした。 大盾を体へ引き寄せ、腕だけではなく、左肩から背中、腰へ衝撃を逃がす。

 正面。

 斜め。

 次々と重い打撃が飛んでくる。

 足を踏み替え、腰と肩ごと向きを変える。 盾面を合わせて流す。

 それでも、衝撃そのものが重い。

 足ごと床を滑らされた。

「くそ……早い……!」

 そこへ左右からリオンとノクスが追いついた。

「それっ!」

「そいっ!」

 ノクスが走りながら二本の投げナイフを放つ。

 刃は弾かれた。 だが、ほんの一瞬だけ敵の意識が逸れる。

 その隙へ。

 右斜め後方からリオンが入った。

 腰が回る。

 刀が横一線に走った。

「一閃」

 ギィン――!

 硬い音。

 リオンはわずかに眉を寄せる。

「硬いな……薄皮一枚か」

 傷は入った。

 だが、ほんの僅か。

 アルマも左へ回り込む。

「ここ」

 放つ。

「次、ここ」

 二射目。

 どちらも装甲に弾かれた。

「……硬い。グラードより……多分」

「グラードより硬いのね……」

 ヴェルナが短杖を取り出す。

「そう……これならどうかしら」

 敵へ向ける。

「みんな離れて!」

 前衛が距離を取る。

「これならどう――《炎縛鎖》!」

 炎が走った。

 いくつもの炎の鎖が敵の腕、胴、脚へ絡みつく。

 ジュ……ジジッ。

 装甲を焦がしながら、鎖が締まる。

 敵が動く。

 だが、今度は逃げられない。

「敵性鑑定……」

 アルマの視線が、その全身をなぞる。

「小型ゴーレム……イレギュラー? 材質不明。駆動関節部あり」

「ふーん。材質は不明ね……」

 前衛三人も少し距離を取った。

「人型……小さいな」

「入り口のやつの小型か?」

「そうだが……速い。それに、打撃があれより重い」

 ヴェルナが声を張る。

「アルマが鑑定したわ! ゴーレム系、材質不明、駆動関節ありですって!」

「わかった。材質不明か」

「駆動関節はあるのだな」

「そこが突けるかだな。厳しそうだけどよ」

「今はそこが唯一の弱点か」

「いや、ほんと狙えるかだ」

 ミシッ。

 全員の視線が敵へ戻る。

 炎の鎖が軋んでいた。

「俺ができる限り受け止める。その間に頼む」

「了解した」

「できる限りやってみる」

 ミシ。

 ミチッ……。

「隙を見て、俺も殴る」

「……何か聞こえないか?」

 ヴェルナの表情が変わった。

「……待って。みんな見て」

 敵の肩が動く。

 一本の炎鎖が張った。

 脚が動く。

 また一本。

「ちょっと――」

 バチィン――!

 全ての炎の鎖が一斉に引きちぎられた。

「うそ……」

「これは……」

「厄介」

「げ、マジかよ」

 敵が腰を落とす。

「来るぞ!」

 ノクスは死角へ回り込み、投げナイフと短剣で牽制を始める。

 リオンも摺り足で間合いを測りながら右へ。

 一方、グラードは大盾を前に構えた。

「ウォォォォ――!」

 床を蹴る。

 大盾を左半身へ引き寄せ、右足で強く床を押す。

 腰ごと前へ。

 左肩と大盾を一体にしたまま、敵へぶち当たった。

 ドゴンッ!

 敵の体がわずかに後方へずれる。

 だが。

 倒れない。

「くそ、怯まんか!」

 そこへアルマの矢が飛ぶ。

 敵は煩わしそうに腕を振り、払い落とした。

「この弓じゃ牽制にしか……でも」

 矢筒を見る。

「あと六本……連射はできない」

「傷付いたら下がってください。治癒します」

「火の矢も風の矢も避けられた。もっと早い魔法がいるわね」

 ヴェルナが短杖の先を敵へ合わせる。

 敵と前衛。 その間に生まれる一瞬の射線を待つ。

「風と水、合わせ……雷となす」

 そして。

 その瞬間が来た。

「――《穿雷》!」

 一筋の雷が走る。

 敵も魔法の気配を察知して動こうとした。

 だが。

 雷の方が速い。

 前衛の間を抜け、直撃した。

「とらえたわ!」

 敵がのけぞる。

 その一瞬をリオンは逃さない。

「しっ」

 袈裟。

 硬い音。

 振り下ろした勢いを腰の捻りへつなぎ、

「次」

 胴へ横薙ぎ。

 再び距離を取る。

 ノクスも左へ行くと見せ、右から短剣を入れた。

「そりゃ!」

 敵がそちらを向いた瞬間、短剣を左手へ持ち替える。

「次!」

 突き。

 離脱。

 敵の標的がノクスへ変わった。

「こっち来やがった!」

 速い。

 重い。

 ノクスは左右へ重心を変え、腰を捻る。 時には横へ跳び、上体を逸らす。

 それでも完全には避け切れない。

「ぐっ!」

「大丈夫か!」

「ノクス!」

「掠っただけだ……」

 セラが治癒術を使おうと手を伸ばす。

「まだいい。魔力を取っとけ」

「ですが――」

「ノクス、行けるか?」

「ったりまえ」

 ノクスがバックステップで距離を取る。

「っつ……痛てぇ……」

 その間へグラードが入った。

 左足を前。 右足を後ろ。

 右足で床を押し、腰の回転を巨大メイスへ乗せる。

「ならば!」

 重く、短い横薙ぎ。

 ――だが。

 振り抜く前に止まった。

「受け止められ……た」

 敵が正面から、腕で巨大メイスを受け止めていた。

 間髪入れず反撃される。

 右腕。

 メイスを握った腕が外へ流される。

 続いて右肩。

 右半身が後方へ押し開かれた。

 左足を前へ残したまま、グラードの軸が崩れる。

 倒れまいと右脚へ重心を戻す。

 その瞬間。

 低い一撃が右膝へ入った。

「ぐはっ!」

 膝が沈む。

 右膝が床を打つ。

 さらに連撃。

 グラードは大盾で体を庇う。

 それでも通る打撃を、体で受ける。

「ここ」

 アルマの矢が当たった。

 一瞬だけ敵の動きが止まる。

 その隙へリオンが切り込んだ。

「大丈夫か」

「すまん、助かった」

「かまわん」

 セラがグラードへ手を向ける。

「傷つきし仲間に癒しの恵みを」

 傷が閉じていく。

 痛みは残る。

 それでもグラードは立ち上がった。

 再び、大盾と巨大メイスを構える。

 戦いは続いた。

 グラードが正面。 リオンが右。 ノクスが左。

 三人が絶えず攻撃を仕掛ける。

 だが避けられる。

 弾かれる。

 そのたび反撃を受け、傷が増えていく。

「治癒術が……追いつきません」

「こうも動きが速いと、魔法も追いつかないわ」

「前にグラード達もいる」

「それもあるわ。でも次は関節部を狙う」

 セラが再び聖印を握る。

「勇敢に戦い続ける仲間に加護と祝福を」

 アルマも半身になる。

 弦を引き絞り、息を止める。

 敵の左膝。

「右に五度……左下に三度」

 放つ。

 続けて放つ。

「残り三本」

 三本。

 撃ち切った。

 矢筒へ手を伸ばす。

 空。

「矢が切れた」

 短弓を床へ置き、短刀を抜く。

 二人の前へ出た。

「アルマ、危険よ!」

「でも、薄い壁にはなる」

 その一方。

 ヴェルナの視線は関節部を追っていた。

「っ――《穿雷》!」

 雷が走る。

 敵が一瞬よろめく。

「っ……狙ったとこに当たらないわ!」

 だが、その隙は前衛へ渡った。

 グラードが短く、重い一撃を叩き込む。

 敵の胴が僅かに凹む。

 すぐに大盾へ半身を寄せ、そのまま押し返した。

 敵がのけぞる。

 そこへリオン。

「一つ」

 袈裟。

「しっ!」

 返す刃で横薙ぎ。

「はっ!」

 さらに逆袈裟。

 ギャリッ…‥…

 深くはない。

 だが、確実に傷が入った。

 一旦下がる。

 直後。

 一気に間合いを詰め、突く。

 刃を流しながら横を抜ける。

 ノクスもグラードの背後から二本のナイフを投げた。

 一本が右肩関節。

 もう一本は、リオンがつけた胴の傷へ。

「行けるか」

「傷は入ったようだ」

「動きも少し鈍った気がすんな」

 三人がそう思った。

 次の瞬間。

 敵が消えた。

「いかん!」

 リオンが振り向く。

 一歩遅い。

 グラードも大盾を向けようとするが間に合わない。

「……うぉ!」

 押し除けられる。

 ノクスも進路上から弾き飛ばされた。

「ぐはっ!」

 敵はほぼ一瞬で後衛へ到達する。

 アルマの目前。

 その勢いのまま、蹴りを放った。

「かはっ…!」

 アルマの体がくの字に折れ、後方へ飛ぶ。

 ヴェルナ。

 セラ。

 二人を巻き込み、そのまま壁へ叩きつけられた。

「キャッ、ぐふっ!」

「きゃっ……!」

 構築中だったヴェルナの魔法が崩れる。

「ぐ……げふっ……!」

 アルマが激しく咳き込んだ。

 口元から血が流れる。

「アルマ! アルマ!」

 セラが手を握り、もう片方の手で聖印を掴む。

「深き傷を負ったこの仲間に、癒しの光を!」

 治癒の光。

 だが、回復が追いつかない。

 ヴェルナも短杖を握り直す。

 魔法を組み上げようとする。

 時間がない。

 敵が追撃へ踏み込む。

「させん!」

 横からリオンが割り込んだ。

 勢いを殺さず横薙ぎ。

 そのまま後衛の前へ立つ。

 敵の攻撃を刀で外へ流す。

 弾く。

 半歩引いて衝撃を逃がす。

 隙には突きを返す。

 だが。

 重い。

 速い。

 腕。

 肩。

 脚。

 負担が積み重なる。

「く……!」

 リオンの膝が落ちた。

「やばいぞこれ!」

「このままでは間に合わん!」

「少し先に行く!」

「おい、ノクス!」

「少しばっか壁になりに行くわ。あんまもたんから、すぐ来てくれよ!」

 ノクスが速度を上げる。

 短剣で受け流す。

 避ける。

 フェイント。

 一歩退き、また間合いを詰めて突く。

 リオンへの攻撃を引き受ける。

「っ……!」

 だが、やはり重い。

 傷が増える。

 その時。

 ドッドッドッドッ――。

 重い足音が近づいた。

「これは……何とか間に合いそうだな」

「そ……だな」

 ドッゴォンッ!

 敵の横から衝撃。

 大盾ごと、グラードが突っ込んだ。

 敵が横へ流される。

 だがすぐに立て直し、攻撃を再開した。

 グラードが受ける。

 大盾を傾け、外へ流す。

 踏み込まれれば押し返す。

 隙には巨大メイスを短く叩き込む。

 それでも反撃は止まらない。

 傷が増えていく。

 それでも。

 後ろへは通さない。

 グラードは大盾を構え直した。

 その背後。

 傷だらけのノクス。

 片膝をつき、荒い息を吐くリオン。

 魔法を立て直そうとしているヴェルナ。

 意識を失ったまま横たわるアルマ。

 その傍らで、必死に治癒を続けるセラ。

 グラードが振り返る。

「セラ。アルマは……どうだ」

「もっと強い治癒術なら……。でも、その時間が足りないわ」

「わかった」

 前を向く。

 大盾を握る左手。

 巨大メイスを握る右手。

 力が入る。

 歯を食いしばった。

 怒りが込み上げる。

 目の前の敵へ。

 だが。

 ただ壊したいわけではない。

 守らなければならない。

 何としても。

 後ろにいる仲間を。

 怒りが、守るための力へ変わる。

 グラードは深く息を吸った。

 長く吐く。

「はぁぁぁ――」

 そして。

「《憤怒護界》――!」

 グラードを中心に、闘気が広がった。

 守りの圏。

 淡い障壁が仲間たちを包み込む。

 グラード自身を覆う気配も、さらに厚くなる。

「ヴェルナ、いけるか!」

「まだきついけど、やれるわ!」

「あれを頼む」

「わかったわ。少し長くなるけど耐えて!」

「任せろ」

 ヴェルナが魔法構築へ入る。

 グラードは腰を低く保ち、大盾を前へ。

 重い攻撃には重心を後ろへ逃がし、盾面を傾けて外へ流す。

 押し込まれれば後ろ足で床を押し返す。

 隙。

 巨大メイス。

 短く。

 重く。

 叩き込む。

 すぐに重心を中央へ戻す。

 後ろへは通さない。

 何度も。

 何度も。

 その攻防の中で、変化が起きた。

「……軽くなったな」

 大盾へ伝わる衝撃が違う。

 先ほどまでの重さがない。

 動きも、僅かに遅い。

 リオンが刻んだ傷。

 ノクスが重ねた傷。

 アルマが加えた傷。

 ヴェルナの《穿雷》。

 その全てが積み重なっている。

「受けやすくなった」

 その間に治療を受けたリオンが立ち上がった。

 前へ出ようとする。

「そのままで」

 グラードが止めた。

「応」

 

 左腰の刀。

 鯉口を軽く切る。

 右足を半歩前。

 左足を後ろへ残す。

 腰を落とし、重心をやや右へ。

 ただし、後ろの左足には蹴り出せるだけの力を残す。

 呼吸を整える。

 敵だけを見る。

「できたわ」

 ヴェルナの声。

 

 視線を敵へ固定する。

 短杖を高く掲げた。

 そして、一気に振り下ろす。

「《雷槌》――!」

 轟――!

 極大の雷が、上方から敵へ叩き落とされた。

 敵の全身が激しく痙攣する。

 装甲が焦げる。

 関節部から火花が散った。

 遅れて膝が崩れる。

『損傷……大……戦……闘……継……続不能……不能……』

 それでも。

 まだ動こうとする。

『……せ……ン……と……ウ……ケイ……続……』

 リオンは見ていた。

 待っていた。

 動きの鈍った、その一瞬。

 短く息を吐く。

 後ろの左足が床を蹴った。

 ――縮地。

 間合いが消える。

 刀が抜ける。

 一閃。

「――零に帰す」

 リオンは敵の横を数歩通り過ぎた。

 立ち止まる。

 刀を鞘へ戻す。

 チン。


 僅かな間

 敵の体に、一筋の線が走った。

 そして。

 静かに、ずれた。


――第11話へ続く。


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