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海神の声
アシハラ王国の北に浮かぶワタツミ諸島は、神々が最初に降り立った聖なる島々と伝えられていた。
十五歳の王子ナギは、小舟を操りながら島へ向かっていた。
「本当に神託なんてあるのかな」
波は穏やかだったが、空はどこか重たい。
島へ上陸すると、古い鳥居の向こうにある祭壇へ進む。王家の者は十五歳になるとここで神託を受ける決まりだった。
祭壇の前に立った瞬間だった。
海風が止んだ。
鳥の声も消えた。
静寂の中で、ナギは確かに聞いた。
――東より赤き旗が来る。
――鉄と炎が国を覆う。
――王となる者よ、未来を選べ。
その声と同時に、目の前へ不思議な光景が広がった。
燃え上がる港町ミナトツ。
崩れ落ちるオオカム殿。
赤い旗を掲げた兵士たち。
そして、炎の中で立ち尽くす自分自身。
「やめろ!」
ナギが叫ぶと幻は消えた。
気がつくと膝をついていた。
冷たい汗が背中を流れる。
その時、遠く東の海に黒い影が見えた。
一隻の船だった。
見慣れない形の軍船。
赤い旗が風にはためいている。
ナギの胸が大きく脈打った。
神託は幻ではなかったのだ。
王国アシハラの運命を変える嵐が、今まさに海の向こうから近づいていた。




