038.牛牛タンタン 牛タンタン
「で? このタンをどうするんだ?」
「どうするもこうするも、適当に切るだけだ」
ツカサの言葉に、そう答えてセイジはタンを切っていく。
薄切り。
厚切り。
サイコロ。
カットしたいくつかは串打ちしたりもする。
「あ、そうだ。あれやって欲しい。あれ!」
「あれ?」
:ツカサくんのテンション高くて可愛い笑
:二人とも友達だって感じだわ~
「マンゴーカット的なやつ」
「まぁ構わないけど」
リクエストに応えて、セイジは厚切りにしたものに賽の目を作るように格子状の切り込みを入れていく。
「火を入れればもっと開くとは思う」
「これこれ! なんか見てるだけでテンションあがるやつ!」
:わかるw
:カットされたのが綺麗に皿に並んでくだけでたまらん
:よく分からない肉の塊が見知った姿になってく・・・
「よし。これ、向こうの部屋に持っていって、このあとの準備をしといてくれ」
「おーけー!」
綺麗に生タンが盛り付けられた皿をツカサがどこかへと持っていく。
「別室でツカサが準備をしている間に、残った作業を終わらせようと思う」
:生肉が綺麗に並べられてて高級店かと思った
:焼き肉ってズルいよな生肉なのに旨そうに見えるもん
ツカサがいない間に、セイジは生タンを切った包丁とまな板を流しにいれた。
手早く丁寧に自分の手を洗ったあと、それらも洗剤で手早く丁寧に洗うと水切りカゴへと放り込む。
:ツカサがいなくなった途端完全に無言だw
:黙々と片付けてて草
:でも作業している横顔とか良き
:喉仏もいいぞ
:メカクレもいいぞ
:指先もいいぞ
:声は・・・聞こえないぞ・・・
:声勢は耳を澄ますんだ!吐息を感じろ!
それから、キッチン用ウェットティッシュで作業する場所を拭いてから、新しい包丁とまな板を取り出した。
:料理人的にポイントの高い動きするなニキ
:生肉使ったあとのムーブが分かってる人の動きだなぁ
:今度は何するんだ?
恐らくは事前に用意してあったのだろう。
画面外から長ネギを取り出すと、白い部分を広げて極細切りにして白髪ネギを作った。
それに、少量のごま油と白だし、岩塩、小瓶のドライニンニクと粗挽き黒胡椒を振って良く和える。
行きつけのお店に置いてあるおつまみ白髪ネギを、自作してみたものだ。
:白髪ネギのナムル的なやつか!
:薄切りタンに乗せてたべたら絶対うまいやつ!
白髪ネギを作るのに余った白い部分は細かく刻む。
こっちは市販の焼き肉用塩ダレで和えれば、ネギ塩ダレの完成だ。
頭の緑色の部分は、今日は使わないので保存用の袋に入れたあと、SAIに放り込んでおく。
SAIはモノを入れる分にはダンジョン外でも可能だが、取り出すにはダンジョン内である必要がある。
ただ、保存性という意味では冷蔵庫よりも高いので、セイジはわりと便利使いしていた。
なにせペーパー探索者時代ですら、食材保存に使っていたほどだ。
家の近所の人気の少ないダンジョンのエントランスで取り出して、マイバッグに入れて家に持ち帰るとか、今もやっている。
それから、自宅で茹でてきたもやしとほうれん草も取り出して、それぞれにネギと同じような味付けのナムルを作った。
「あと、牛タンなら必要だとツカサに力説されたこれもやる」
やはり画面外で用意してあったらしい白くて長いモノが現れた。
いつの間にかビニール手袋を装備したセイジが、その白いモノをすりおろしていく。
:とろろキター!
:確かに仙台で定食頼むと麦とろ出てくるよな
:牛タン=麦とろってなんでなんだろ?
:まぁ細かいコトはともかく旨そうならよし
すりおろしたあとは、ダシを加えて混ぜ伸ばしていく。
それを今度は、二人分の深めのお椀にうつす。
「こんなところか」
ふぅ――と、息を吐いたところで、一部のリスナーが妙に盛り上がる。
だが、セイジは特にそれを気にした様子もなく、キッチンを片付けていった。
「こっちは準備できたぞー!」
「了解だ。皿に盛ったやつはもってってくれ」
「あいよー!」
ツカサはナムルの盛り合わせや塩だれ、とろろの乗ったお盆を手に取ると再び準備していたという部屋に持っていく。
それを横目に、セイジは一度ドローンの方へと向き直って告げた。
「……リスナーもツカサも気になっているだろう鍋を開ける」
:来るぞ
:ついに地獄の釜の蓋が
:強烈な飯テロ注意報の気配がする
:タンの時点で飯テロが吹き荒れてるんだ馴れたもんだぜ
「家で仕込んできたのをここで温めながら仕上げたタンシチューだ。
まだ筋切りの終わってなかったタン下部分をベースにした塊肉を敢えて使ってみた」
:……?!
:絵面が強すぎる……!!
セイジは、濃褐色のとろりとしたルーの中から、ステーキのように分厚い肉をトングで掴んで取り出すと、深めの平皿に乗せる。
:あああああ
:ダメだ耐えられん・・・
:嘘でしょ
:なにあの分厚いの
:つやつやのぷるぷるがやわやわしてる・・・
さらに鍋の中から、しっかりと形の残る人参とジャガイモのを取り出すと肉の脇に乗せた。
レードルでルーをすくうと、肉が綺麗に見えるようにかけていく。
黒胡椒と桃胡椒の実を皿に散らし、茹でブロッコリーを脇に添え、クレソンをタンの上に乗せれば完成だ。
:すごいボリュームなのに盛りが上品だ
:節制さん料理が上手すぎる
:ゆるゆると昇る湯気のせいで画面越しでも香りを感じ取れそう・・・
「すげぇぇぇ!? なんだこれ? ビーフシチュー!?」
「ガーロのタンシチューだ。盛りが崩れないように持っていけ」
「おう!」
:ツカサくんのテンションがすごい
:あのシチュー見てテンションあげない男の子はいないでしょ
:いや女でもテンション爆上がりするから
ツカサが運ぶのを横目に、セイジは流しをサッと片付けられる範囲で片付けた。
それから、セイジは炊飯器を開けて、お椀にご飯を盛ると、それを手に、ドローンを伴ってツカサのいるリビングへと向かう。
:ついに食卓がくる!
:この二人の食卓だぞ油断するな
ちゃぶ台のような背の低いテーブルの上に、大きめのホットプレートが乗せられている。
その周囲にはカトラリーや、ナムルの盛り合わせの乗った小皿に、タンシチューが置かれている。
別途用意された小さな折りたたみちゃぶ台の上には綺麗に盛られたタン。
トドメに、炊きたてご飯をよそったお椀を、とろろの入った器のそばに置いた。
:良い食卓だねー!
:豪勢すぎるだろ
:食卓そのものが飯テロすぎる
:もしかしてダウナーさんのお嫁さんになればこれが毎日・・・?
:いやさすがに毎日はありえないってw
:いくらなんでも毎日ネームド狩りはムリだろ
:鳥型のネームドだけは残しておいてください
:そうだなネームドの数が足りないよな
:でも○ニキならワンチャン毎日一殺でも・・・・
:毎日こんな豪勢なんはムリって話じゃなかったの?
勝手知ったる自分の家のように、セイジは自分用のザブトンを手にすると、定位置に座る。
「ツカサ。今は配信中だから、ウーロン茶な」
「わーってるよ」
:ツカサがめっちゃ飲みたそうで草
:酒飲みたみはよく分かるw
:酒好きからするとこの食事で酒無しは拷問では?笑
「どうやって食べてくんだ?」
「焼きに時間がかかるから、焼いている間に他のをつついていけばいいだろ」
「おっけー」
セイジは生肉の皿から、串打ちされたタンを二本手に取って、ホットプレートにセットされた波形鉄板の上に置く。
さらに、マンゴーカットされたタンステーキもその横に置いた。
:タン串焼き始めた……!
:ステーキまで!
:絵面がずるい!絵面がずるい!!
そして、肉がじゅーじゅーと音を立て始めたところで、ツカサがウーロン茶の入ったグラスを小さく掲げる。
「とりあえず」
「ああ」
その意味を理解してセイジはうなずくと、ウーロン茶の入ったグラスを手に取った。
「乾杯」
二人がグラスを軽くぶつけ合うと、コメント欄にも乾杯というコメントが飛び交っていく。
「まずはナムルからいくか」
ネギのナムルを口に運び、目を瞬いた。
「なぁおい。これ、もしかしなくても『焼肉居酒屋 くねくね』のヤツか?」
「意識はしてる。そっくりの味付けにはなったんだが、納得はまだまだなんだ。どうやってあの味にしているのかが分からなくてな」
「この再現度で納得してないのか……めちゃくちゃ旨いぞ」
「だが、くねくねのネギナムルはもっと旨いだろ」
「そう言われるとそうなんだが……」
:ツカサくんは驚くほどの再現度なのにダウナーさんが納得してないの面白いな
:やっぱ○ニキって凝り性なんだな
:お店のことはわからんけど90%くらいの再現度っぽいのがまた
:レシピはシンプルそうだから味が一歩足りないのは調味料の分量かあるいは何か隠し味があるのか
:岩塩じゃなくて藻塩なのかもな
:燻製塩の可能性もあるんじゃない?
:なんで今日は料理有識者がコメントに多いんだ?
:ツカサさんとこのリスナーさんかな?
:まだちゃんとダン材料理をする配信者が少ないからやってると聞くと駆けつけちゃうんだよ
:せっかくの美味しそうなダン材をゲテモノ扱いで面白おかしくぐちゃるヤツ多くてなぁ
:ガチの料理人ネットワーク的なとこで話題になってるのか
:そうそうそんなかんじ
「ナムルはもやしも葉っぱも旨いな」
「やっぱり、くねくねの同系統のナムルと比べてもひと味……」
「お前なぁ……褒めてんだから喜べよ」
「嬉しくないワケではないんだが、自分が納得いってないからな」
:この辺りムルちゃんとのやりとり思い出す
:ふつうの人の喜びを5とすると1や2くらいにしか感じないってやつなw
:やっぱ飲み込む時の喉の動きドキドキする
:ところで指フェチ勢気づいているかダウナーニキだけでなくツカサニキも箸使ってる指がなかなか良いコトに
:無論 気づかないワケがなかろう
:普段の配信から気づいてたけど言えてなかったからここで存分に語りたい
:いいぞー!語れ語れー!
「ま、ナムルの話はいいや。焼けるまでまだ時間あるよな。なら、タンシチューいくぞ」
「ああ」
:ついにくるか
:対ショック耐性用意!
ツカサがナイフとフォークを手にし、タンシチューのタンにナイフを入れる。
「おお? 手を動かさずともスッといくぞ……」
:やわらぁぁぁぁぁい!
:形しっかりホロホロになってるのか
:しっかり下拵えもされてるみたいでレベル高いな
:ダウナーニキは元々中華のお店の厨房で長いこと働いてたらしいです
:厨房経験者なんだなるほどー
「リスナー、これどうよ」
フォークに刺さったそれを、ツカサはドローンに向ける。
:あああああああ
:いっそ官能的でさえある
:ツカサさんのアップに色々フェチが捗りそうなのに肉から目が離せない!
:食べたいいいいいいいいいい
「それじゃあ、いくぞー」
軽い調子で言いながら、ツカサはリスナーに見せつけたそれを、口へと運ぶのだった。




