037.タン タン タタタン
ガーロと戦った日の翌日。
まだ昼というには早い時間に、シヅルからLinkerにメッセージが届いていた。
「わざわざ、知らせてくれたのか」
どうやら彼女が角の回収に行った際に、舌も回収できる状態になっていたようだ。
シヅルにお礼の返信を送り、出かけるための服に着替える。
着替えの途中に、ふと思うことが湧いた。
何となくではあるのだが、せっかくのユニークモンスターのダン材料理だ。
一緒に討伐したメンバーで卓を囲むのも悪くないと思ったのだ。
なので着替えたあとで、シヅルに追加のメッセージを送ってみる。
[セイジ]
週末にガーロのタンを食べる配信をする。二人で食べに来るか?
配信に出たくないなら、画面の外で食べててくれて構わない
すぐには返信が来なかった。
既読もついていないので、見ていないのだろう。
(フウリュウを誘ってもいいが……まぁあいつは、来週の本命配信の時でいいか)
そんなことを考えながら出かける準備を終えた頃、スマホにLinkerからの着信通知が表示された。
「返信が来たか……なんで動画?」
訝しみながらも、届いた動画を再生する。
動画に現れたのは、ココアとキョウコの二人だ。
[シヅル]
動画が送信されました。
『すとっぷ! すとっぷ! どくた~~すと~~っぷ!! 今週末にお出かけとか許さないんだからね~~!!』
『なんでよぉぉぉぉッ!! いいじゃん! 週末くらいなら視力が多少戻ってるからメガネかコンタクトでイケるじゃんかぁぁぁぁ!』
『こらキョウコ。目が見えてないのに暴れるな……ああ、ほら、麦茶のグラスを倒して……まったく!』
『一晩明けた今の時点でさぁ~~、まだ失明が回復してねぇだろ~~がよぉ~~!! 明らかに普段より重てぇだろ~~ッ、その後遺症状はよぉ~~!! 週末までにどんだけ回復するからわかんねぇからぁ~~、ダメだって言ってんだよぉ~~!!』
『ええい! 不揺もエキサイトする気持ちは分かるがダボ袖を振り回すな……あー……言わんこっちゃない……』
『やだぁぁぁぁ!! 行きたいぃぃぃぃ!! タン! タン! タタタァァ~ン!!』
『歌ったとこでどうにもなんねぇからなぁ~~~~~!! そうりゃあ心愛ちゃんも興味あるけどさぁ~~~~ユニークモンスターの牛タンとかさぁ~~!! でも患者の完治優先すんだよぉぉぉ~~!!』
『キミたち。テーブルの上の惨状をどうするつもりかね?』
そこで動画は終わった。
どうして良いかは分からないが、言いたいことは分かった。
成人済みの女性たちが何をやっているんだ……と思いはしたが、脳裏にツカサ、サイキ、コウタ――カイズの本名だ――と馬鹿騒ぎする自分の姿が過ったので、ツッコミは入れないこととする。沈黙は金である。
さておき、なんと返信しよう――と困っていると、シヅルからメッセージが飛んできた。
[シヅル]
お誘いはありがたいが、動画の通りドクターストップで難しそうだ
[セイジ]
そうみたいだな。そういうコトならば仕方がない
返信したあとで、セイジは追加のメッセージを送った。
[セイジ]
一応、来週末はガーロを本格的に食べる配信をする予定だ
ドクターストップが解消されるようならまた誘おう
[シヅル]
ユニークは味がとてつもなく良いと聞くし興味はある
教子には黙っておき、不揺から許可が下りたなら話をするとしよう
[セイジ]
そうか
大丈夫だと判明した時点で連絡をくれると助かる
[シヅル]
了解だ
楽しみにしておく
シヅルとのやりとりを切り上げて、スマホをズボンのポケットへとねじ込むと立ち上がる。
「さて――とりあえずは、タンを回収しに行って週末の為の下拵えだな」
ジャケットを羽織り、財布とカバンを手に取ると玄関へと向かう。
「ダルいが、行くか」
・
・
・
週末――
時間になった。
待機画面が表示され、画面には『To Listeners. Getting Ready Now. Please wait.』という文章が躍りだすと同時に、BGMが流れ出す。
:待機
:待機
:ゲストがいるって告知してたな
:待機
:馬鹿でかい牛料理楽しみ
:待機
:ゲストにツカサくんが出るって聞いて
:ツカサくんの告知から
:待機
:ゲストの人って有名な感じ?
:探索者の女性向けヘアアレンジの紹介とかしてる美容師
:間に合った
:この間のユニークを料理するのかな?
:待機待機待機
:ダウナーさんってツカサさんの配信にちょろっと出演した節制さんだよね?
:わくわくする
:待機
:ゲストさん経由のご新規さん多い感じ?
:ユニークモンスターを料理と聞いて!
:鶏肉じゃないのが残念だけど興味はマシマシのマシ
:待機
:ん?
:待って
:よしまだジャズタイムだ
:垢名違ったけどまさか
:さすがに本人じゃないっしょ
:待機
:わからんぞ内容が内容だし
:ダン材料理扱ってるチャンネルにちょいちょい出没するから珍しいもんでもない
:待機
:アカウント名が違うんだ誰でもいいだろ
:なになに?有名人っぽい垢でもあった?
:待機
:それもそうか
コメント欄が盛り上がっている中、音楽が終わり、いつものアニメーションでチャンネル名が貼り付けられて、画面が切り替わる。
:キター
:はじまた
:今日も良いメカクレありがとう
:あれ?どこかの家?
「どうも」
ワ○ルドがいつもの調子で挨拶をして、半歩横に動く。
「それと、Warblerで告知した通り、今日はゲストがいる」
「どーもー!」
すると、髪をオレンジに染めたチャラい雰囲気のイケメンが現れる。
「ダンジョンの中でもおしゃれをしたい! そんな悩める女性の頼れる味方! そしてこのチャンネルでは『魔術師』という名前でモデレーターをやっている美容師ツカサでーす!」
:この人が魔術師さんか!
:荒れまくってた時はありがとう
:待ってダンジョンの中でするおしゃれとかあるの?
:ちょっとツカサさんのチャンネル登録してきた
:ダウナーチャンネルの女性リスナーがすごい勢いでツカサのチャンネル登録に走ってて草
「おお! みなさんありがとう! それだけでもゲストに来た甲斐があるってもんだ」
「……ツカサ、お前すごいんだな」
「なんかお前に言われるとすごい感ねぇんだよなぁ……」
:ダウナーニキは覇気がないからなぁ
:本人の気質的に本心が伝わってない場面とかありそうw
「それで? 今日は何を食わせてくれんの?」
「ここにはお前の美容系グッズや商売道具、お高い配信機材も多いから生肉は出せない」
「お? 肉? 肉なのか?」
:あ、やっぱりツカサくんの配信部屋か
:見覚えあると思った
:これダウナーニキの自宅だと配信できないからツカサの配信部屋借りてる感じだろw
:見返りは料理ってところだろうなー笑
「コメントの人たち正解! ここは防音設備付きのオレの自宅。ワ○ルドの家は造りはしっかりしてるけど防音設備はないし、キッチンも狭いんだよねぇ」
「ツカサの配信の手伝いとかしているうちに、すっかりここのキッチンに馴れてしまったからな。便利使いさせてもらっている」
:ワルニキは配信者やる前から配信の手伝いとかしてたんだ
:ツカサくんが時々やってたご飯食べながらの配信ってだいたいダウナーさんが作ってたりしてます?
「ああ。ツカサがやっていた食事配信のメニューはだいたいオレが作った」
「ダンジョン探索に持って行けるダイエットメニュー弁当とか一緒に考えてくれたのはコイツだ」
:普段より遠慮のない声いい
:○ニキならできそうだと思ってしまう
:ツカサくん結構ダウナーさんを便利使いしてた?
:ツカサくんのチャンネルで声を聞いた時も思ったけどダウナーさんの声なんかいいなぁ
「さて、どうだろうね?」
コメント欄と軽くやりとりしてから、二人は立ち上がるとドローンを伴ってキッチンへと向かう。
なおセイジは、この辺りの移動の導線などは事前にツカサと打ち合わせておいた。
導線上にある映ると困るものなどは、事前にどかしてある。
「キッチン到着だ」
「それで? 何を使うんだ?」
:さぁ何が出る?
:ガーロの肉だとは思うけど
「これ」
キッチンに用意しておいた大きめのクーラーボックスから、肉の塊を取り出してまな板の上に置いた。
それだけでまな板からはみ出しているサイズの肉だ。
「……何これ? いや、肉なのは分かるんだけどさ」
:なんかツルっとした肉?
:赤身かな?
「牛タン」
「タン!?」
「ああ。この間、オレが討伐したネームドユニーク。暴れ鬼牛の変異種である『傷ついた赤鬼、ガーロ』。それの舌の一部だ」
「これで一部とか、どんだけデカかったんだよ……」
「デカすぎてそのままは用意できなかった。だからタン先、タン中、タン元――それぞれを使いやすいサイズに切り出したモノを使わせて貰う」
:タンかー!
:正体が分かった瞬間美味しそうに見えてきた
:タンの部位のさらに切り出したモノの一部でこのサイズか
:なんか奥の方でデカい鍋がすでに火にかけられてるのも気になる
「お願いした解体スタッフさんは、料理知識があったようで、わざわざタン下の硬い筋や血管は取り除いてくれていたのはありがたい」
:有能な解体担当さんだ
:タンってそういう処理をするんだ
「ちなみに取り除いてくれた筋や血管も、後日ちゃんと料理に使う。無駄にはしない」
:皮はどうするの?
:確かにタンは皮剥がす作業が必要だよね
「丸々一本ではなくすでにバラバラに斬られているし、タン下の筋も取り除かれてるから、火を入れなくても意外とするっと剥けた。ふつうの牛だと意外と苦労するのを思うと、これはダン材ならではかもしれないが」
コメント欄の質問に答えるように、セイジはドローンカメラに指先を映させながら、タンの表面を剥いてみせる。
:肉を押さえて包丁を扱う指のエロティックさ!!!!
:あ、それコメントしていいんだココ
:確かにダウナーさんの指ってなんかいいですよね
:ここじゃあやりすぎない程度なら性癖コメント出せるんだぜ
「おお。本当に綺麗に剥けるな。
……ところで、そっちのとろ火でコトコトしてるのなに? なんかすっげー良い匂いするんだけど?」
:良い匂いなのか
:タンで煮込みといえばあれだろ
「リスナーともども、完成を待っててくれ」
:ツカサが話しかけまくるからワルニキもめっちゃ喋ってくれる!
:喋るからすごい喉仏が動く!えろい!
:気兼ねないお喋りしている感じも良いよねぇ
:あのメカクレ党メカクレ党の新規勢はおりませんかー!?
:いるよ!ココにいるよ!メカクレ!!!!
:声フェチ集まれ!!
:はい!!!!
:普段反応が薄いニキだけどツカサがいるおかげで反応あるの大きいな
:あと新規勢がどんどんフェチネキたちに巻き込まれてるのもすごい
:もうなんのコメント欄かわからねぇなこれw
:ダウナーニキの配信なのか私のフェチズム発表会なのか
「なんのコメント欄もなにも、ダウナー・ジャジー・キッチンのコメント欄だろ」
盛り上がるコメント欄に、ツカサがしごくもっともなツッコミも入れるのだが――
:そうだったような気がする?
:性癖発表会場でもよくね?
:ユニーク調理会場の間違いでは?
:鶏肉料理とかでます?
:なんであれ楽しいコメント欄ってコトではないでしょうか?
:こういうハチャメチャワイワイなコメント欄も良いですね!
「……分かってたけど、お前のところのリスナーって無秩序すぎない?」
「そうか?」
:ニキは放任主義なので
:特にワルニキはコメントルール作ってないしな
:ダウナーさんが何も言わないのでコメント欄で勝手に盛り上がるのがデフォなので
:ワルニキにわしらは育てられた
:育てたんじゃないんだ
:ニキは最初から育ってたから・・・
:わいらの性癖の塊として最初から存在していたのじゃ。。。
――どうやら通用しないようで、ツカサは諦めたように嘆息するのだった。




