016.マイペースに行こうぜ
約一週間で3000pt超えしました٩( 'ω' )و
ランキング表紙入り含めて、お読み頂いている上に、ブクマや評価してくださった皆様ありがとうございます!
草原のようなダンジョンのエントランス。
くるぶし丈くらいの背の低い草が広がる空間の周囲には、セイジよりも背の高い草が壁のように生えている。
そんな場所で、セイジは撮影用ドローンを起動して、挨拶をした。
「どうも。ワ○ルドです。
ダウナー・ジャジー・クッキング、二回目をやっていきたいと思う」
初回はがんばって敬語を使おうと奮闘したが、なんか敬語で喋るのはダルかったので、今日はもう素で喋ることにした。
:きたな
:Warblerにフラっと告知が来てたから慌てて見に来た
:初見
:今日も喉仏がセクシーですね!
「今日は鎧甲イノシシをターゲットにする予定」
:どんなモンスター?
:皮膚が鎧みたいに硬いイノシシ
:なかなか手強い系のやつだ
:はじめまして
今日のコメント欄は比較的落ち着いている。
とはいえ、まだまだ「ムルに近づくな」系のコメントもあるようだが、前回と比べるとだいぶ少ない。
「実は音楽関係の仕事をしている友人に、番組用のBGMをお願いした。
そして依頼料の代わりにダン材料理を食べたい。肉で――と頼まれたので、今日は狩りにきた」
:確かに待機中くらいはBGMほしいかも
「ちなみにヤツはそれでメシ喰ってるプロなので、ダン材料理があればお礼は要らないと言われてるものの、ヤツの口座に報酬はブチ込む予定」
:偉い
:お友達だからとなぁなぁにしないのいいね
「とはいえ、狩るだけだと面白くないと思うので、ちゃんと料理もする」
:今日はちゃんとしゃべるし解説してくれるんだ
「……前回、あまりに喋らなすぎたので……。
ただ、やっぱりこうやって喋り続けるのは、苦手……。
探索中はまた黙り込んでしまうだろうから承知してくれ」
:むしろそれがいい
:ダンジョン探索ASMRとして最高
:セクシーな喉仏が楽しめれば万事OK
:それでも焚き火とか穂波とかのリラクゼーションサウンド的で好きよ
:新規だけどコメント見ててもどういうダン配だかわらない
「問題ないと言ってくれるのは助かる。
今後もこういう探索前ですらあまり喋らない回があったりすると思うが、それでもよければ、これからもよろしくお願いする」
:激しいバトルや楽しいトークを期待している初見は肩透かしくらうかも
:とにかく淡々と探索して淡々と料理する淡々とした配信だよ
:セクシーな喉仏を堪能する配信だと思うの
:低音イケボによる吐息を堪能する配信じゃないの?
:ASMR的ダンジョン配信かな
:額に汗するメカクレイケメンを楽しむモノでは?
:なんか一人増えてる気がする
:元々いたけどあんまコメしてなかっただけ
:なるほどわからん
:合う合わないがハッキリしてるから見て判断してくれ
「ああ、そういえば言ってなかった。
今日は東京にあるカントリーダンジョンと呼ばれているところにきています」
:あの市境にあるゴルフ場か
:ダンジョン発生してるのにふつうに営業してるとこだよね
:あそこ探索しにいくとゴルフしないかって誘われるんだよな
:ダンジョンあるのにゴルフできるの?
「ダンジョンが発生しているコースだけ使用停止になってるんだ。他はふつうに使えるらしい」
:特定の敷地・施設なんかの中にあるダンジョンなら面倒くさくともローカルルール説明した方がいいかも?
:配信見て興味持って突撃する人の為に
:敷地のルールを守らないと探索させてもらえないタイプのダンジョンなんてのもあるのか
「あー……そうか。そうだな。しておくか」
コメントを見て、セイジはうなずいた。
「ここ――カントリーダンジョンは、そもそもが会員制かつ予約制のカントリークラブの敷地内にある。なので探索者であっても敷地内を歩く際にドレスコード求められるので注意してくれ」
:ドレスコードのあるダンジョン!?
:すごい新鮮なフレーズを聞いた気がする
「探索者はクラブへの会員登録や予約は不要なんだが、ドレスコードだけは言われる。
あと勝手に探索はできず、必ず専用の受付で簡単な手続きをした上で探索する必要もある。帰る時も必ず受付に声を掛けるように。
探索者用のロッカールームは設置されているので、そこで訪問用ドレスから探索用装備に着替えて探索する形になる。もちろん探索を終えたら、訪問用ドレスに着替えるんだ。受付に帰る挨拶する時にドレスコードが必要だからな」
:なんか面倒そうだな
:実際面倒だけどそういう場所にあるダンジョンだからな
:紳士の社交場に現れた紳士用ダンジョンみたいなモンだし
:特定の施設や敷地内に生まれたダンジョンは探索に敷地内のローカルルールがあったりするから探索する時は注意が必要
「コメントにある通り、確かにダルいルールの多い場所だが――シャワールームを含む一部の施設は無料で利用させて貰える。
それに、良い感じのホテルメシが割安で食える。そういう探索者専用の食堂も併設されてたりもするんだ。
なので色々とルールがダルい代わりに設備は相応だから、かなり良い場所だとは思ってる」
:シャワーシーン配信します?(ワクワク
「しない」
:草
:即答だった
:居合い並みに早かった
「ああ、あと。ローカルルールが厳しい場所だからか、やから系探索者が少ないのもダルくなくていい」
:確かにドレスコードある場所に変なのは来づらいだろうな
:さすが紳士の社交場に生まれたダンジョンってところか
:ドレスコードは守るのにやらかすヤカラも一定数存在はするが
:そういうのに遭遇しちゃったらもう運が悪かったとしか・・・
「それじゃあ、ぼちぼちエントランスから先に進もうと思う。
ここからは……前回同様に、口数が減るが、引き続きよろしく」
:OK
:りょ
そうして、ドローンに表示させていたコメント欄を閉じて、軽く深呼吸。
「ふー……行くか」
:この吐息感!!!!
:楽しそうだなネキ
前回同様、静かな足取りで歩き出す。
目指すのは背の高い草が絡まり合って鳥居のようになっている場所だ。
そこに土でできた地下への階段のようなモノがある。
その階段をゆっくりと降りていく。
:相変わらずダンジョンって不思議だよな
:草原の中に地下への階段があって降りるとまた草原だもんな
コメントにある通り、階段を抜けると草原が広がっている。
エントランス同様にセイジよりも背の高い草が壁のようになっている迷路だ。
壁になっている草はかき分けて進むこともできるらしいが、それそのものが非常に硬い草で、肌を擦るとケガしかねない。
なのでセイジは素直に迷路を進んでいく。
「目的地は2階なんで、この階はとっとと通り過ぎる」
ドローンに向けてささやくようにそう告げた。
:しゅき
:いい声すぎる
一部のリスナーが盛り上がる中、前回同様にセイジは静かに進んでいく。
:ほんと喋らないんだ
:この静かなのがいいんだよ
:ドローン様!もっと喉仏を!
「疾ッ!」
バッタのようなモンスターを、鋭い息吹きと共に一閃。
:相変わらず速い
:居合いすご
:静かなのになんかすごいな
モンスターがでてこないなら、セイジは風を切って進むだけだ。
草原ダンジョンには、風も吹いている。
風を切る音。風に撫でられ揺れる波音を立てる草。僅かなセイジの呼気。
:このAMSR感よ
:静かな感じがいいんだよ
:喉仏鑑賞タイム
:ドローンの位置的にメカクレ堪能できない
:吐息以外のイケボを聞きたい
:三人ネキ落ち着け
静かに、ほとんど自然音と呼気だけの時間がしばらく続き――
:あー……ごめん静かすぎて合わないや
:まぁしゃーない
:気が向いたらまたおいで
:作業用BGMにするのもオススメだぞ
――新規勢も何人か脱落していく。
:むしろながらで聞くといいな
:作業集中できる感ある
:作業に集中できるダンジョン配信ってなんだよ
:これだよ
それでも、何人かは残る新規勢もいて――
「ふー……二階に辿り着いた。ここからは鎧甲イノシシを探していこうと思う」
:突然のイケボに昇天
:いい低音してるよなダウナーニキ
:歌とか歌って欲しい
――ほとんどリスナー同士の雑談の場となっているコメント欄と共に、セイジは猪探しを開始する。
:特に解説とかないんだよなーw
:でもそれがいいとも言う
:自然な探索風景って意外とレアだもんな
:ダンジョン配信って見られてるの前提の動きになるんだもんな
:そもそもダンジョン内の自然音ってのもレアかも
:そういう意味じゃ貴重な配信チャンネルなんだよな
「いた」
:お?
:ほんとだ
:思ってたよりデカイ
:なんかゴツイ
:牙が凶悪だなぁ
「あのイノシシは見ての通り、正面からの攻撃には強い。前半分が鎧のような皮で覆われてるからな。だが後ろ半分はイノシシと変わらない」
:解説してくれるんだ
:背後や側面からの攻撃に弱いのは間違いない
:まぁ言うは易しの典型モンスターではある
:側面や背後からの攻撃って意外と難しいんだよね
「どこのダンジョンでもわりと遭遇するダンジョンボアの基本種と比べると、突進速度もパワーも上なので危険ではある」
:それな
:見た目からして危険なのはわかる
:マジ恐いんだよな
:リスナーって現役多いん?
:その感じはあるな自分も現役だし
:通称 喉仏ネキたる私も現役でーっす!
軽い解説を終えたセイジは、剣の柄に手を添える。
それから、足下にあった石を蹴飛ばして、鎧甲猪の額に当てた。
鎧甲イノシシの鋭い眼差しがセイジを見る。
見る――というよりも睨むに近い形の目を光らせて、前足で地面を蹴り出し――
:凶悪なツラしてるなぁ
:正面からの迫力やばい
「ブモォォォォォ」
――大きな声をあげながら突進してくる。
:はやッ!?
:ドローンカメラ越しでこれかよ!
しかしセイジは、慌てず騒がず、ゆっくりとした足取りで一歩踏み出す。
:ちょっとニキ!?
:ワルドさん!?
:え?喉仏さん!?
素人の目には、のんきに一歩踏み出したように。
玄人の目には、完全に間合いと速度を見切った一歩のように。
「武技:翻葉交刃」
掠っただけでも大怪我しそうな牙を見据えながら、セイジはスキル宣言をした。
その直後、ギリギリまで迫り来る牙を伴う突進を、セイジは宙を舞う木の葉のようにひらりと躱す。
次の瞬間――
「斬」
――高速で剣が抜き放たれ、それを振るう腕と刃が数度ブレた。
すると、すれ違った勢いのまま走っていた鎧甲イノシシはゆっくりと動きを止める。
それを見てから、セイジが納刀すると、鍔が鯉口とぶつかってチンっと涼やかな音を立てた。
直後、その音を合図にしたかのように、イノシシはゆっくりと横へと崩れ落ちる。
「よし。確保。モヤとなって消える前に回収し、目星をつけてる調理場に行く」
:いや、え? うん。
:えーっと、回収おめ
:はやすぎてわからん
:すれ違いざまに切ったのはわかったけど
:すごいことはすごいんだよなこの人
:喉仏さんやっぱ上澄みクラスの実力者だわこれ
マイペースなセイジとは裏腹に、リスナーたちはそれぞれのモニタの前で、呆然とするのだった。




