第40話 サイレント・パーティー④
3日後の日曜日。
長門とのバトルへ挑む、約束の日。
僕は奏の車を借りて、その運転席に乗り込んでいた。
もちろん、走らせはしない。エンジンをかけてはいても、座っているだけだ。
他に車内にいるのは、1羽のカラスだけ。
燈や朱里は、自宅から参戦する手はずとなっている。2人が万が一にも零士さんと出くわさないようにするためだ。
『今日のバトル、よろしく頼むぜ。ライゲイ』
『承知しました』
ヤマトの声かけに、ライゲイが応じた。
MALICEでコミュニケーションがとれない以上、彼女をバトルへ誘うには、こうして直接やりとりするほかなかった。
MALICEのパーティリストで、ロックの表示が〈オンライン〉に変わる。
『……お兄ちゃん、聞こえる? お願い、協力して?』
朱里の声が、スマホからした。
けれど、彬良くんからの返事はない。
少しの間、沈黙が続く。
すると、しばらくしてレムナントの表示が〈オンライン〉に変わった――
『――やったね、これで6人!
あとは、朝日くんが言っていた7人目の「アテ」だけど……』
燈の言葉に、全員が押し黙る。
「……すみません。まだ本人から何の反応もなくて……」
僕は、以前父から渡されたメモを開いた。
『M@yoizukiyo_0414』という、謎の記載。
どうやらこれは、MALICEのアカウントIDを表しているようだった。
気づいたきっかけは、ロックを仲間にした時だ。
ライゲイから招待を依頼された際のアカウントIDが、『M@』から始まっていた。
その時と同じように、招待画面で『M@yoizukiyo_0414』を入力してみた。
結果は――当たりだった。
【ユーザー:宵月 夜】
父は、なぜこのMALICEユーザーを知っているのか。なぜ、このアカウントIDを僕に教えてくれたのかはわからない。
けれど、背に腹は代えられない僕は、数日前から彼(彼女?)に、パーティーへの参加をチャットで依頼していた。
けれど、現在に至るまで、一向に返事がない。
「もう一度、試してみます」
MALICEの通話画面を起動し、コールした。
無機質なコール音が、車内に響き渡る。
ルームミラーに、ヤマトがこちらを見つめている姿が映った。
僕の体が、わずかに緊張する。
けれど、それからしばらく待ってみても、相手が出る気配はなかった。
――ダメか……
諦めて、切断しようとしたその時。
突如として、コール音がやんだ。
『……』
相手の反応を待ってみても、何もない。
痺れを切らして、僕は口を開く。
「あの、突然すみません。宵月夜さん、であっていますか?」
『そう』
初めて、相手の声がした。
印象からして、若い女の子のようだった。僕たちと同じくらいか、ほんの少し年下かもしれない。
「僕、朝日悠と言います」
『知ってる』
……僕を知ってる?
「ひょっとして、父の知り合いですか?」
『そう』
本当に、そうなんだ……
「失礼だけど、父とはどういう――」
『深層バトルに挑戦したいんでしょ? 相手とランクは?』
父との関係を探ろうとして、遮られた。
この話題には触れないという、明確な意思を感じる。
――もしかして、口止めされてる?
急かすように、ヤマトが口を挟む。
『相手は、長門時宗。大学のセンコーだ。ランクは3。
今のオレたちじゃ、戦力が足りねぇ。一緒に来てくれ』
『長門……』
対象者の名前に、夜は意外な反応を見せた。
『長門を知ってるの?』と朱里。
『少し。こちらの人数は?』
『6人だよ。あなたが来てくれれば、7人』と燈。
『構成は?』
「タンクが2、ヒーラーが1。残りは全員、DPSだよ。
きみのロールは?」
『DPS』
――DPSか……
欲を言えば、ヒーラーがよかったけど……
この人数の回復を1人だけで行うのは、さすがに負担が大きい気がする。
ゲームの操作がうまくない燈では、手が回らなくなるかもしれないから。
――でも、贅沢を言っている場合じゃない。
「改めて、宵月さん。長門とのバトルを、手伝ってもらえないかな?
もちろん、リスクはあるから、無理にお願いはできないけど……」
『わかった』
そう、夜はあっけなく承諾した。
すると、ヤマトが嬉しそうに翼を開く。
『決まりだな。例を言うぜ、宵月夜。
口数が少ないオマエのコードネームは、「サイレント」だ』
スマホ画面に、パーティーリストが表示される。
【ユーザー:朝日 悠〈リーダー〉
コードネーム:REBOOT
ジョブ:Shadow Bringer
ロール:Tank
ユーザー:赤城 彬良
コードネーム:REMNANT
ジョブ:Luminous Saver
ロール:Tank
ユーザー:夕波 燈
コードネーム:SERAPHIM
ジョブ:Light Mage
ロール:Healer
ユーザー:赤城 朱里
コードネーム:SCARLET
ジョブ:Blade Dancer
ロール:DPS
ユーザー:ヤマト
コードネーム:RAVEN
ジョブ:Sky Lancer
ロール:DPS
ユーザー:ライゲイ
コードネーム:ROCK
ジョブ:Bard Archer
ロール:DPS
ユーザー:宵月 夜
コードネーム:SILENT
ジョブ:Dark Mage
ロール:DPS】
『――パーティーが、揃ったね』
『うん。それにしても、すごい人数……』
燈と朱里が、感慨深そうに言った。
たしかに、これまでで最大規模だ。
『ダークメイジ――全ジョブの中でトップクラスの火力を持つが、詠唱時間が長く、機動力に難がある。
頼りになるのは間違いないが、連携を誤ればあっさり死にかねない。
タンクやヒーラーは、しっかり守れよ』
ヤマトの言葉に、僕はうなずく。
「――では、行きましょう」
と、僕は長門の悪意ログにあった《クエリ申請》をタップする。
こうして、かつてないほどの激戦が、今まさに幕を開けた。




