再開の戯れ、目的の説明
久しぶりの更新です。
でも書き溜めはできていません。筆が遅々として進みませんが書き上げた後、随時投稿していきます。
寒気が到来し、朝方には吐く息も白く冬の足音が聞こえだして来た頃、リオックとレイラの姿はネスポロ王国、大陸最南端の港町にあるレストランの一室にあった。
「……暇」
「ははっ、仕方ないだろ。出来る事は全て済ませてあるから後は待つだけだ」
この数か月の間に、レイラとの距離はかなり縮まったように感じる。元々接近戦に特化した戦闘を好むリオックに対して、遠近どちらもこなせるレイラとの相性は抜群だった。それに彼女の索敵能力はリオックより遥かに高く、これまでの旅よりも楽ができる。しいて何か上げるとすれば、彼女の料理は独特な感性で行われるのでリオックがそれらの仕事を一任しなければならないことだが、一人分作るも二人分作るもそれ程手間は変わらないのでプラスの面が遥かに多い。
「……リオ、訓練」
「流石に今日は無理だ。お嬢達が今日の昼には到着する」
そして彼女は意外と我慢弱い。正確には、何か手作業でもあれば我慢できるのだが、何もしない時間が嫌いなようだ。
「……ん、うん?」
そんな取り留めのない話をしていると、レイラの反応から個室の外が騒がしくなっているのに気が付く。こういったレイラの小さな反応は、旅をする時にも大いに役立った。最初こそ何か興味が惹かれる物でもあるのかと気にも留めなかったが、少し意識してみると彼女は状況の小さな変化や、珍しい物をみつけると反応している事に気が付いた。
時にはその行為が旅の安全にもつながったので馬鹿には出来ない。
「失礼します。お連れ様がご到着されました」
そして騒ぎの原因は、二人に関係する事のようで、待ち人の到着が告げられる。
「待たせたわねリオ。レイラも久しぶり」
「お久しぶりですレイラさん。それにリオも元気そうですね」
最初に姿を見せたのはお嬢とルーシェだった。前回着ていたような飾りの少ないドレスやメイド服ではなく、一見その姿は熟練の戦士にも見える姿をしていた。
お嬢はその美しいブロンドの髪を靡かせながらも、豊満な身体はローブの中に隠されており、そのローブも一目見て上等なものであることが分かる。
そしてルーシェは前回ダンジョンに潜った時と同じ軽鎧と動きやすい服装をしている。金属部分は極力削がれ、装着者の動きを阻害しない工夫がされた軽い革鎧だ。
「うわっ、やっぱりリックさんっす! お久しぶりっす!」
「お、お久しぶりです」
続いて顔を出したのは、相変わらずな喋り方をするアルと、少し顔を引きつらせたセシルだった。
この二人は前回ダンジョンに潜った時に少しだけ牽制を入れておいたので若干気まずさを覚えるが、そんな感情はおくびにも出さずにリオックは挨拶を返した。
「みんな久しぶり、待ってたよ」
リオックは再開の喜びを表すように笑顔で彼らを迎え入れた。
「——って、事はリックさんはリオックさんって事っすか?」
「まあ、そうなるな」
互いに再開の言葉を交わした後、お嬢達の呼び方に疑問を覚えたアルの質問に答えていた。
これまで彼らにはリックと名乗って来たが、今後を考えるとそろそろ偽名を使うのをやめる時期に来たと判断したのだ。
「リオックって……確かフランシア様の従者だった……?」
何か思い当たることが有るのか、セシルは頬に指を充てて首を傾ける。お嬢を知っている者であればリオックの事を知っていても可笑しくはない。彼女ほど思慮深い者であればある程度の察しはつくだろう。
「兎に角、これからはリオックと呼んでくれ」
前回は諸事情で偽っていたが、今更隠す様な事でも無いので今後はリオックで統一していくつもりだ。
「それにしてもリオはレイラと上手くやっているようね」
「ああ、実力は確かだしな。正直助かってる」
「……んっ」
リオックの言葉にレイラは胸を張って自慢げな顔をする。実際彼女との関係はリオック自身想像していたよりも縮まっている。最初こそ懐疑的だったが、今ではその実力に強い信頼を持っているし、彼女の人間性も信用できる。
リオックの力を見せた時も、まるで気にする事も無く、忌避するよりも便利使いする程だ。そうなるとリオック自身普段抑え気味な虫達の使用も増えたので心なしか虫の機嫌も言いように感じる。まあ、今回のダンジョンでは盛大にこの力を使っていく事になるので試運転としても良かったかもしれない。
「レイラさん、リオに変な事はされませんでしたか?」
「……ん?」
話の脈絡を無視してルーシェがとんでもない事を言い出した。今しがた自分の主人が上手くやっていると言ったばかりなのに、その流れをぶった切ってくるこのスタイルは流石ルーシェと言えばいいのか、やはりルーシェと言えばいいのか。
「どうなの?」
そしてすかさずその流れに乗っかるお嬢は伊達にルーシェと過ごす時間が一番長いわけでは無い。
「……レイラが嫌がる様な事はしていないぞ」
「あら、それだとルーシェの言う、変な事をしているのね?」
「なぜそうなる?」
お嬢は悪戯を思いついたような顔でジリジリとリオックを追い詰めていく。ルーシェは自覚の無い発言をするが、お嬢はその意味を知った上で発言をする。お嬢の悪戯好きは昔から変わっていないらしい。
「……ん、リオは奥手」
「そうね、根性無しね」
「そうなのですか?」
レイラの援護(?)で話は逸れたが、何故か違う角度から責められている。いや、レイラの言葉も援護ではなく何か責めるような感情が含まれているのは気のせいでは無いだろう。
「まあいいわ。これから話をする時間はたっぷりあるものね」
意外にもこの流れを断ち切ったのは、悪乗りをしてきた本人の言葉だった。ただその顔には、被虐的な笑みを浮べているので、後にまたこの話をする事にはなるだろう。
再開早々心外な疑惑を向けられたが、この後の時間も迫っているので流れが変わった所で、早速情報の擦り合わせを行う。
アルとセシルもお嬢に雇われた段階である程度の話は聞いているみたいだが、詳しくは現地で説明があるからとしか聞いていないようなので、今回のダンジョンへ潜る目的に対して確り共通認識を持つために一から話す事になった。
まず、今回の最低目標は、お嬢がフェロ公爵領を継ぐに相応しい人だと示す為の実績作りだ。
過去、領主不在に起こった問題の解決や、他国との外交で大きな利益を勝ち取った事で内政面での力は十分示す事が出来た。
今回必要とする実績は、単純な武功だ。特にこれは彼女個人の武力を示す必要がある。
お嬢はこの秋口に行われた大規模討伐で、集団を纏める力は十分示した。ただ、フェロ公爵領を継ぐ者として、個人の武力は非常に重要視される。
これは初代フェロ公爵が武功を立てた事によって御家を確立したことから代々武力に重きを置いているフェロ公爵領の伝統のようなものだ。
実際、代々のフェロ公爵の個人武力は高い者ばかりで、この先もこの伝統が覆ることはないだろう。
だから、今回のダンジョン攻略で求められるのは、誰もが認めるような武功である希少価値の高い魔導具の入手と誰も踏み入れた事の無い階層の情報だ。
「ああ、だからここのダンジョンなんですね。……でも予定期間で間に合いますか?」
リオックの説明に、納得を示したのはセシルであった。前回の探索でも彼女は高い知能を示したので、この流れは予想通りだ。そして彼女は今回潜るダンジョンの特徴もある程度知っているのだろう。
「何か問題なんっすか?」
「確かここのダンジョンはゲートまでの距離が遠いのよ。一層抜けるにもかなりの時間かかる筈だよ」
そう、今回潜るダンジョンは一つの階層に掛かる時間が非常に長くなる。通常ルートで次のゲートを目指す場合、最短でも一月近く掛かる階層もある。そしてお嬢がダンジョン攻略に掛けられる最長日数は三カ月。それ以上は領地の仕事を放置できないのでこの日数となった。
だからセシルは今回の目的を達成する難しさを認識したのだろう。魔導具は兎も角、未踏破階層の攻略をするのに対して確保されている時間が余りにも短く、又そこまでの道のりに掛かる時間がさらにその難易度を上げる。普通の探索者であればまず請け負うような仕事ではない。
「ああ、その辺りは解決策があるから任せてくれ」
その為、今回は持ちうる手札をすべて使う事にした。普段隠している虫を使役する力を最大限利用した探索を前提に攻略するのだ。
今回、この選択を取れたのはアルとセシルがお嬢と専属契約を結んだ事が大きな要因となる。これで前回と同じように誰かの紐付きであったならこちらの手の内は明かせない所だった。
セシルはリオックの解決策について聞きたそうな顔をするが、それは直前まで黙っておくことにする。前回共にダンジョンに潜った時に虫に対して大きな忌避感を持っているようでは無かったが、その虫に乗って移動するとなればそれも変わってくるかもしれない。だから最初のインパクトの強さを利用して勢いで乗り切る戦法だ。乗車拒否しても最悪足に引っ掛けてでも連れて行けば早々に諦めるだろうという魂胆である。
納得のいかない顔をするセシルをよそに話の続きをする。時間の無駄を省くために、ダンジョンは今日から潜るのだ。その為に、リオックとレイラは現地で行える最大限の準備を終えているし、お嬢達も今回必要になるだろう物資は事前に用意してもらっている。幾ら時間を短縮する方法があっても未踏破階層の探索に時間を確保しておくことは重要だ。最悪一度撤退して再び挑むだけの余裕は残しておきたいのだ。
「目的の共有が終わったところで、ダンジョンの情報なんだが、俺とレイラで三層までの確認は済ませてある。そこから先もある程度の情報は集めてあるがお嬢の方でも何かないか?」
一通りの話を終えて、あとは互いに集めた情報の共有だ。基本的に今回移動の殆どは空の旅となる。だが、その手段が使えない場所もあるので、できるだけ情報を共有して各自の認識をすり合わせておきたいのだ。
「私の方からは六層までの地図を確保したわ。それ程確かな物でもないけどルートとモンスターの分布はある程度分かる物よ」
「大きな出費でした……」
自慢げなお嬢とは打って変わってルーシェの言葉には重みがあった。お嬢とルーシェには公爵令嬢の立場と、商会の伝手を使って出来るだけの情報収集を頼んでおいたのだ。当然、何かを得るには対価が必要になる。ルーシェの様子を見る限り、少なくない金額を使う事になったようだ。
まあ、今回のような場面で役立てる為の商会なのだから日頃の活動は間違っていなかったと信じたい。完全に私物化した使い方だが、普段からそれ以上の利益を出しているのでこの程度の事は許されるだろう。商会長がお嬢なのだからそもそも責めるような者は居ないのだが……。
その後、大まかな予定を確認して時間が差し迫っていたので、一行は早々とレストランを後にする事になった。
こうして再開早々慌ただしい出発だが、皆の未来を変える冒険の幕は開けるのだった。




