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水鈴の姫  作者: キャンティ
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水鈴の姫9









水鈴の姫9










ぽた……。



洞窟の中にある巨大で蒼く輝く美しい泉。天井の石から雫が落ち、洞窟に響きわたる。


その泉の浅い場所で橙黄色の髪の毛を持つ女性が両手を固く握り、祈りを捧げていた。

少し瞼が開いた隙間から見える黄金の瞳は何処か儚げに遠くを覗いている。


彼女、水鈴の姫の睫毛から透き通っま綺麗な雫が落ち、泉と同化して行く。彼女はまるで自分がこの巨大な泉と一つになるようでその瞬間を見ていることが好きだ。


そして、後ろから誰かの気配を感じた。



「オリアナ様、ハルダー様がお見えになっております」


「…ええ、今行くわ」



後ろから聞こえる下女の声にに、自分だけしか聞こえないほどため息を吐き、泉から立ち上がる。その衝動で泉の表面がまるで彼女の心境を表してるように騒めいた。

彼女はそんな自分の気持ちに見て見ぬ振りをして泉を後にする。



残された泉はただ蒼く輝いてるだけだった。













日が沈み闇が訪れた廊下を並んで飾ってある小さな蝋燭の光だけが照らしている。

水輪の姫であるオリアナはゆっくり、ゆっくりとその一歩に力を入れて客間へと向かっていた。その部屋で待っている人を考えると無意識に口から溜息が溢れた。

その後ろを歩いていた彼女の親衛隊である3番隊隊長、カラがそれを逃すこともなく、静かにオリアナの耳元に唇を近づけた。



「どうかなさいました?」


「…いいえ、少し疲れただけですわ」



後2日を残している水祭のことで仕事も多く、気も立っていた水鈴の姫を察したカラはその淡いバイオレットサファイアの瞳を伏せて一瞬考え込んだ後に口を開いた。



「ハルダー様に今日はお帰り致しましょうか?」


「大丈夫よ。これも私の仕事ですから」



そう。これも仕事の一つ。なによりも疲れたと言って許してくれる方でもない。だからこそオリアナの脚はもっと重くなる。

客間に着くとカラと一緒に後ろをついて来ていた下女が客間をドアの隣に立つ。オリアナは小さく深呼吸をして一緒に入ろうとするカラを止め、部屋の中へと足を踏み出した。



部屋の中はまるで密談でも交わすように暗く、廊下と同様に小さな蝋燭の光だけが部屋の中を照らしている。その雰囲気だけで、オリアナは話の内容が予測できてしまった。

目の前で気高く座っている相手に品良く腰を落として挨拶をする。



「お待たせしてしまい、申し訳ございません、お父様」


「ふむ。もうすぐ水祭だからお前が忙しいのは同然だろう」


「ご理解頂き、ありがとうございます」



低く、感情のない声に今どのような顔をして自分を見ているのか、彼女は怖くて下げた頭を上げることなく、下を向いたまま彼が座っているテーブルの向こう側に腰を落として話を続けた。



「それで今日はどのようなご用件で…?」


「水祭の事が気になってな。準備の方は?」


「皆さんのお陰で無事に進んでおります」




オリアナの言葉に満足気に頷くハルダーだが、すぐに空気は氷のように冷たくなる。



「それで、水鈴の姫の力に変化は?」


「……申し訳ございません」



オリアナを最後に静かになった部屋。ハルダーは自分の顎を何回か撫で、冷たい目線でオリアナを見て何かを決めたように指で机を叩いた。



「もし、当日になっても何の変化も無かったらあれを実行する」


「……!!待ってくださいお父様、それは……!」


「お前の20歳になる水祭の時、と前から決めた話だろう。今更そんなに驚く事でもない。それにもう話もついているんだ」



オリアナは唖然とした。

確かに昔からその話は出ていたけど、まさか本心だとは思ってなかった。もし、それを実行してバレたら…。そう考えただけで背中に冷い汗が流れるのを感じた。

焦っているオリアナとは正反対にハルダーは清々しかった。



「あと2日、お前がその間に頑張ってくれればいい話だ。今年は王も来るかもしれない。期待しているぞ。」



そう言って椅子から立ち上がり、オリアナの肩を一回叩いては部屋を出て行った。

1人残された部屋で遠ざかる足音を聞きながら拳を握りしめる。その手がこざみに震えた。



「期待してる?嘘つき……」



水鈴の姫の血を引くマルティネス家。


その血を引いているだけで、オリアナの家名は誰もわからない人がいないくらい有名だ。

30年間マルティネス家には危機があった。

それは30年も女の子が生まれなかったこと。

その中、やっと生まれたのがオリアナだった。誰もが奇跡と言い、途絶えた水鈴の力も戻ってくるのではと期待していた。だが、オリアナにはなんの力も無かった。

ハルダーは諦めなく、彼女に歌と祈りに1日の半分以上使う事を言いつけ、彼女はそれを守り5年前にはここに立っていた。ただなんの力も得ずに。


だから彼女は分かっていた。自分の父は遠くの前から自分への期待を消していると。

だからあれ程の恐ろしい計画を作ったんだと。

怒り、悲しみ、虚しさが心の中で渦巻いて海の奥底に沈んで行く様だった。



「私は一体どうしたら……?」



彼女にできるのは生まれた時から二つしかない。祈る。そして歌う。

オリアナは弱々しく立ち上がり、小さい時から唯一の居場所であり、縛り付ける監獄である泉へと向かって行った。



その後ろ姿は今でも消えていきそうだった。
















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