四人目だってよ
【side:クスハ】
「ありがとね、クスハさん。早速試して見るわ」
あっと言う間に転移魔法を使って消え去るお嬢様。きっと、ご自身のお部屋に戻られたのであろう。私の提案を早速試すおつもりなのだから、あれを取りに行ったのだろう。
「まったく、できの悪い妹を持つと苦労しますね」
しかし、あんなに楽しそうな表情を見せるお嬢様のお姿を見るのはいつ以来でしょうか。昨日までお通夜を迎えた人のように暗かったお嬢様が嘘の様に明るく振舞っていられるのは間違いなくシンヤ様のおかげでしょう。
初めはシルフィード家に伝わる禁忌指定された召還魔法を使ったと知ってどうなるかと思いましたが、呼ばれたのがあの人でよかったです。まさか、歳の近い殿方とお会いできる日が来るとは夢にも思いませんでしたが。
「私も今年で二十歳。後数年したら、この身を捧げなくてはいけないはずだったのですが……。人生、何が起るか分かったものではありませんね」
王都スイカップでは、二十五歳を過ぎると殿方と子作りをしなくてはいけなくてはなりません。理由は絶対的男性の不足を解消するため。自立出来るようになった女性は積極的に子供を宿し、子孫を残す必要があります。男の子が生まれれば御の字。褒賞として一生裕福に暮らせる財産をお約束していただける。
「どうせ、この身を捧げるならば……。私も少しは頑張って見ようかな」
これはある意味チャンスであると言えましょう。いま、王都スイカップにいる男の人は一番年下の人でも三十は過ぎている。年齢が近しい男の人と出会えた幸福をかみ締めるために、何より夢の一時の続きを味わう為にも積極的になる必要がありますよね。
「次は、いつしてくださるのでしょうか」
先の事を思い出したら、無性に切なさを感じてしまいます。あのドキドキする一時を再び過せる事を考えている私の前に、通信を知らせるスクリーンが出現する。
「これは……。奥様から?」
私達の雇用主であり、お嬢様の母君であるエリス・シルフィード様から通信魔法による通信が入る。珍しいですね。多忙のみである奥様はよっぽどの事がありませんと、私達に連絡を取る事はありません。いったい何の用事が、と疑問に過ぎって直ぐに連絡してくる節を思い出す。
「そういえば、奥様にご報告しておりませんでした」
私とした事が奥様に今回の事をご報告するのを怠ってしまった。奥様のことですから、きっとお嬢様が禁忌の召還魔法を使った事を察知したのだろう。
一瞬、出るか迷いましたが相手は真のご主人様。出ないという選択肢を持たない私は、恐る恐るながら奥様からの通信魔法を受諾したのだった。
「はい。クスハ・ミントスでございます」
「クスハ。私に何か報告する事があるのでは?」
開口一番に本題を迫った奥様は、私が想像した以上にご立腹であらせました。
――***――
【side:リリス】
「どれにしようかな」
いま所有している全ての洋服類をベットに置き、今から着替える服装をどれにしようか頭を悩ます。こんな事ならば、前々から気になっていた新しいお洋服を買うべきだった。今月はお小遣いがピンチだったから買うのを断念していたとは言え、フリルとリボンをふんだんに使ったワンピースがあれば、きっとシンヤの視線を釘付けにできたろうに。けれど、ないものは仕方がない。今ある戦力をフルに活用して最強装備を整えないといけないのだが……。
「男の人って、どんな服装が好みなんだろう」
クスハさんが言うには服装を変える事で興奮することが稀にあるらしい。思えば、今日の私はいつもの部屋着でシャツにロングスカートとラフな姿であった。男の人に見せる服装ではなかった事に今更ながら反省する。
「ここは、パーティ用のドレスで行くべきかしら」
私の好きな黒色を基調にしたドレスはスカート丈が少し短いけど、右肩に装飾されているブラックヒーローを模倣した造花が可愛いのよね。これにしようかな。
「それとも、シンヤは胸好きだから大胆に谷間見せタイトミニなんか――」
選ぼうとして、掴んだ手を止める。確かに花柄の刺繍で装飾されたこれは私の用いる限り露出が激しい服であるけど、悲しいかな少しばかり背伸びしすぎてしまった事を思い出す。これを着ると、少し激しく動いただけで服がずれてしまう。特に胸の部分が。見られても別に困るものではないけど、まるで自分の胸が小さい事を誇張させる服をシンヤには見せたくないな。
「じゃ、じゃあ……。ここは皆とおそろいのメイド服で」
それだと二番煎じもいいところじゃないかな。皆と同じ服を着て、果たしてシンヤの刺激を与える事が出来るのか。私専用のメイド服だから皆と違って少しだけエプロンドレスにフリルが付け加えられているけど、どうなのかな。
「だったら、季節外れだけど水着は――」
ワンピースタイプだと子供っぽいから、パレオを着て着飾れば大人っぽくなるかな。けどけど、どうせ肌を晒すんだからこれだと意味がないような……。
「う~ん。どうしよう。これってものがないよぉ」
せめてどの装備がシンヤと相性がいいのか分かれば攻めての一つや二つ考えられるのに。
「……随分と楽しそうね、リリス」
……へぇう?
【side:シンヤ】
ハーレムを夢見た者は少なくないだろう。大勢の女性に好かれ、どんな卑猥な事をしても許されるそんな楽園に憧れた時代が俺にもあった。
色んなタイプの女の子といちゃいちゃして、欲求をぶつけても何の文句も言われないそんな理想郷を夢見ていた事は否定しない。否定しないが、実際にそんな状況に陥ったら怖気付いてしまうのは俺がチキンだからだろうか。
「男の人ってこんなに固くて大きいんですね」
「ホントよね。こんなに太いの初めて見るかも」
何も知らないで彼女達の話しを聞いていると、卑猥に聞えてしまうのは何故だろうか。彼女達は俺の腕の筋肉を褒めているだけなのに。
「それを言うなら、手も想像以上に大きいわよ。これで私の……。ゴクリ」
ちょっと! なんでいま生唾を飲んだのキミ。いや、言わなくても分かる。俺の手と自分の胸を交互に見たリアクションを見れば大体察するから。
「いま、自分の胸を揉んでもらっている瞬間を想像したでしょ」
「なっ!? そ、そんなことは考えていません」
それを隣で見ていた別のメイドが生唾を飲んだメイドを茶化す。図星を突かれた事で顔を真赤にさせて反論するのだが、全員から生暖かい目を向けられて顔を俯いて黙ってしまう。
「そういえばクドウ様。メイド長の胸も揉まれたんですよね。どうでした?」
「いきなり可笑しな質問をしないでくれるかな。……で、どうでした? と聞かれて、俺は何て答えればいいわけ」
「メイド長の胸の感触でもいいですし、その時の反応を教えてくださるでもいいですよ」
どちらも答えにくいな。
クスハさんの胸は弾力性に優れており、揉んだ後に指が押し返される感触は筆舌に尽くしがたいものがあった。メイド服の上からだと言うのに、服の上からでも分かるぐらい立ち上がった二つの小さな山を弄った時、想像以上に反応を見せるクスハさんを愛しく思えてならなかった――なんて、素直に答えたらどうなることであろうか。
「あはは。緊張していたからかな。あんまり覚えていないんだよね」
ここは笑って誤魔化す、とよく使われるであろう手段を用いる事にする。
「な、なんならメイド長と同じ事を、わ、私にしていただけませんでしょうか?」
きっと、勇気を出して言ったんだろうね。緊張して声が上ずっていたし、いかにも大人しそうな三つ編み眼鏡っ子だったしな。全身真赤にさせて息を荒げている姿はどうかと思うけど。だけどそれ、地雷な。
「あー。そのな。大変嬉しいけど――」
「ちょっと。抜け駆けはなしだって言ったでしょ。それが許されるならば私だってして欲しいわよ」
「それならば、私だって立候補するわ。クドウ様。イリスほどではありませんが、私の胸は如何でしょうか」
いやいや、いかがでしょうじゃないから。
確かに貴女のロケット型の胸も大変魅力的かもしれませんが、って返答する前に脱ごうとしない。
「あなた方。少しは落ち着きなさい」
……おっ。たった一人だけど、まともなメイドがいたぞ。メイド服じゃなければ雰囲気が秘書って感じの女性が騒動を始めるメイド達を牽制してくれた。
なんだよなんだよ。彼女みたいなまともな人がいたのかよ。こう言う人を待っていたんだよ、俺は。ちょっとばかし、彼女のおわん型の胸を拝見したいと思わなくもないが。
「こう言う場合は、クジで決めると決めたでしょ? ちゃんとルールを護りなさい」
前言撤回。貴女もか。いかにも真面目そうな雰囲気なのに、貴女も彼女達同様な思考の持ち主なのかよ。
「……申し訳ありません、クドウ様。けれど、恥かしながら私共も男の人に揉まれた事がございません」
まるで揉まれる事が当たり前な――世界でしたね、はい。
「私も含めて、異性の男の人に揉まれる事を夢見ていました。どうか、私達の初体験を叶えてくれませんか」
いいかた! 言い方を少し選んで。初体験なんて女性が軽々しく使っていいものじゃないだろう。それじゃあまるで、俺があなた方の初めてを奪うみたいじゃないか。
けれど、本当にこの世界は可笑しな世界だな。本当に異性――この場合は俺だが――に揉まれたいと思っているらしく、懇願する様に全員が見てくるのだから。
「……せめて、一人にしてくれ。流石に全員は無理だから」
負けた。ええ、負けましたよ。無理だよ、抗うなんて。大勢の女性の視線を一身に浴びながら自分の意見を貫き通すなんて俺には出来なかったよ。
ああ、そんなに喜び合っちゃって。秘書メイドさんなんか、瞬く間に人数分のくじ引きを用意し始めたし。
「では、皆々様。勝負は一度きり。どんな結果になっても恨みっこなしですよ」
秘書メイドさんの言葉に元気よく返事をするメイドさん達。差し出されたくじ引きが入った箱から順番にクジを抜き取って、自信の胸元に持っていく。どうやら、全員が引いてから結果を見るつもりなのだろう。
最後に秘書メイドさんが余ったクジを抜き取り、ようやく全員にクジが引かれた。
「それでは行きます。せーの、勝負!」
『勝負!』
勝負!? え。なに、その掛け声。
彼女達は真剣に掛け声と共に自分が引いたくじ引きを見やり、大半の人が膝から崩れ去っていく。残ったメイド、つまりあたりを引いたメイドはこの騒動を引き起こした三つ編み眼鏡っ子さんであった。
「や、やったやった」
嬉しさのあまり飛び跳ねる三つ編み眼鏡っ子さん。そんなに喜んでくれるのは素直に嬉しいのだが、もう少し控えてくれるの嬉しい。跳ぶ毎に貴女の二つのボールが上下に揺れているから。
「そ、それじゃあ早速お願いします」
勢いよく頭を下げてお願いされてしまう。
「えっと……。クスハさんと同じやり方でよかったのかな?」
「あの……。出来れば、正面に向ってやっていただきたいのですが」
「ん? どう言うこと?」
正面に向っての意味がよく分からないのだが。
「えっと、その……」
「口で説明するのが難しいなら、やってもらっても構わないけど」
「それじゃあ、失礼します」
了承が取れたのを気に、三つ編み眼鏡っ子さんは俺の両膝に跨り、対面するように座り始める。
「あの……。まさか、ここでやるつもりなの?」
まさか、今すぐ実行するとは思っても見なかったので、聞いてみると不安そうに見てくる。
「その、だめだったでしょうか」
「ダメじゃないけど……」
視線が集まって痛すぎる。俺としては、別の場所に移動して誰もいないところで始めるかと思っていたのだが、やってもらっても構わないって言ったのがいけないのだろうか。移動してからってちゃんと前置詞をつけなかった俺の失態なのか。
「だったら、お願いします」
「……分かりました」
この体勢は色々と拙いんだが。この状態のまま揉めと。直ぐ目の前に緊張で肩を震わせている三つ編み眼鏡さんも美少女と言っても過言ではない。てか、ここにいるメイドさん、全員レベルが高すぎじゃないか。スタイルも仕える主よりもいいと来たし。
しかし、今日一日で何人の胸を揉もうとしているんだ、俺は。リリスを始め、イリスさんにクスハさん。そして、今度は三つ編み眼鏡っ子さんか。……ふっ。今日だけで四人の胸を触れるのか。
凄いな、俺。
たまらないな、俺。
耐えられるか、俺。いやいや、そこは耐えてもらわないと困るぞ。この場でビーストアップなどしたら、確実に死亡フラグが立つから。腹上死エンドなんて悲しすぎるぞ。
「……クドウ様?」
「あ、ごめん」
何時まで経っても触らないので、三つ編み眼鏡っ子さんから催促される。緊張と不安が入り混じった表情に悪戯心が芽生えてしまうが、己の御心のままに従ったらきっと落ちる所まで落ちてしまう可能性が高い。ここはさっさと事を終わらせるのが吉だろう。またもや俺のアダマントの理性が試されるのか。
「……では、いくぞ」
「お願い、します」
そこで目を瞑らないでください。あなた、誘っているんですか。
落ち着けもちつけ。平常心、平常心だ。心を空っぽにしてしまえば、たかだか胸の一つや二つ揉んだところで。
「ひゃん」
無理! ムリムリ、無理です。
なに「ひゃん」って。ちょっと、下乳さんに触れただけで「ひゃん」って。反応が可愛すぎるだろ。今ので眠れる息子が目覚めつつあったぞ。
「わ、悪い。痛かったか?」
「いえ。……その、そんな風に触られると思っても見なくって」
どんな風に触ると思ったんだよ、とここでツッコミを入れたら負けるかな。
あと、後ろ。生唾を飲む音が聞こえたぞ。しかも一人じゃないよな、生唾飲んだ奴。
それと、秘書風のメイドさん! 貴女アウトだから。自分で胸を揉み始めるだけならまだしも、スカートの中に手を入れようとするのはアウトだから。一番真面目そうだった貴女が真っ先に快楽の虜に陥るとはどう言う事だよ。
これ以上、周りを見渡している俺まで桃色結界に浸食させられそうだ。今は、目の前の果実に専念しよう。
「続けるぞ」
「はい――ひゃん」
下から撫でる様に滑らせていくとまたもや可愛らしい声が漏れる。彼女はイリスさんの様に敏感肌なのかもしれない。軽くつついただけで、面白いぐらい声が漏れる。
「あ、ん。……ん。はぅ」
撫でるから抓む様に揉み始めたら、甘い声が頻繁に漏れ始める。
前々から思っていたのだが、女性の胸って人によって感触が全然違うんだな。彼女の胸はどっちかと言うとイリスさんの様に力を込めれば込める程、彼女の胸肉に指が埋もれていくのだが、復元しようとする力が指に伝わってくる。
「あ、あ。あん。クドウ様、それいいです」
やばい。催眠をかけたはずの息子さんが、自力で起き上がろうとしていらっしゃる。本日は良く重たい腰をお上がりになっていますね。
だいたい俺も俺だ。避けていたはずの乳房のスイッチを押すとは何事だ。今まで我慢していたのに、どうして今になって自滅の道を歩むのだ。しかし、クスハさんの時も思ったけど、このスイッチを押し続けると楽しく思えるのは何故だろうか。
「あ、ん。ひゃぅ」
「……ね、ねえ。聞くの忘れていたけど、これはいつまで続ければ言いわけ?」
この状態は非常によろしくない。彼女の興奮が周りにも伝播しているのかは知らないが、段々と呼吸が荒くなって体をもじもじし始める輩が出てきた。秘書風メイドさんなど、途中から「少し席を外します」と言って未だに戻ってこないし。
「……ださい」
「え? なんだって?」
「続けてください。もっと触ってください」
メイドさんに懇望されて、額に銃弾を撃ち込まれた衝撃を覚える。実際に打たれた経験などないけど。あ、これはもうダメなやつだ。俺のダイヤの理性もついに粉砕する時が来たのかも知れない。聞けば、このまま子作りまで発展する事はよくあるから、そのいいよ――くねえだろうが。
おい、工藤伸哉。お前はこのままなし崩しにお茶の間の皆々様に見せられない様な桃色結界を展開させるつもりか。確かに目の前の彼女が取った態度に多大なる精神的ダメージを受けた事は認めよう。愛嬌のある瞳がとろんとしているのもツボであるし、ほんの少しであるが涎が垂れている所など性的欲求が注がれる。うん。本来ならば「逝って来い」と背中を叩いて送り出してあげたい所なのだが、周りを見ろ。お前、このままなし崩しに始めたら確実に搾り取られるぞ。何がとは言わないが。
「……う、おぉぉおおおおっ!!」
己を奮起する意味で、気合の声を上げる。エロ方面に持って行かれそうになった意識を取り戻した俺は、彼女を自分の方へ抱き寄せる。
「ク、クドウ様」
まさか、彼女も抱き寄せられるとは思ってもみなかったのだろう。けれど、満更ではない様子らしく驚喜の目で見つめてくる。
「……ごめん。続きはまた今度ね」
「はぅ」
耳元で続きをする事を約束し、彼女を抱上げたまま立ち上がる。このままだと直ぐに落してしまうので、片手は膝裏に回して、まあいわゆるお姫様抱っこしたのだった。
うっとりと顔がとろけている彼女の顔を見て、このままお持ち帰りしたい感情が目覚めつつあったけど、アルミニウムの理性をコーティングさせて何とか自制する。彼女を適当な場所で下ろし。
「……ちょっとトイレに行きたいだけど、どこかな?」
戦略的撤退を遂行したのだった。
その後、俺は廊下に出て誰も見ていない事を確認し、壁に向かって何度も己の頭を打ちつけたのであった。煩悩退散!