下着ウーマン
「な、なあ。本当にここでやるのかよ?」
ちょっと考え直して欲しい、と言う想いを込めてクスハさんとイリスさんに言ったのであったが、お二人とも全くと言っていいほど俺の話しを聞いてはくれない。
「仕方がありません。入れて貰える条件がこれだけなんですから」
「その条件、明らかにイリスさんが余計な事を言ったせいですよね。俺は悪くありませんよね」
どうやらイリスさんは胸が大きくなる秘訣として、異性に揉ませれば大きくなると確証のない迷信を教えたらしい。
確かに俺の世界でもそう言った部類の噂は聞くけど、うわさはうわさだ。
そんな事で大きくなっているのならば、胸に関してコンプレックスを抱く方々が悩むはずがない。
「シンヤさん。早くしないとお昼休みになってしまいます。迷っている暇はありませんよ」
「だからと言って「分かりました」と頷く状況じゃない事ぐらい分かっているでしょ。あなた方は門前でこの二人の胸を揉みしだけと仰るのですか!?」
そうなのだ。
アカデミーに入る条件として、二人の門番は自分の胸を揉めと滅茶苦茶な条件を突き出してきたのだ。
話しを聞くところ仕事の忙しさから中々やる機会がなくて――なんて、知りたくもない情報を聞かされて、そんな話しの流れになってしまった。
それでいいのか、門番達。条件も条件だけど、これは明らかに買収行為みたいなものだぞ。れっきとした裏切り行為だと思うのだが、そんな事は考えてもいないんだろうか。
「裏切りではありません。乙女として当然の要求だと思いますよ」
「さいですか」
ほんと、心の声を読まれるのって厄介だよな。
下手に考えると全てクスハさんに読み取られてしまうし。
「シンヤ様。ほら、お二人は既に準備万端なんですから早くしてください」
「はい? ちょっ。いつの間に脱いだの?さっきまで普通に着ていたよね」
「そんなの魔法でちょちょいのちょいって消す事が可能ですよ」
「魔法をそんな事に使うなよ」
魔法で服を消すとか、それは何て男の浪漫が詰まった魔法なんだろうか。
いやいや、そうじゃなくって……。
「なあ。この際、その条件は絶対行うと約束するからさ。出来れば別の日で、それも室内でやるってことじゃダメかい?」
こんな青空の下で、それも女性二人の胸を揉むなんてマニアックなプレイを行う度胸は俺にはないぞ。
しかも、時折であるが人が通る中で堂々と行えるほど変態性を備えてはない。
「「ダメです」」
けど、そんな俺の心の叫びは彼女ら二人に届く事はなかったらしい。
それにしても今度は褐色の肌か。もう出尽くしたと思ったのだが、まだまだレパートリーは底を尽きないらしい。
褐色の肌の胸を見るのは初めてだが、初めてが故にこうなんと言うか来るものがあるな。
「……分かりました。分かりましたよ。けど、時間もないから今回は二人同時でいいよな」
「今回は、と仰いますと次の機会も設けてくださるみたいですよ。お優しいのですねシンヤ様は」
……あ。
「おい、イリスさんや。何て余計なこと……を」
ちくしょうめ。そんなお互いに手をつかみ合って、嬉しげに飛び跳ねたら「失言でした、ごめんなさい」って言えないじゃないか。
と言うか、さっきからプルンプルン揺れているから。
ロケット上のプリンがプルンプルンと擬音が聞えそうなほど揺れまくっているから。
「これで、本日は一気に二人ですね。合計で六人ですか」
「ちょっと黙っていようか、クスハさんや」
そんなくだらない事を数えないでね。色々と気が滅入るから。
主に工藤伸哉としての倫理観とか人間性が。
――***――
「シンヤ様。あの二人、ダイナとユニスって言うらしいですよ。今度、一緒に食事でもしましょうですって」
「……ああ、そうかい」
なんか、登場人物が多くないか。
そんなに一辺に言われても名前なんて覚えきれる訳ないだろうが。
てか、よくよく考えると俺は名前も知らない二人を両脇に侍らせながら胸を揉んでしまったのか。なんか一気に工藤伸哉と言う存在が鬼畜外道野郎に成り下がっていっている気がするのだが。
「そう思いながら、結構ノリノリでしたね、シンヤさん。手つきも昨日より上達しているように感じましたし」
「やめてクスハさん。マジやめて。へこむから、本気でへこむから」
あれは俺が悪いんじゃない。
ノリノリだったのはあの二人であって俺ではないはず。
仮にそう見えたと言うのならば、あの二人のテンションに影響されてからであって……。
それってやっぱりノリノリだったと言えるのか?
「ユニスさんがMだと知ると随分とお意地悪したのはどこの誰でしたか? ダイナさんが敏感肌と知ると執拗に攻めていましたし」
「やめて、本気でやめてクスハさん。反省しているから」
「最後は二人とも放心状態でしたね。凄く満足した笑みを浮かべておりましたが。それだけシンヤ様のテクニックが上手かったって事でしょうか」
これ以上追い討ちをかけないでくれ。
確かにほんの少し触れただけで喘ぎ声を出す事に楽しさを感じたし、放置し続けた方も途中から「私も私も」と懇願する姿を見て非常に興奮したけど、それでもクロムモリブデン製の理性で耐え切った。
二人同時に相手をするとあんなコンボが発生するとは予想もしなかった。
今度からは気をつけないといけないな。
早々とそんなイベントが発生しない事を祈るばかりだが。
「……それで、リリスとはどこで待ち合わせしているんだ? まさか、この広大な学園内を探し回れとか言うんじゃなかろうな」
このプティーズ・アカデミーは思っていた以上に広かった。
どう言った原理が働いているか知らないが、門を潜ると景色がガラリと一変する。
クスハさんの話しによると特殊な結界魔法によって空間をずらして固定し、別次元を創造しているとかなんとやらだそうだ。
門の外から見えた豪邸のような建造物も魔法で作られたカモフラージュらしい。
「それには及びません、シンヤ様。教室にお運びいたします、とお嬢様にはお伝えしておりますので」
「それなら良いんだが。けど、まさか歩いてその教室に向う訳じゃないよね。どう見ても、シルフィード家の十倍以上はあるぞ」
「その点はご安心を。ちゃんとユニスさんとダイナさんに申請いたしましたので、お嬢様の教室まで直接転移できるように致しました」
この学園は、アカデミー生以外は自由に転移と念話が出来ないようにされているらしい。俺達みたいに外部の人間で用事があるものは前もって連絡を取って申請するか、門番に許可を取らないといけないシステムとなっているとか。
非常に厳しいセキュリティーにも関わらず下着泥棒が存在するとは、その下着ドロはいったい何者なんだろうか。
あれか? 障害があればあるほど燃えると言う困った性格の持ち主なのだろうか。
「それでは、早速転移いたしますのでお二方。お手をどうぞ」
イリスさんの言葉に従い俺とクスハさんは手を指し伸ばす。
けれど、途中で視界が真っ暗になってしまい、彼女の手を掴み損ねてしまった。
「あれ? 急に視界が……。顔に何かが、なんだこれ……は」
視界を妨げていたものは女性用の下着であった。もっと厳密に言うならば、イリスさんレベルの胸の大きさを覆い隠すブラジャーであった。
「はあ!? なんでこんなものがこんなところに。ちょ、クスハさん、イリスさん。これは……って、いない!? あの二人、俺を置いて転移しちゃったのかよ」
まさかの置いてけぼりに動揺を隠せずにいた。
目の前にブラジャーがある事にも驚くが、何より二人から逸れてしまった事に面食らう。
「まずいな。この場合はどうすればいいんだ? 最悪の場合は門まで戻るべきか」
幸いな事にここは門という入口からそれほど離れていない。
道もここまで一本道であったから、戻って待つという選択肢もある。
「そこの方。少しお尋ねしたいのですが」
「……へ?」
女性らしき声が耳に届くが周囲を見渡しても人影らしい存在は確認できず。
「どこを見ているのよ、こっちよこっち」
「こっちって……上か!?」
声は自分の頭上から聞えて来たので、上空を仰ぎ見ると宙に浮いた状態で仁王立ちになって立っている女性がいた。
「……どなた様?」
「私としたことが、自己紹介がまだでしたね。私の名は下着をこよなく愛する下着ウーマンとでも呼んでいただきましょうか」
「し、下着ウーマン?」
おいおいおい。下着泥棒の事は聞いていたが、その犯人と直ぐ遭遇するなんて……。
まさか、さっきのはフラグだったのか?
勘弁してくれよ。しかも自分の事を下着ウーマンとか言っているし……。
ウーマンとな?
「あの、下着ウーマンさん」
「なんです?」
「ウーマンと言う事は、貴女はもしかしなくても女性だと?」
「んなっ!? 失礼ですね、あなたは。どこをどう見ても私は女性としか見えないでしょ。見なさい、この完璧なプロポーションを」
俺の質問内容に彼女のプライドに傷が付いてしまったらしく、身体を覆い隠していた外套を脱ぎ去り女性である事を示し始める。
「……確かに見事なプロポーションかと思いますが、何故に外套の下は下着しか着ていないんです?」
「趣味だ、何か文句がおありで?」
「……いえ、何もありません」
この人、自分が露出狂である事を趣味と断言しちゃったよ。
二重の意味で危険だ、この人は。
「それで、その下着ウーマンが何の御用で?」
「そのまえに、そちらは名乗り出てくれないのですかね? こちらが名乗ったんですから、名乗り返すのが礼儀でしょうに」
「変態淑女の貴女に礼儀云々言われるとは……。工藤伸哉だ。リリス・シルフィードさんに用があって、この学園に来た」
「リリス・シルフィード? ああ、あのちっぱいの根暗お嬢様ですか」
ちっぱいって。
リリスが聞いたらマジ泣きするだろうな。
「それで、そのクドウシンヤさんがリリスさんに何の御用で?」
「なんで、あんたにそんな事を言わないといけない。それより、この下着はお前のか?」
俺は自分の視界を覆い隠していた下着を彼女に見せる。
すると、彼女は表情を緩ませて何度も大きく頷き返す。
「そうそう。それを探していたの。よかった、これは大切な宝物だから落とした時は慌てたわ」
「あっそう。じゃあ、それを持ってさっさと立ち去ってくれ」
これ以上、こんな変人と関わっては何が起るか分からない。
捕まえて恩情を頂くことも考えたが、相手が女性では部が悪すぎる。
捕まえる拍子にこちらに不利な状況に陥っても困るしな。
「あら? 意外と話しが分かる人ね。私を捕まえようとはしないの?」
「捕まえるって、お前はいま空にいるだろうが。どうやって捕まえるんだよ。いいから、さっさとこれを持ってどっかに行ってくれ」
「つれないわね。こんなの【空歩】ができれば簡単なのに。ちょっとつまらないわ」
「知ったことか。ほれ、さっさと行かないと誰か来るんじゃないか? いいからあっちに行ってくれ。シッシ」
「……ほんと、面白くないわね」
……ん?
なんか彼女の纏う雰囲気が変わった気がするぞ。
もしかして拙い事をしたのかな?
なんて、今更ながら変態さんと相手にしている事に後悔の念を抱いている最中、新緑色の閃光が俺の頬を掠めながら地面に落ちていく。
――ズドン
「……はい?」
振り向くと、閃光が着弾した地面がクレーター状に陥没していた。
あれ? もしかして俺、いま攻撃されたのかい。
「呆れた。ただの【風穿】も避ける事が出来ないなんて……。口で言う割りに大した事ないのね、あなた」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんで攻撃なんかしてきた。俺はそんな気、一切ないぞ。と言うか癇に障ったなら素直に謝りますので。なんなら、土下座もしますよ」
「そんなこと、どうでもいいのよ。問題なのはあなたが私のこと全く追いかけ様としないのが問題なのよ」
……えー、なにそれ。
そんな事で俺、命の危険に瀕しているわけ?




