バスタイム
どうも、はじめましての人は初めまして。
読んでくださっている人も、初めまして。
展開が遅いと思われますが、もう少し辛抱していてだけません……よね。
なるべく、展開を早めに話を進められるように努力します。
怒涛の勢いとはよく言ったものであった。
当主のエリスさんのお許しが出てからというもの、リリスをはじめとした女性陣のアプローチがすごいのなんの。なんていうか、これがモテ期と言うものであろうか。
けどさ、何も最初の一言に「揉んでください」はないと思うぞ。三つ編みメガネっ子じゃなくってエミリアさんの胸を揉んだことが切っ掛けで自分も揉んでもらえるかも、と言われたときはやっぱり軽々しく了承しなければよかったと少しだけ後悔してしまった。
その時、クスハさんがエミリアさんに身体測定魔法をかけていたのが非常に気になるところであったが、あれから何も言ってこないところを考えると彼女の胸のサイズも変化はなかったのであろう。もしも、リリス同様に一ミリほど変化があったらと思うとぞっとする。
「……ふぅ。思えば、よく耐えたな俺。えらいぞ、俺。よっ! 鋼鉄の精神」
湯船につかりながら、よく耐えた自分自身を本気で褒め称えた。
「けど、異世界かぁ。これからどうなるんだろうな」
今の今までゆっくり考える余裕がなかったから事の重大さを自覚できなかったが、よくよく考えるとこの状況は貴重な体験と言わざるを得ない。
よく冷静でいられると自分でも不思議に思っているが、きっとそれは彼女たちのおかげであろう。いろいろと問題はあるにはあるが、彼女たちのおかげで不安や寂しさはそれほど感じられない。もしも、これが俺一人だったら確実に錯乱していたに違いない。
「登校途中で召喚させられたから、両親や友人達も心配しているだろうな。今頃、大騒ぎになっていなければいいんだけど」
なにせ何の前触れもなく行方不明になったようなものだ。いくら送還魔法で元の時間と場所の状態で帰れるからと言って、今の俺はこっちの世界にいるんだ。
「……待てよ。そうなると――」
「さっきから一人で何をブツブツ言っているの、シンヤ」
「俺がこの世界に行っている間の地球の事を……」
普通に答えていたが、俺はいま誰と会話していたのであろう。たしか、お風呂は一人で入りたいと頼んで一番風呂をもらったはずなんだが。
「……なに?」
声のした先へ振り返ると不思議そうに首を傾げたリリスの姿があった。
「なんでいるの、リリスさんや」
「……えへ。はいちゃった」
可愛い仕草で誤魔化しても無駄です。いや、舌を出して誤魔化す仕草は大変可愛らしいのだが、場所が場所だ。当然のごとく、視線を下げると彼女の裸体があるわけで……。ちょっと湯気さん、仕事して仕事。こう言う状況の場合は湯気が立ち上って大事な場所が見えない仕様になるんじゃないか。なに? これはグリーンレイ版だと。んな訳あるか。
……って、いかんいかん。不意打ちのエロ攻撃に混乱状態に陥ってしまったよ。
「俺、夕食時に一人でって言ったよね」
「そうだっけ? 大丈夫、今日は私に時間を頂戴ってみんなに言ったから」
今日「は」なのね。明日から別の人間が乱入する様なフラグを立てないで頂きたいものなんだが。
「あまり、気軽に異性と風呂に入る行為は褒められたものではないんだけどね」
「こう言う場合、郷に入ったら郷に従えよ。そろそろ私の裸もなれたんじゃない?」
「慣れるか!」
そんな時は今後一切に予定に入っていない。
だいたい、女性の裸を見慣れて反応しなかったら俺は男としてきっと終わるだろう。
「そう? っと、そんな事が言いたくて来たんじゃなかった」
「何か用事があるみたいな事を言っていたな」
「……シンヤ」
今までと打って変わってリリスの目つきが変わる。どうやら真剣な話の部類であるみたいなので、俺も姿勢を正しくして彼女の言葉を待つことにする。
「ごめんね、シンヤ。私の身勝手な事をしたせいで関係ないシンヤを巻き込んでしまって」
本当にごめんなさい、と言葉を続けてリリスは湯船に触れるぎりぎりまで頭を下げる。
「なんだ、そんな事か」
「そんな事って。私は本気で――」
「もうその話は済んだことだろ。直ぐに謝罪してもらったし、これ以上とやかく言うつもりはないよ」
「けど、それじゃあ私の気持ちが治まらないの。だから、その……。もしよかったら、背中を流させてくれないかな」
「それは――」
即座にお断りを入れようとしたのだが、彼女の不安げな表情を見て言葉を止めざるを得なかった。背中を流してくれる状況から白金の理性が試される展開に発展することは目に見ている。本当ならばやんわりと断る所だのだが、リリスは俺に対して何かしらの贖罪を求めているようだ。背中を流すのが贖罪になるとは可笑しい話だが、それで彼女が気に病まなくなるのであれば安い代償だ。代償というのは失礼だと思うけどね。
「じゃあ、頼もうかな。誰かに背中を流してもらうなんて初めてだな」
不安げな表情からぱっと表情を明るなったリリスは「じゃあさっそく」と言って、その場から立ち上がる。当然、色々と見えてはいけないものが見てしまうので、俺はさっと視線を逸らすのだが確りと脳内に彼女の裸体がインプットされてしまう。
「なにしているの、シンヤ。湯船から出てくれないと洗えないじゃないの」
「ちょっと待って、リリス。その、諸々の事情がありまして今は……」
やばいやばい。まさか、今ので冬眠中であった息子さんが覚醒してしまったよ。このまま立ち上がったら、間違いなく天を突き刺す息子さんをリリスに見られてしまう。
そんな俺の事情など知る由もなく、リリスは俺に向けて手を差し出して立つように促す。
「なに訳の分からない事を言っているのよ。ほらさっさと立つ。さっさと」
手を掴まれて、立ち上がらせようと力を入れるリリスだが腕力はそれほどないのだろう。何度か力を入れて引っ張るのだが俺の体は全く動かない。
「リ、リリス。リリスさんや。そんなに急がなくてもいいのでは。ほら、もう少し話しをしてから体を洗っても遅くないと思うぞ。肩に浸かってちゃんと百数えないと」
「子供じゃないんだから、そんなのやらないわよ」
だったら、もう少し自分の無防備さを学んでくれ。子供じゃないなら察してくれてもいいじゃないか。裸になることで異性にアピールするって自分で言っていただろ。その気になった男がどんな反応になるのか知らないのかよ。
俺が頑なに動かない事に業を煮やしたのだろうか、今度は両腕をつかんで立ち上がらせようと試みるようだ。そのせいであなたの胸が中央に寄せられて凄いことになっているんだが。
「ねえ、はやくぅ。はやくしようよ」
この世界の女性陣はわざと言っている節が見られる。その言葉だけを聞いたら、色々と語弊が生みかねないぞ。みんなわざと言っているんだろ。どうしてこうもそっち方面に展開させたいんだよ。そろそろ俺もやばい状況になっていることに気付いてくれ。
どうしても背中を洗いたいのだろうか。体全体を後ろにそらして、どうにか俺を立ち上げようと必死になるリリス。足場が悪いお風呂でそんな事をしたらどうなるか注意しようとした矢先。
「きゃっ!?」
案の定、足を滑らせた。
「あぶない!」
慌てて立ち上がり、彼女の腕を引っ張って自分の方へと抱き寄せる。
「だ、大丈夫か?」
「ありがとう。その助かったわ」
「湯船であんな事をしたら危ないだろ。頭を打ったら大変な事になっていたぞ」
「う、うん。気を付ける。そ、それよりシンヤ。その……近いんだけど」
言われて、自分からリリスを抱き寄せている状況に意識が向けられる。
「あわわ。わ、悪い」
慌てて彼女から離れようとするのだが、それよりも早くリリスの両腕が背中に回されて離れようにも離れられない状態になってしまった。
「ちょ、リリスさんや?」
「シンヤの体って私たちと違って少しゴツゴツしているんだね」
ちょっと待って。この状況はシャレにならないから。お互い裸の状態で抱き合う状況がどれほど危険を内包しているのか理解していただきたい。さっきから、腹部にあなたの柔らかい果物が当たっている事に気付いてほしい。
「シンヤの鼓動が早くなっていくのが分かるよ。もしかして、興奮している?」
そこでそんな指摘をしちゃダメだって。興奮しているかって? んなの、しているに決まっている。可愛らしい女性とこんな状態で抱き合っているのに興奮しない男はいないよ。
「エヘヘ。実は私もさっきから心臓バクバク鳴っているんだよ。確認してみて」
そう言うと背中に回していた手で俺の手を取り、自分の左胸に押し当てる。
「ちょっ」
「ん。ど、どうかな。心音が早くなっているでしょ」
そんなこと言われても、胸の柔らかさの方が勝って心音を感じる余裕などないし。先っぽがちょっと硬いから興奮しているって事は分かるけど、そんなこと言えないし。
「もしかしてわからなかった? なら、もっと押し付けてもいいよ」
や、やめて。
それ以上、誘惑されたらプラスチック製の理性が完全に破断してしまう。俺たちはあってまだ一日も経っていないんだぞ。こういったことはもう少し仲良くなってから、ってそうじゃなくって。なんで相手がリリスになると理性が脆くなるんだよ。
やばいやばい。理性をコーティングしているメッキが剥がれていく。このままだと、本当にリリスを襲ってしまう。どうにか、どうにかして逃れなくては。なにか、何かないのか!?
視線を見渡して打開する方法を模索すると、脱衣所から覗き見ているエリスさんがいた。
エリスさんは口に手を当て、楽しそうにニヤニヤ笑っている。
「ちょっ。エリスさん、なに覗き見ているんですか。見ていないで助けてくださいよ」
「あらあら。気づかれてしまったわね。せっかく、娘の初体験が見られると思ったのに、残念だわ」
「実の母親が言っていい言葉じゃないでしょうが。ちょっ、リリス。リリスさんや。うっとりしているところ悪いけど、あなたのお母さまが見ているって」
「おかあさ……まっ!? ちょっ。お母さま。なんで、この時間に浴場に来ているの。今はシンヤが入っているのに」
実の母親がいることで我に返ったのか、俺と距離を開けて肩まで湯船に浸かり始める。普通、そんな対応をするのは俺に見られた時にするもんだがな、と言いたかったが。
「それをリリスが言うわけ? 一人だけ抜け駆けするなんて悪い子ね。ちゃんとクスハやイリス達にもチャンスを与えてあげないとダメじゃない」
「今日だけよ。今日は大事なお話があったから、譲ってもらったのよ」
「へぇ。そうなの?」
「な、何よ。その見透かした顔は。シ、シンヤも何か言ってよ」
そこで俺に振るの!?
「言うって何をだよ」
「私が真面目な話をしていたことによ」
いやぁ。どう考えてもそれは苦しいと思うぞ。
真面目な話なんてほんの一瞬だったし。
「エヘヘ。実は私もさっきから心臓バクバク鳴っているんだよ。確認してみて。のどこが、真面目な話なのか、しっかりと説明してもらおうかしら」
「なっ!?」
エリスさんが楽しげに言った言葉に大きく見開くリリス。今の言葉でリリスも今の今までの事を覗き見されていたと察したようだ。
「まさか、覗き見していたの!? 信じられない。淑女としてあるまじき行為じゃないの、お母さま」
「いいじゃない。私もなかなか旦那と会えなくて色々と溜まっているのよ」
「娘の前で何を言っているんだよ、あんたは!?」
そりゃあ、一夫多妻の旦那さんは色んな方面でおお忙しいだろうだから、気持ちを察せない訳じゃないけど、娘の前で暴露することじゃないだろうが。
「た、溜まっている? そりゃあ、教師なんかしているのだからストレスが溜まるのは分かるけど、娘でストレス解消しないでよ」
えー。そう言う風に解釈しちゃうの。
あなた、まさか俺の時だけ、全力でそっち方面に力を入れているんじゃないだろうね。
「そうじゃないんだけど、まあいいわ。それより、私も体が冷えちゃったのよ。一緒に入ってもいいかしら? というか、入るわね。お邪魔します」
俺たちが何かを言うよりも早く、服を脱ぎ捨てる。服を放り投げる時、スイカ程あるエリスさんの乳房が盛大にブルンブルンと揺れたのを見て、俺は鼻血を抑えることが出来なかった。
その後、どっちが俺の背中を流すか喧嘩になってしまい、せっかくお風呂に入ったというのに入る前よりも疲れてしまったことは言うまでもない。