第一章 天才から器用貧乏へ 1
--エイトside--
「いちッ! にッ! さんッ!よんッ!」
実家の道場で何時もの様に練習をしていた。
うちの家系は代々、騰背流という流派なのだ。といっても今振るっているのは先端に重りをつけた長さ2メートルはある鉄の棒だ。
騰背流は主に槍術を極めた珍しい流派だ。故に世間では、余り知られていない。
しかし、俺は、家族の期待もあってか結構誇りを持ってやっている。日課にしている朝5時から行うこの修行は、全く苦ではない。どうやら俺は、何かを続けることが得意らしい。
父曰く、百年に一人のセンスを持っているらしく、弱冠16歳にして全ての技を習得した。物覚えが異常なまでに良いらしい。自分では余り実感はないが……
今では師である父と互角の実力を持っている。
「今日は、いつもよりなんだかルンルンだね〜 」
道場の縁側から喋りかけて来たやや茶色い髪をツンツン立たせた男は、幼馴染の小森 薫だ。小中高と同じ学校に通っているが、こいつのせいで何度厄介ごとに巻き込まれたかわからない。俺が二つ名までつけられたのもこいつと一緒にいると喧嘩に巻き込まれることが多いからだ。ちなみに、千面鏡とは、俺が遊び感覚で相手の技とか戦闘スタイルを見よう見まねで真似するからついたらしい。
「…ッ…ッ…そうかー? …ッ しいて… ッ 言うなら…ッ 今日から…ッ STOの…ッ 正式運営開始…ッ だからかな…ッ」
素振りの手を止めずにそう言ったエイトの顔は少し嬉しそうな表情が浮かぶ。
STOとは、シックスツリーオンラインというフルダイブ型のVRMMORPGの略称だ。
「お!そうだったな!ヒッヒッヒ…実は俺もその件でワクワクしすぎて、昨日珍しく喧嘩買っちゃったんだよねー」
「いや、お前に関しては、まった珍しくない。むしろ喧嘩売ったの間違えだろ。どーせ」
一通りの修行を終え、縁側に座る。
「んー、そうかもなー。」
「それ、俺の真似してんの?にてねー。全然にてねー」
「あ!もうひとついうことあったわ。昨日、加藤航太ってやつと喧嘩したでしょ!どーだった?」
「んー、悪くはないけど、もう一超えだね。そこら変のやつよりは良い筋してたよー。ってかもしかして知り合いだったか?」
「いや、知り合いっていうほどでもないかな。俺も一回喧嘩売られて、返り討ちにしてやったら、手のひら返して舎弟にしてくださいっていってきてさー。あん余りよくわかんなかったから、まだ喋ってたけど無視して、終わらせちゃったんだよね。
そいつが最近、名前上げてきてるから、あれから成長したのかなーって思ってさ。」
「へー。なるほどね。あ、いっけね。もーすぐSTOが始まる時間だわ。じゃなー」
「じゃーなーヤンキーゲーマー」
薫の皮肉った別れの挨拶に振り返らずにひらりと手を振り、足早に母屋へ向かう。
シャワーと食事を済ませ、自室に戻ると時計は11:45を指していた。
公式運営開始は正午12:00なので少し時間がある。ゲーム機本体にチップ式のゲームカセットを入れヘッドセットを準備すると、STOのホームページを開きゲームの特徴などをサイドチェックする。そして、他のゲームで知り合ったゲーム仲間に一応連絡を入れておく。
時間まであと2分。
この時間が異様に長く感じる。
あと1分。
ヘッドセットを装着しベットに横たわる。
加湿器…OK
エアコン…OK
よし、これで心置き無くゲームに集中できる。
正午12:00を時計が示すと同時にヘッドセットのログインボタンを押す。
数秒で俺の意識は、この機会へと吸い込まれる様に落ちていき視界が暗闇に包まれる。




