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第12話「DARK STRIKE!!」

 エディンは夢を見ていた。

 夢だと自覚のある夢、いわゆる明晰夢(めいせきむ)である。

 古い記憶の中に沈んでいた、忘れたことさえ覚えていない記憶。

 今、疲れにまどろむエディンの脳裏に、懐かしい光景が浮かび上がる。

 それは、視界の全てを塗り潰す濃密な(きり)

 先の見えない水面を、エディンはボートに乗って進んでいた。

 やがて、白い闇の中にシルエットと声が浮かび上がる。


『見て、リシュ。舟です……もしや、助けが来たのではないでしょうか』

『おおー、ホントだ! オーレリア、オレ達、助かる!』


 五、六歳程の幼女が二人、ボートの上で抱き合っている。

 そして、彼女達のボートは浸水して今にも沈みそうだ。恐らく、必死で排水し続けたのだろう。二人共びしょ濡れで、エディンを見るなり泣き出した。

 そして、上から優しい声が降ってくる。


『おや、ボウヤの言う通りだったねえ。じゃあ、助けてあげるとしよう』


 大人の声で、ともすれば老婆(ろうば)のようでもあり、少女のものにも聴こえる。

 それは、酷く落ち着いた女の声だった。

 エディンのボートには、一緒に大人の女性が乗っていた。見上げるも顔は不鮮明……夢の中では、ひどくそこだけがぼやけて再現されない。


『さて、ふむ……とりあえず船底の穴は(ふさ)いであげるとして、だ。どうしたものかねえ……私が出ていくと話がややこしくなる。あとは頼めるかい? ボウヤ』


 幼い日のエディンは頷き、近付き並んだ女の子達のボートへと飛び移る。(すで)に水は引いて、船底の穴も塞がっていた。

 否……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そして、エディンは振り返る。

 霧の中へと、女性はボートごと消えていった。

 そして、そこでエディンの記憶も途切れている。

 徐々に意識が覚醒する中で、ジェットの轟音と振動が身体に響いてきた。エディンは目覚めと同時に、思い出す。己を囲むのは、愛機"カリバーン"一号機のコクピットだ。


「おーっす、起きたかネボスケ。オートパイロット中だからって寝るなよー?」


 肩越しに振り返れば、後部座席の姉が笑っている。

 彼女もコパイロットの仕事を放棄し、手にしたファッション雑誌をめくっていた。

 二人は今、八神重工(やがみじゅうこう)のオルレアン工場を飛び立ち帰国の途についている。

 全ての"カラドボルグ"がウルスラ王国へと旅立ったのを確認し、受領書にサインを終えたからだ。引き続き、第二ロットの機体が生産中で、その受注書類にもサインしたばかりだ。

 飛び立って数時間、山脈を超えて北欧の奥の奥へ。

 "カリバーン"は高度に制御された自動操縦で飛び続ける。


「姉さん、僕は……どれくらい、寝てたかな?」

「んー? さぁ? 寝てる間も問題なく飛んでたからさ、あたしが起こさなかったの」


 姉のエリシュは、そう言いつつも雑誌から目を離さない。

 二人を乗せた"カリバーン"は、静かに高高度を巡航中だった。ラムジェット推進を用いたエンジンは、驚異的なスーパークルーズ性能で国境を超えてゆく。

 だが、不意にエディンの耳をアラート音が貫いた。


「姉さん!」

識別不明機(アンノウン)、数は一! 追いついてくる……マッハ3.2!? エディン!」

「オートパイロット、オフ。アイハブ!」


 瞬時にエディンは操縦桿(スティック)を握った。

 全ての機能をマニュアルにする。

 背後では姉が、雑誌を手放し索敵と火器管制にてんてこ舞いだった。


「どこの国? でもないわよね、これ。こんなスピード出るのって」

「"ドミニオン"や"ケルビム"でお迎えに来たって線は?」

「ふーん? 王立海軍(うち)じゃ歓迎の意味を込めてロックオンする訳? エディン」

「ッ! そりゃ、ない、ねっ!」


 即座にエディンは機体をダイブさせる。

 雲海の中へと飛び込む"カリバーン"の背後に、無数のミサイルが迫った。

 すぐにエリシュが磁力炉マグネイト・リアクターの力でジャマーを展開する。強力な磁場が限定的に発生して、追いすがるミサイルの大半を無力化した。

 だが、誘爆する爆炎の煙から、二発のミサイルが追いすがった。

 熱源探知に赤外線誘導、そしてカメラ誘導……最近は簡易AIによる自律追尾型のミサイルもある。磁力炉で生まれるジャマーは、機械そのものに強力かつ最小範囲のECMをかけるのだ。だが、現実に生き残ったミサイルが迫りつつある。


「どゆこと、エディン!?」

「舌を()むよ、姉さん。マニュアルで処理するしか!」


 即座にエディンは愛機を変形させた。

 急減速と同時に、全身を軋ませるGに顔を歪める。

 翼のパイロンに下がったライフルを手にするや、"カリバーン"は落下しながらミサイルをロックオン。エディンのトリガーと同時に50mmが火を吹いた。

 空薬莢(からやっきょう)が飛び出す中で、ミサイルが火を吹き爆発する。

 その挙動から、AI制御の自律追尾型ではない。

 AI搭載型ミサイルは、恐ろしく高価なのだ。


「撃墜確認……新型のミサイル? まさか、磁力を遮断するタイプの構造になってる?」

「エディン、後ろ! 後ろに敵機! さっきのやつ!」


 身を(ひるがえ)して変形する"カリバーン"へと、火線が殺到する。

 咄嗟(とっさ)に避けて錐揉(きりも)みで飛ぶ中、一瞬前にいた場所が蜂の巣になる。

 そして、フルブーストで上昇する中でエディンは見た。

 雲間(くもま)稲光(いなびかり)が浮かび上がらせる、黒い敵の姿を。

 まるでそう、漆黒の刃を血で濡らした魔剣だ。

 黒地に赤い塗装の、デルタ翼の戦闘機……その姿が、遠ざかりながら変形してゆく。


「敵の……機動戦闘機(モビルクラフト)っ!」

「エディン、敵機に高熱源反応……嘘っ、まさか!」


 それは、水平尾翼と一体化した大きなデルタ翼を持ち、一本だけ角のように垂直尾翼が突き出ていた。その飛行形態(ファイター・モード)が、あっという間に手足を伸ばして機首を折り畳む。

 完全に人の姿、機兵形態(ストライダー・モード)になった、黒き魔神……その顔にはX時に四つの瞳が光る。

 そして、翼の左右から取り出して連結させた、長い長い砲身を腰溜めに向けてきた。

 砲口に光が収束する、その照り返しからエディンは逃げる。

 姉の声は震えて必死だった。


「光学兵器……!? 八神重工だってまだ試作中なのに」

「事実、現実だね」

「もぉ! なんで落ち着いてるの!」

「いや、まぁ……相手がはっきりしたからかな? 所属不明、出処不明、スペックも搭乗員も不明。でも、たしかに存在する危機で、敵で、同じ機動戦闘機だ」


 あっという間に敵機を振り切った。

 同時に、エディンはエンジンを切って自由落下。

 直後、周囲の雲を蒸発させながら光が走った。

 天を引き裂く光の奔流(ほんりゅう)は、(まばゆ)い輝きで空を()く。

 全動力をカットしたため、敵機はエディン達の"カリバーン"を見失ったのだ。そして、チャージを始めたビーム兵器は待ってはくれない。衛星とのリンクでの光学映像や、磁気探知等での索敵をやり直すことなく攻撃せざるをえなかったのだ。


「姉さん、帰ったら報告しなきゃね。敵国の……つまり世界中の国家のどこかに、こちらと同じく機動戦闘機を運用している部隊がある。想定内だけど、早過ぎる気がするなあ」

「はぁ、気が滅入(めい)る……死ぬかと思ったわ。うう、ちょっとちびりそう」

簡易(かんい)トイレならそこに入ってるけど」

「っさいわね、もぉ遅いわよ! ……ちょ、ちょっとだけだから大丈夫よ」

「はいはい」


 エディンは再びエンジンを再始動させ、最高速で離脱する。

 追ってくる気配はないが、無情なる現実がエディン達姉弟の胸に突き刺さった。エディンにとっては敵側の機動戦闘機導入は想定内だが、あまりにも早過ぎる。ようやくこちらが量産機を受領したばかりだというのに。

 もし、今日遭遇した機体が敵側の量産機だとしたら……確実に数で(おと)る。

 もともとウルスラ王国の王立海軍は、数の不利を補う為の機動戦闘機運用部隊でもあるのだ。


「まずいね、これは。とりあえず」

「とりあえず?」

「操縦をオートにして少し寝よう。流石(さすが)に疲れたよ、姉さん」


 それだけ言うと、エディンは操縦桿を手放す。寝てるふりをして脳裏に思考を巡らせるが……打開策は簡単には思い浮かばなかった。

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