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どうやらリチャードが部屋を移動してまでボクに話したかったのはこのことだったらしい。
父や仲間のことだし確かに大事な話……ではあるんだが、基本的に放ったらかしにされていたボクにとってはそこまで……な内容だった。
それでも、わざわざ配慮して部屋を移動してくれたリチャードには感謝だ。
母は……未だに接点がなさ過ぎてよくわからない人だが、何だかんだでビーンズ家の皆には良くしてもらっている気がする。
しっかり応えないといけないな。
さて、一通り話を終えると、リチャードはまだ仕事があるようで「リリアーナは夜には戻るだろう」とだけ言って、ボクを残して部屋を出て行った。
「どうしようか……またおじいさんたちのところに行けばいいのかな?」
リチャードが出て行って数分ほど座ったままだったが、ここにいてもやることはないし、向こうに合流しようかね。
……リチャード。
ビーンズ家に良くしてもらっているなと思っていたが、この放置の仕方はちょっと減点だね!
ボクは少々むくれながら立ち上がると、部屋を後にした。
◇
「ただいま戻りましたよ」
リチャードとの話を終えたボクは、おじいさんたちがいる部屋に戻って来た。
ボクが部屋を出た時はまだおじいさんは手紙を手にしていたが、今はもうテーブルの上に畳んで置いているし読み終えているようだ。
話し合いはどうなったんだろう?
「リチャードはどうした?」
「仕事が残っているからとまた出て行きましたよ」
どうやらリチャードはこちらに挨拶することなくさっさと屋敷を出て行ったらしい。
「……全くアイツは」
おじいさんや祖父が溜息を吐いている。
ボクも部屋で放ったらかしにされたが……どうやら彼は誰に対してもああいう感じらしい。
「アイツは昔から変わらんな。何か失礼は無かったか?」
「話が終わった後さっさと出て行かれたくらいですよ」
「……済まないな。昔から言ってはいるんだが、どうにも会話をさっさと切り上げる癖が治らないんだ。いや、治す気がないのかもな」
このまま愚痴が始まりそうだな……と思っていると、おじさんが空気を変えるようにボクに話しかけてきた。
「中隊長として街の住人から尊敬を受けているではありませんか。……お嬢様のお話はどうでしたか?」
「あぁ……戦うことになった経緯とか、あのオオカミの群れがどこからきたのかとか、村への影響はどうかとか……色々話してくれましたよ」
群狼戦士団の野営地の調査結果や、父を始めとした幹部格の消息はまだ分かっていないことなど……重要なことではあるが、これまで外と関りを持たないで生きていたボクには、どれくらい影響が出るのか予測が出来ない。
下手に広めるようなことではない内容に関しては、後でおじいさんや村のジョンに話して、彼らに任せた方がいいだろう。
黙ってジッと二人に目配せをすると、二人ともボクが何か言いたいことを残していることを察したようで、おじさんに気付かれないように小さく頷いた。
そのせいか部屋に沈黙が訪れて妙な空気になってしまったが、そこに、ノックの音と共に「失礼します」と廊下から声がかかった。
「入りなさい」
「……失礼します。アリスお嬢様のお部屋の支度が出来ました」
「ご苦労。アリス、君の部屋の用意が出来た。湯を沸かしているから汚れを落として来なさい」
「……汚れてましたか?」
草原に入って走り回ったから、戦いを終えた直後はあちらこちらに草や土が付いていたが、それは全部払い落としたし、オオカミの血などはかかったりはしていなかったはずだ。
そんなに汚れていたかな……と服の裾や背中を見ていると、おじいさんたちは苦笑しながら口を開いた。
「草原に入ったんだろう? いくら気を付けたところで汚れは付くし、臭いだって残る」
「もっとも、知らなければ気にならない程度で大したことはないがね。折角用意したのだから、ゆっくりして行きなさい」




