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ボクは子供たちの勉強会に交ざることもあるが、既に知っている内容を教えていることも多々ある。
復習や前世との知識の違いの修正も兼ねて参加してはいるが、子供たちほど授業に集中しているわけではなく、屋敷や集会所で勝手に拝借した資料を読んでいたりする。
ちなみに、今日読んでいる資料は、今朝ジェイクから話を聞いたから……ってわけではないが、このビーンズ家が治めている……ビーンズ村とでも言えばいいんだろうか?
ともかく、それには農場が荒らされた記録だ。
この村はラカンパの街から少し離れていて、街道のすぐ側に位置しているものの周りには農場が。
そして、裏手には深い森が広がっている。
イノシシからシカからウサギから……大小、肉食草食様々な動物が出没して、農作物や家畜が狙われることはよくあるようだ。
野盗による被害も怖いが、獣害も侮れない。
野盗や大きな獣の群れは群狼戦士団が周辺を巡回して、退治したり追い払ったりしているそうだが、今年はどうなるか……。
まぁ……群狼戦士団はいないが、不定期だった専門家の巡回の代わりに定期的に巡回を行うジェイクたちがいるし、むしろ巡回の頻度が上がる分被害は抑えられるかも……。
「うん?」
色々考えながら資料を読んでいたが、ふと窓の外から聞こえてくる声に顔を上げた。
悲鳴というか怒鳴り声というか……何かが起きたみたいだ。
気付いたのはボクだけじゃなくて子供たちも、さらに少し遅れて教師役のおじさんも聞こえたようで、窓の方に歩いて行く。
ボクも窓辺に行くが、何やら声は聞こえてきても何が起きているのかまではわからない。
「……何かあったんでしょうか?」
「わからん。外で何かが起きているようだが……お前たちは座っていなさい」
ボクの言葉に首を振りつつ、自分たちも外を見ようと近づいて来た子供たちを座らせた。
「半鐘は鳴っていないし避難が必要な事態ではなさそうだな。事故でも起きたか?」
おじさんはそう言うと、外の様子を窺うように身を乗り出した。
彼に倣ったボクもそうすると、外を走っていた住人の一人が身を乗り出したボクに気付いて、ハッとした様子で「アリスさん!」と叫んだ。
そして、こちらに駆け寄ってくる。
「どうしたんですか?」
ボクがそう訊ねると、彼は息を切らしながら「農場に魔獣が出ましたっ!」と告げた。
◇
魔獣。
今朝ジェイクも話をしていたが、この辺には魔獣が出るそうだ。
魔物の一種なんだが……どちらもある程度遭遇する場所が限られているし、森や山の奥にでも踏み込まない限りはまず縁のない存在だ。
屋敷の方に魔物に関する書物はあるらしいが、残念ながらボクはまだ閲覧の許可が出ていないため、野営地や移動の最中の荷馬車の上で聞いた程度の知識しかボクは持っていない。
それでも、その知識に従って過ごしていると、生まれてから大半の時間を外で過ごしているボクですら、一度も遭遇したことはない。
唯一危なかったのは、野営地が襲撃された日に子供たちと一緒に森の中を逃げた晩だろうか?
その際に、ボクたちの様子を窺う気配はあったが、それでもわざわざ近付いてくるようなことはなかった。
こちらから手を出さなければ、余程のことがない限り魔物側だって襲って来たりはしないんだろう。
だが、それでも襲って来たってことは……?
「いつもはグレイさんたちが見回りをしてくれていたんですが……今年はそれがないから。坊ちゃんたちだけじゃ獣はともかく、魔獣は無理だったみたいです」
ジェイクたちでは魔獣避けにはならなかったか。
まぁ……ボクですら群狼戦士団のメンツに比べたら彼らは明らかに弱いってことがわかるくらいだし、魔獣だったらそれくらい察知出来るだろう。
「農場で働いていた者たちは、今は倉庫に避難させていますが、このままだと作物がどうなるかわかりません! アリスさん、お願いしますっ!!」




