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「あ、アリスさん、お早うございます。訓練はもう終わりですか?」
ボクたちが今も暮らしている家に戻ってくると、こちらも使用人が朝食の準備など仕事を開始している。
「終わりました」
このやり取りはここで暮らし始めて毎朝のことなので、その言い方でも彼女たちにしっかりと伝わる。
「もうお湯が沸いていますから、いつでもお風呂に入れますよ。着替えも浴室に用意しています」
流石だ。
ボクは彼女に礼を言うと、足早に浴室へ向かった。
◇
ビーンズ家の屋敷や他の家がどうかはわからないが、この家の浴槽は杉か檜か……その類の木材で出来ている。
この国は高い山はないが、森ならそこら中……この村だってすぐ裏に大きな森があるし、そこから採った木なのかもしれない。
バスオイルは備え付けられていないみたいだが、それ抜きでもいい香りが漂っていて実にリラックス出来る場所だ。
この国は自然が豊かで、そこら辺に川が流れていたり湖があったりする。
野営地暮らしが長かったが、水に困ったことはない。
だが、お湯があるかどうかは別だ。
冬は調理場の竈を借りてお湯を沸かして、それで体を拭いたりしていたが、当然風呂なんてものはなかった。
ところが、この村で暮らすようになってからはどうだろう。
朝は寝起きの運動から戻ってきたらお風呂の用意が出来ていて、夜も同じく用意をしてもらえる。
火を焚いている様子はないし、どうやってお湯を用意しているのかは未だにわからないが……たっぷりのお湯に浸かり、綺麗に洗濯された服が用意されて……。
贅沢な暮らしをさせてもらっている。
「だはぁ……」
さて、いい加減長湯のし過ぎでのぼせそうになってきたし、名残惜しいが出るとするか。
浴槽から出ると、まずは用意されたタオルの一枚を頭に巻いて、それから別の一枚で体を拭いて用意されている服に着替えた。
そして、スカーフを口元に巻いて着替えは完了だ。
ボクは頭にタオルを巻いたまま浴室を後にした。
◇
お風呂から出て、一旦自分の部屋に戻ってのんびりしていると朝食の用意が出来たと声がかかった。
子供たちと一緒に食事を食べて、それからまたのんびり寛いでいると、今度は屋敷の方からボクじゃなくて子供たちに勉強の時間だと呼びに来た。
今朝ジェイクに言ったように、ボクも一緒について行く。
行き先は村の中央にある集会所の一室だ。
ビーンズ家のお屋敷も村の住人が集まったりする部屋もあるが、わざわざそこまでするほどじゃない用件だったり、住人同士のちょっとした話し合いなどで使われたりするそうで、子供たちの勉強にも使われている。
色々な授業があって、そのどれも教師はビーンズ家の人間が務めている。
そのため屋敷の部屋を使ってもいいと思うんだが……敢えて屋敷を使わないのは、子供たちが気楽に参加出来るようにするためなんだとか。
ボクが見た限り、ビーンズ家と住人との距離感はかなり近いと思うんだが……やはり線引きはしっかりしているみたいだ。
村の子供たちがボクに話しかけてこないのはそのためであって、決してボクが怪しいからってわけじゃない。
……そんなどうでもいいことはさておいて、今日の授業の内容は文字の読み書きだ。
何度か参加したが、読み書き文法はしっかり力を入れて教えているらしい。
読み書きはしっかり出来るつもりだし、ボクがわざわざ参加するほどのことではないのかもしれないが、如何せんボクの読み書きは我流で身に着けたものであって、正しいかどうか少々怪しいところがある。
邪魔にならないように後ろの席で、本を読みながら授業に耳を傾けて、時折確認するように視線を向けたりしている。
聴講生……というには大分不真面目かもしれないが、教師にとっても村の子供たちにとっても遠慮しなくて済むし、これくらいの距離感の方がいいだろう。




