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こちらに駆け寄って来る兵たちに、ボクだけじゃなくて農場で働く大人たちも気付き、何人かがこちらにやって来ている。
ここの住人だけあって騎士団にはあまりいい感情を持っていないようで、彼らを見る目はあまり穏やかではない。
ボクに用事みたいだし、とりあえずボクが対応するか。
「お早うございます……どうかしましたか?」
「うむ。エリーゼ様とリリアナ殿が君を呼んでいる。屋敷に来てもらえるか?」
「む?」
二人から呼ばれる心当たりは……あるような無いような?
昨日の話の続きでもするのか……それとも今朝のことだろうか?
ともあれ、話をすること自体は問題ないし「わかりました」と頷いた。
ただ、子供たちはどうしようか。
ボクが農場の方を気にしている素振りに気付いたのか、兵の一人が前に出て来た。
「警備役としてここには私が残ろう。心配はしなくていい」
「……それなら。いいですよね?」
いつの間にか、後ろどころかボクの隣まで来ていたおじさんに訊ねると、彼は仕方がないといった様子で大きく溜め息を吐いた。
「……荒らさなければ構わないよ」
警備役を引き受けると言っているのに、まず荒らすなと注意する辺りがこの村の住人の騎士団への感情をよく表している。
むしろ残った方が彼らとケンカしないか不安になってくるが……。
「任せた。アリス嬢、行こう」
兵たちはそんなことを気にする素振りも見せずに、サッサと話を進めてしまう。
騎士団ってのはこの世界の警察みたいなものだし、こんな風な態度を向けられるのも慣れてるのかもしれない。
ボクがアレコレ考えても仕方がないし……彼らも大人なんだから適当にやってくれるだろう。
農場に残る彼に「お願いします」と言うと、後の二人の下へ歩いて行った。
◇
「どうした?」
歩き始めて少し経った頃、ボクが隣の設置されている柵を見ていることに気付いた兵が訊ねてきた。
「……ここを通れたらすぐなんですよね」
ここの柵は、昨日賊と戦った場所のすぐ側にある村の柵よりも高いが……多分ボクなら飛び越えられるはずだ。
ここを飛び越えることが出来るのなら農場との出入りが楽になるんだけどな……。
「君なら飛び越えることは簡単だろうが……今は我々がいるからな。これ以上ビーンズ家との関係を悪化させたくないし我慢してくれ」
「わかってます。ここの人たちも柵を簡単に越えられるってわかったら不安になるでしょうからね」
ボクは肩を竦めながら答えた。
この村の住人とはまだ少ししか話していないが、それでも村の外の危険をしっかり認識していて、それから自分たちを守るこの柵を信頼しているのは十分わかった。
その柵が実は簡単に越えられる物だったってわかったらどうなるか。
少なくとも、ここに来たばかりのボクがやっていいことではないよな。
面倒ではあるが……大人しく歩いて行こう。
「それより、話ってなにかわかりますか? 心当たりがあるような無いような……よくわからないんですよね」
ボクの言葉に前を歩く二人は顔を見合わせると、周囲の様子を窺うようにキョロキョロと見回している。
そんなに警戒するなんて……何かマズい話なんだろうか?
不安になりながら彼らを見ていると、周囲の確認を終えたらしくこちらに近づいてきた。
「アリス嬢、ここの代表の息子は知っているか?」
「息子……? あぁ、今朝会いましたよ」
会ったというよりは絡まれた……って方が正しいが、ともかく一応顔は知っている。
「彼は君が群狼戦士団を継ぐことに大分不満があるらしい。すでにエリーゼ様が決定したことだし、ビーンズ家の当主やリリアナ殿も認めているから今更彼が何を言ったところで関係はないのだが……」
「彼は若者を集めて普段は農場も含む敷地の警備を行っているそうだ。我々がいる間に話を纏めておく必要があるだろう」
そう言って揃って溜め息を吐いた。




