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エリーゼ様にどうかしたのかと訊ねると、まずは街の様子を聞きに来たと答えて、それから少々照れた様子で「オオカミについての話も聞きたくて……」と続けた。
「王都の学院で一緒だった方がトリの従魔を所持していたのです。あまり付き合いのある方ではなかったため、詳しく話を聞くことが出来なかったのですが、見事に意思の疎通が出来ていていつも不思議に思っていたんですよ」
「なるほどー……興味があったんですね」
しっかり者のエリーゼ様ではあるが、何というか……年相応のところもあるらしい。
まだジョンから許可が出ておらず、彼女は村から出ることは出来ないためオオカミを見たり触れたりすることは出来ないが、気になっていたんだろう。
それなら。
「オオカミの名前がまだ決まっていないんです。祖父や伯父からは神話や何か有名な名前を取ると、不敬と判断されることもあるから避けた方がいいと言われたし……どういった名前を付けたらいいかがわからなくて。ここに何かいい資料がないかなと探しに来たんです。良かったら手伝ってもらえませんか?」
こんなことで忙しい彼女の手を煩わせたらいけないなと思っていたんだが、興味があるのなら逆に丁度いい。
決してここが悪い環境だとは思わないが、それでも彼女のこれまでの生活環境とは違っているだろうし、制限だって多いためストレスだってあるだろう。
気分転換になるだろうし、手伝ってもらおう。
ボクの言葉に、エリーゼ様は笑顔で「もちろんです」と頷いた。
◇
さて、資料探しにエリーゼ様も加わったことで、そのペースは一気に上がった。
だが……残念ながら進捗は芳しくない。
この村だったりビーンズ家と関係のある村の出生情報や、その際の子供の名前などの資料は見つけたが、流石に平民の子供と魔獣の名前を一緒に考えるのも違う気がする。
まぁ……これはこれで気になる点もあったし、興味深くはあったんだが、一先ず今は関係ない物だ。
「中々丁度いい資料が見つかりませんね。わざわざ家畜に名前を付けたりはしないようですし……ましてや記録に残したりはしないでしょうからね」
手に取っていた本を棚に戻しながらエリーゼ様がボヤいた。
どうやら彼女の方も丁度いい資料は見つかっていないようだ。
こっちならより一般的な資料が多く揃っているし、何か丁度いい情報が転がっているんじゃないかと思ったが、その考えは間違っていたのかもしれない。
まだ全部は見れていないが、これだけ二人で探しても見つからないってことは、丁度いい資料はこちらにもないんだろうな。
「エリーゼ様、騎士団で飼っている軍馬は名前とかは付けないんですか?」
「馬の名前ですか。特に決まりはないので、馬房毎に同じ名前を付ける場合がありますよ。末尾に何代目かわかるように数字を入れていましたね」
「そんなんで大丈夫なんですか?」
軍馬なんて大層な物なのに、随分とぞんざいな扱いをしていることに驚いていると、エリーゼ様が苦笑しながら続ける。
「飼育員がちゃんと世話をしていますし、定期的に騎士団内で世話係を交代して参加させていましたからね。最低限のコミュニケーションはとれていました」
「へぇ……」
騎士団の所有物であって騎士個人の物じゃないし、あんまり入れ込み過ぎないように……ってことなのかな?
ボクの気のない返事を気にすることもなく、エリーゼ様は話を続ける。
「ですが、中には先祖の名前が付けられたりしている馬もいましたね。そういう場合は、大抵曾祖父かその先か……直接の面識がない方の名前を付けたりしていました」
「なるほど……そういうのも有りなんですね」
「後は……毛や瞳の色をそのまま名前に付けたりもしていました」
「毛や瞳……なるほど?」
先祖や小屋の名前を付けるってのはピンとこなかったが、動物自身の色に合わせるってのは……いいかもしれない。




