第7話「終わりと始まり」
「影山くん、その……」
クラスに突然現れた正体不明の謎の男子学生が薬院 彩葉に行った愛の告白に教室がざわつく中、彩葉はどう答えるのか。
「私も影山くんのことがずっと前から好きだったの。私でよければ、是非ともよろしくお願いするわ」
あ、それ大々的に言っちゃうんだ彩葉さん。
というか、さっきまでの照れた様子の乙女モードが一瞬で解除されたのだが、あれは一体なんだったのか。
彩葉があっさりと告白を受け入れたこと、そして"ずっと前から好きだった"発言により、教室が阿鼻叫喚に包まれる。
そしてしばらくしてから、クラスの面々の視線は俺に集まった。
しかも、哀れみの目線を向けられている。
クラスの生徒目線では、別れたばかりの彼女にもう新しい彼氏が出来た哀れな男ということになっているに違いない。
こうなってしまっては、もう何を言っても強がっていると思われてしまうに違いないので、何も言わずに気にしていないふりをして、可哀想な元彼に徹しておくことにした。
翌日の昼休み。
俺は彩葉の"彼氏"ではなくなったので、学食で孤独のグルメを洒落込むことにした。
学食を一人で堪能する。それが俺の数少ない楽しみだったのだが、彩葉のせいでそれもしばらくご無沙汰だったので、ようやく俺の日常が帰ってくる――と思っていたのに。
「なんでお前も来てるんだ真由希」
「幼なじみなんだから別にいいでしょ?」
「理由になってねえ……」
「なに?アキは私とご飯食べたくないの?」
「いや別にそういうわけじゃ……」
「アキのことだから、久々に学食をゆっくり味わえるとか考えてたんでしょ!」
「なんで俺が学食でひとり飯キメてること知ってんだよ!?」
「え?幼なじみなんだから」
お前それ便利な言葉じゃないからな?
結局、真由希がなぜ俺のルーティンを知っているのか、それが明かされることはなかった。
俺がどう言おうと、グイグイモンスターの真由希が引き下がってくれるとも考えられないので、大人しく二人で食事を取ることにした。
「影山くんと彩葉ちゃん、すっかりラブラブだね」
そう、影山くんと彩葉の二人は、なんと教室で堂々と二人で食事を取っているのだ。
影山くんはうちのクラスの中でも、トップクラスに影が薄いのだが、どうやらクラスメイトの間では不登校児と思われていたらしく、影山くんが教室にいるという事実が明らかになったことで、告白の時のあのどよめきが起こったらしい。
彩葉が男子からの告白にOKを出したこと。
そして、その相手が“不登校児だと思われていた影山くん”だったこと。
クラスは、その二つに驚いていたというわけだ。
そう思えば、あのどよめきも納得。
ちなみに影山くんは今のクラスになってから欠席になったことは一度もないと彩葉が言っていた。影山くんガチ勢の彩葉先生が言うのだから間違いないだろう。
俺がそんな光景を尻目に教室を出ていく時、またしてもクラスメイトから哀れみの視線を向けられてしまったのだが、これはいつまで続くのだろうか。
まあ、その時点でナチュラルに真由希が後ろを歩いていたのは気が付いていたのだが、購買にパンを買いに行った可能性に少し賭けていたのだ。
しかし、賭けは外れ、学食まで付いてきていた。
俺と会話することもなく、一定の距離を取った上で列に並んでご飯を受け取り、当たり前のように俺の隣の席に腰掛けてきた。
この時ばかりはさすがの俺でも怖かった。
いくら幼なじみだからって怖いぞ真由希。
普通に"私も学食一緒に行きたい"って言ってくれれば、喜んでOK出すんだがなあ。
「しかし、影山くんはすっかり変わったな」
「そうなの?」
「え?気づいてないのか?」
「影山くんのことあんまり見てないからわかんない。私、アキにしか興味ないから!」
「お、おう……」
そういうのリアクションに困るからやめてくれ。
どういうつもりでそういうこと言ってるんだよ。
「まあそれはいいとして。影山くんって、俺が話しかけてもすぐに逃げ出しちゃうくらいにビビりなヤツで、彩葉に話しかけるなんて当初は全くできなさそうだったんだよ」
「ふむふむ」
「それが、教室で彩葉に愛の告白するまでに謎の成長を遂げるもんだからびっくりだよな。全く、どこまでが彩葉の計算だったのやら」
「あははー。彩葉ちゃん、影山くんが告白してくるのも予想してた感じだったもんね」
数週間後の未来からタイムリープしてきたんじゃないかってくらい、自分の望む結果に物事を誘導していた――いや、違う違う。
終わり良ければ全て良し理論でいい感にまとめようとしてたけど、そもそも影山くんと付き合いたいなら俺を偽彼氏にしてその気にさせるなんて回りくどすぎる方法取らずとも、彩葉が告白すれば速攻で付き合えてたろ。
アイツ、頭いいのか悪いのかよく分からんやつだな。
まあ、何はともあれ、上手くいったみたいで良かったよ。
短い付き合いだったが、今となっては俺たちと彩葉は友達、なんだからな。
その後、俺は影山くんと彩葉カップルに呼び出されていた。
付き添いとして、なぜか真由希も着いてきた。
「やあ、天神くん!」
誰だろう、この影が濃ゆい爽やか好青年は。
「……どうしたんだい?僕のことを忘れちゃったのかい?」
え、マジでなにがあったのこの人。
なんでこんなことになっちゃったの?
「……おい真由希、この人誰だ?知り合いか?」
「いやいや、アキの知り合いでしょ?私、こんな人知らないよ」
「あなたたち、私の彼氏に向かって失礼は態度はやめてちょうだい」
謎の好青年の隣には、なぜか彩葉がいた。
ということは、ということなのか?
「影山くん……なのか?」
「そうだよ!全く、失礼しちゃうなあ」
にわかには信じ難いことなのだが、目の前の爽やかイケメンは影山くんで間違いないらしい。
隣の真由希をちらっと見ると、衝撃のあまりフリーズしているらしい。
気持ちはわかるぞ、幼なじみよ……。
「おい彩葉、お前影山くんに何をした?」
「失礼ね。何もしてないわよ」
「何があったら一晩経っただけであの忍者が爽やかイケメンに変貌を遂げるんだよ」
「イメチェンしてみたんだ。どうかな?」
「いやイメチェンとかいうレベルじゃないぞ」
金メッキのように輝くイケメンオーラを放つ目の前の男は、学年トップクラスの美少女である薬院 彩葉の彼氏に相応しい仕上がりをしており、お似合いという言葉が本当に適している。
たった一日でド陰キャの男子生徒が爽やかイケメンに変貌を遂げられた理由がさすがに気になって仕方ないのだが、結局それは教えて貰えなかった。
「それで、影山くん。なにか話か?あ、もしかして"俺の彼女に近づくな"とかそういうアレを言いに来たのか?安心してくれ、俺は――」
「天神くん、僕は感動しているんだよ!」
「は?」
「彩葉さんからいろいろ聞いたんだ。君が僕と彩葉さんの愛のキューピッドになるために、彼氏のフリをしてあえて悪者になっていたことを!」
微妙に事実と異なる気がするが、どうやら影山くんは俺と彩葉の本当の関係を知ったようだ。
だが、影山くんは彩葉の計画的犯行にドン引きするどころか、俺の自己犠牲っぷりに感動したこと、自分が彩葉に強く愛されていることでレベルアップして進化したらしい。
よく分からないと思うが、そういうことなのだ。
そして、影山くんはどうやら俺に直接お礼を言いたくなったらしい。
ぶっちゃけると、俺はただ巻き込まれただけだし、悪役を演じたというより彩葉に勝手に悪役にさせられただけなのだが、訂正するのも面倒だし、そういうことにしておくことにした。
「天神くん、いや燦斗くん!僕は君は今日から親友だ」
「は、はあ」
「何かあったら遠慮なく言ってくれ!それじゃ僕は先に失礼するよ」
言いたいことだけ伝えると、満足したのか影山くんは屋上階段の踊り場をあとにした。
「彩葉、お前影山くんにどんな説明したんだ」
「いや、違うのよ。事実をそのまま打ち明けたら、なぜかああなってしまって……私も、困惑しているのよ」
「本当にヤバいのは、影山くんの方だったのか……!」
「こればっかりはアキに賛成……」
「……彩葉、話ってのは、これで終わりでいいか?」
「ああ、実は本題は今のではないの」
「「え?」」
思わず、真由希とハモってしまった。
では、一体なんの用なのだろうか。
「この間、話をした私の後輩だけれど」
「大橋……さんだっけ。その人が何か?」
「あなたに、頼み事をしたいみたいなの」
「えぇ……」
「どうする?あなたが嫌だと言うなら、私から話をしておくけれど」
「まあ、話を聞くだけなら……」
「彩葉ちゃん、それ私も同席していい?」
「……ええ、構わないと思うわ」
そして、放課後。
俺たちは、昇降口で彼女がやってくるのを待っていると、近くの教室から女子生徒がこちらに向かって走ってきた。
「遅れてすみませーん!愛衣、到着です!」
「……クラスの用事はもう済んだのかしら?」
「はい、彩葉先輩!」
「……彩葉、この子が?」
「ええ、この子が私の中学時代からの後輩の……」
「大橋 愛衣でーす!よろしくです!せーんぱい♡」
上目遣いでこちらを見てくる愛衣に、俺はジト目を送ることしか出来なかった。
そして、隣の真由希がものすごい顔をしていることに気づいていたが、怖すぎて何も言えなかった。
はい、というわけで、今回をもって薬院 彩葉編は一応完結ということになります。
どうでしょう、楽しんで頂けましたか?
個人的にはいろいろどうするか悩みながら書いていたので、なんとか彩葉編を終えられる所まで来てホッとしています。
まあ、楽しんで頂けていたなら幸いです。
さて、次回からは大橋 愛衣編です……が、一旦はここでお休みとさせてください。
ほかの作品の執筆が落ち着いたら、こちらの執筆を再開する予定です。
彩葉とは異なるジャンルでクセの強い彼女に振り回される燦斗と、グイグイが留まることを知らない幼なじみの真由希ちゃんのドタバタラブコメを楽しんでいただければなと思います。
それではまた。




