54.犠牲の意味は
ここより続序章、序章の続きとなります。
別章の続きでは無く序章終了時の未来から人為的に逸らされた生存ルートとなっております。
序章終話【53.門出】をお読み頂いてから読まれると時系列が繋がります。
追記.エピソードタイトル迷走中。
追々記.1話より再編集開始しました。
魂器組第4小隊での戦闘も段々と息が合ってきた。
そんなある日の真夜中にそれは起こった。
ひとつの予言が、その日が来てしまったのだ。
要らぬ騒動を回避するため一部の者にしか伝えられていない。
その予言は魔物による街への襲撃。
何故か街の中心部に敵は入って来れないらしいがその外側、街の大部分が敵に飲み込まれる可能性があるとのこと。
運良くここに来れた人でもその全員を安全域に退避させるのは不可能。
そしてわざわざ退避させる必要もないと判断された。
残酷な弱者の切り捨てである。
真夜中、待機と指示されていた私達にけたたましいサイレンと男性の声が響きわたる。
『緊急警報、緊急警報。多数の魔物が街に接近中、魔物による襲撃です。直ちに戦闘準備をして下さい。敵は南方向から現れます。繰り返し——』
準備されていたかの様に街が明るく、数日前に設置された魔力電灯が一斉に辺りを煌々と照らし始めた。
「お前ら、敵襲だ。全隊員小隊ごとに整列。用意ができたとこから南へ迎え!行動開始!」
近くで固まっていた私たちはすぐに南側へ向かった。
南からは警報でパニックを起こした人々が一心不乱で逃げてくる。
その波を割るように人の流れに逆らう。
上を見れば人が空を走っている。
いつの間にか人は空を自由に移動できるようになったらしい。
人々の慌てようとは裏腹に魔物はまだ街の外縁部に到達していなかった。
最前列に並び武器を構える。
お互いの間隔を適度に開く。
外側ほど灯りは少なくあまり視界が確保出来ない。
そんな中敵は物凄い速さでこちらに襲いかかってきた。
がたいの良い敵の、さらにひと回り大きな敵の持った剣から波状の斬撃が飛んでくる。
急速に拡張されるそれの速度は凄まじく、初見では当然凌ぐことなど出来る訳もなく。
——頭が飛ぶ。
多少臆病な方が生き延びる。
小隊長の言葉だっけ?
その場で倒れる。
やっぱり無理だったんだ。
未来を変えるなんて出来っこ無かったんだ。
ただ私は既に人間ではない。
下位魂器が器である半人なのだ。
魂の部分が斬られていないのだからまだ、まだ倒れっぱなしになる訳ではないのだ。
この時の為に交換したかなり新しい器のため、まだ魔力残量はかなりあるはずだ。
《変態》で切り飛ばされた頭の上側を生やす。
周囲を見れば隊員たちも倒れている。
頭から足先まで、あの一文字の斬撃範囲はかなり広いらしく、周囲が大変なことになっている。
多ければいいもんじゃないと敵に思っていたこともあったのだがどうやら私たちも所詮数だけ、では無いようだ。
数人、しか見えないが戦列から飛び出て魔物とやり合っている人がいる。
私の前方にいるのは——兄?
手にある武器は、薙刀?
普通の薙刀も良くは知らないが、兄の持つ薙刀は穂が大きく、更に石突にも錐のような鋭利なものが確認できる。
そのどちらもの長さ、大きさが変化し、敵を次々と倒している。
いつの間に習得したのか、動作も美しく敵を殺す事に無駄の無い動きだ。
しまった、見惚れている場合ではない。
少しでも被害を少なくする為にも戦闘用意せねば!
過酷な戦闘のせいか、兄の武器は砕ける。
それを補う為に誰かが敵との間に割って入る。
その隙に兄は後ろへ下がった。
兄や他の強い方が作ってくれた戦線を崩壊させないよう、全力で戦おう。
◆◇◆◇
【継承者】
そこら中に死が蔓延している。
もう呼んだ、もう少し、もう少しで彼らは来る。
被害は大きいがその時までは耐えられる。
落ち着け……彼も彼女も、もう大勢を犠牲にしてきたじゃないか、今更だ。
だが、もし今からでも助けることができるかつ大きなイレギュラーにならないのなら。
……限界まで頑張って貰おう、そうしたら——。
「——今、『強制召喚』」
……消えた。
やってしまった。
じゃあこの子こそ“死ぬべき人間”だったのか。
もう戻れない、ならば最大限活用するのみ。
「よく頑張った。少し休むといい」
◆◆◆◆
この敵達と対等に“戦える”はずなかった。
気持ちで状況が変わる優しい世界では無いのだ。
盾で上からの攻撃を受ければその衝撃で体の形が変わってしまう。
横から攻撃を受ければ吹き飛ばされる。
タメれる時間を与えてしまったら盾ごと体を両断される。
理不尽な強さだ。
そう言う私も敵からすれば面倒くさいかもしれない。
へこんでもそのまま殴りに来るし、切り飛ばされても体を見つけて《変態》で接合すればまた戻ってくるのだ。
それでも魔力は尽きるものだし、いつかは攻撃も魂の部分に——『強制召喚』。
どこからかその声が届くと周りから喧騒が消え、片手で顔を覆う継承者がそこに待っていた。
もう片手で私を制し一言。
「よく頑張った少し休むといい」
◇◇◇◇
朝日を迎える前に防衛戦は終わった。
視界に入っていなかっただけでは無かった様で集合が遅れていたパイオニアメンバーがこの場に集結したことが形勢逆転の起点になったとのことだ。
草木が茂りそれらは街の外縁、敵との衝突の最前線で斃れた魂器組の肉体を貫きそれを枯らし防壁となる。
空を覆う様な多くの円が敵の頭上に出現しそこから現れた無数の鴉が敵へ舞い降り奴らを燃やした。
たった数人が戦況を変え、残った魔物も人数有利を得た人々が少なからぬ犠牲を出しつつ殲滅し勝利を勝ち得たそうだ。
未来とは改変のその後、彼が訪れてからはずっと継承者により、より良い未来を目指し選び切り捨ててここまで続いている。
しかし未来の大部分を動かす決断と行動を起こしているのは物語に登場しない大勢の人々によってつくられているのも紛れもない事実なのである。
続序章、続く1章もエピソードタイトル番号を改修しました。
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