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地球魔力改変  作者: しじみ
2章:ネイダー・アンカー
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105.『勝利の掴み方』

 クラン【先駆者(パイオニア)】の記録では構成員は7名。

 その内の6名は有名であり、逸話が世間を賑やかすこともしばしばあった。

 最近ようやく“最後のひとり”の噂も増えてきた。小柄で、空を飛び、凄まじい量の魔力を保有する、と。

 しかし別の噂では不死身であるだとか、それほど戦闘力はないだとか、魔力量はむしろ少ない方であるとまで。


 噂は所詮興味の捌け口であり、事実でなくとも面白ければそれでいいもの。

 肉親を失った子供が冒険者業を行うことは何も珍しいことではないし、空を飛ぶのも望めば風属性でらしく叶うだろう。

 その子が【パイオニア】の制服を着ていた目撃証言も、『兄が妹に良い防具を与えたい』なんていう感情的な説明で通ってしまう。

 だけどその子の特殊性を見せつけられて、本当に“最後のひとり”である可能性が増していた。


 興味はあっても、自己紹介で明かさなかったのであれば追求しない方がいいのかもしれない。それに知ったところで俺にはなんの関係もない。

 そのはずだったのに


「申し遅れました。わたしはクラン【パイオニア】が末席、古枝絢。【開拓団】に興味はございませんか?」


 こんな風に自ら素性を明かすに限らず勧誘までしてくるなんて。


 俺の口からは驚愕が漏れ、同時に『諒教官に確認しないと』や『その子の上役は苦労しているだろうな』という変な思考に苛まれる。


「あー、スカウトは嬉しいけど絢……ちゃん?にその権限はあるのか知りたいわ」


「それはあります。『人集めに行き詰まってるから良さげな人見つけたら声かけてみて』って前に言われました」


 なら一応クランメンバーかつ権限ありという体で話を進めるか。


「とりあえずそこは分かりました。それではどうして俺をスカウトしようと思ったんですか?」


 それに絢は手で顎を触れて「そうですね……」と考えるてから、捲し立てるように話し出す。


「接近戦は一定の水準に達していますし、意外と視野も広いように感じました。

 魔法具を生む魔法も魅力的ですが、それよりもその安定条件?が気に入りました。

 あとは先ほどの弓矢の魔法です。光や音は気になりますが、威力と速度に戦況を変える可能性を感じました。

 矢の消失はあれほどに魔力が込められたものが何も起こさずに消える理由がないので、的に仕掛けがあるとみました」


 「そんなところでどうでしょうか?」と続ける絢に志道も返す。


「まず多大な評価を嬉しく思うんですけど、流石にもう少しちゃんと見極めをした方がいいと思いますね。

 ゆうて俺たちが行ったのは下級中位のダンジョンですし、エンチャントの魔法もまだ見せてない部分ありますし、弓の魔法に至っては連射性能とか何も見てないじゃないですか」


「ぁ……申し訳ないです。……じゃなくてご指摘感謝いたします」


 言い方が悪かったのか、すぼむように下を向く絢。


 そんな元気なくすなよ。俺だってこんな失礼なこと言いたくねぇよ。

 けど指摘しないとこれからが大変だろうし……俺はどんな態度で話せばいいんだよマジで。


「まあそんなところで。まずは諒教官に話を通しましょう。そうじゃないと」

「——ダメです! わたしが自分で判断します!

 わたしだってそのぐらい出来ます。なので——模擬戦をしましょう、全力で」


 俺の言葉は遮られ、目の前にはやる気になっているメイド少女。


「とりあえず校長先生から許可取ってきますね!」

「えちょ……」


 止めたくて無意識に伸ばされた手を見ることなく、少女はパタパタと駆けて行ってしまった。


 ……どないしろっちゅうねん。


「止めなくていいんですか?」


「本人がやる気だし。いやまぁ……」


 この数日間、忙しなく挑戦を続ける少女の姿を思い出す。


「あれを突き放すのはかわいそうだろ」


「焦ってましたもんね」


「何にかは分からないがな」


「自分が役に立ててないと思って、だと思います」


 妙に実感の籠った声だと思った。だから、


「華凛」


「……なんですか?」


「焦るなよ。待っててやるから」


 隣に立ち、俺へと真っ直ぐに好意を寄せ続けてくれる彼女の頭に手を乗せる。

 すると華凛は嬉しそうに微笑を浮かべ、頭を俺に預けた。


「志道くんこそ、頑張りすぎちゃ駄目ですからね?」


「そこは気を付けとく。……今日は予定を崩そうか。絢が来るまでこのまま休もう」


 少しだけ強く抱きしめてから手を離し、その場に座る。


 閑散とした弓道場で男女が二人。肩を寄せ合う姿は残りの時間を惜しむようだった。



「こんばんは! 校長先生はいらっしゃいますか?」


 校長室の扉を開ければ、すぐそこに目的の人が見えた。


「はいはい、絢さんですね。いかがしましたか?」


「今からルーム内の模擬戦場借りてもいいですか?」


 絢の問いかけに校長は書類をめくって返事する。


「今日中であればいつでも問題ありませんね。絢さんであれば今からの予約も受けますが、どうしたいですか?」


「それであれば今から1時間ほどいいですか?」


「ええ、構いません。貸切のプレートは職員室にあります」


 校長は一筆入れるとそれをこちらに寄せる。


「そちらをどうぞ。終われば職員室にいらっしゃる先生のどなたかにお渡しください」


「ありがとうございます!」


 渡された紙に目をやると、もう一枚の紙が重なるように付いていた。


「魔法具の……貸し出し? これくっついてたんですけど……」


「不足の事態への保険です。必要ないかもしれませんが一応持って行って下さい。

 面白そうな生徒さんを見つけてたのでしょう?」


 その言葉に絢は目を輝かせる。


「そうなんです! 良さそうな人なので勧誘がてら試してみようと思いまして」


 紙を受け取りながら絢が事情を話すと、校長の片眉がピクリと動く。


「どの生徒さんに興味を持たれたのですか?」


「志道さんです!」


 能天気な絢の声に、校長は心配そうに口を開く。


「彼は強いですから『試す』という心持ちで相対さない方がいいと思いますよ。

 勝ちを確信した相手ほど弱いことはありませんからね」


「確かに油断してましたね。まぁ私も戦闘準備はしていくつもりでしたから、そんなに変な結果にはならないと思いますよ?」


 種族がらか、力のせいか。相手は外を知らない生徒であると無意識に『油断』する絢に対して、校長は肯定するように瞼を閉じる。


「それでは失礼します!」


 そうして早足で部屋を出た絢に扉を閉められた部屋主は、憐憫に満ちた瞳を植え込みに向ける。


「途絶えても、この場の役目は続きそうですね」



 ラブラブ現場を興味深そうに観察する絢に気が付いた志道は、恥ずかしげもなさそうに絢と会話し模擬戦場に足を運んだ。


 十分に柔軟を行いながら相手を観察する。

 呼吸は無し。血の気も薄く、通っているのか判別が付かない。

 今から対決するのは人ならざる者。怪物とは言わないまでも、その領域に立っていることは間違いなかった。


 そんな相手は『武器は真剣で斬っても全く問題なく、殺すつもりで向かってこい』という趣旨の言葉を放った。

 しかし志道は揺れるまでもなく『そんなことはできない』と、初めからこの戦いをほどほどで終わらせることを目標にしていた。


 開始線に立った志道が手にしているのは僅かに色が変わってきた2代目の双剣。

 進化者の膂力に合わせて作られた少し長めの剣は持ち主の思考とは裏腹に赤みを増して待機する。


 許可された事前詠唱を終えた志道と姿に似合わない鈍色の短剣を手にした絢は、開始の合図に耳を澄ます。

 そして、


「始め」

「——《纏炎鍛身》!」


 華凛が最後の音を声にしたと同時に志道は魔法を呼び起こし、軽く前にステップする。

 『見栄えが悪いから』と、これまで絢には見せてこなかった煮え立つように赤らむ両腕に、燃え上がる炎が込められた刃。

 同時に走り出していた絢は未知への遭遇に一瞬起き上がった上体を深く落とす。


 衝突まであと数歩。その場面で志道は腰を大きく捻って足を踏み下す。

 絢から見て、武器は2本とも右側。

 この場合に考えられる手は剣の2連撃。あるいは前足を軸にした後ろ蹴りからの2連撃。

 大きな武器ほどその運動を止めるのは難しく、そうした場合は立て直しにほんの少しの“間”が生じる。

 その“間”で武器のリーチ差を埋めなければならない。


 戦闘において、基本的に最初の立ち合いで不利なのは武器が短い側。

 それを熟知している絢は人体性能を無視するような停止からの再加速で接近を狙ったが、志道は絢の停止に釣られずに順の2連撃を、返す刀での2連撃で体勢を万全に戻してから大きく前に踏み込む。


 流石と言うべきか自分の戦い方が確立されており明確な粗が見つけられなかった絢は一度志道の赤剣を受けてみようと次の攻撃を防ぐ。

 しかし剣の重量に回転運動が加わった一撃は重く、絢は一度大きく後ろに浮かんで逃げるしかない。


 初撃を受けきることは現実的ではない。そう判断した絢は連撃の2本目を目標に懐に入ろうと目指すが、通り過ぎた1本目の剣が急停止して突き刺すように接近する。


「あっぶな!」


 声を漏らしつつ2度目の浮遊回避をした絢は志道へ追求する。


「今の攻撃、速度緩めましたね!? ダメですよ、本気でやってください!」


 絢の文句に志道も言葉を返す。


「そんなんできる訳ないだろが! 俺たちは今の今まで被弾は致命傷だと思ってやってきたんだよ!」


「なら……」


 絢は順手に構えていた短剣を真っ直ぐ自分の心臓部へと突き立てる。

 華凛の短い悲鳴のような声を聞き流し、そのまま横っ腹まで切り裂いて息をつく間もなく首を捌いた。


「ほら。死なないんですよ、わたし」


 目の前で見せられては、また別の感情に襲われるのだろう。

 瞼を大きく開いた志道へと、絢は肉体を直しながら呼びかける。


「だから、本気でいいですよ?

 もちろんルール通り、人体の致命傷級の傷を受けた場合はわたしの負けですから。遠慮なくどうぞ」


 薄く笑う絢へ向かって、志道は睨みを効かせながら吐き捨てるように吠える。


「お前の独自性はその異常な体と復元力ってことか。

 分かったよ。俺も胸を借りるつもりで行きますわ」


 非常勤ではあるものの学校の最高戦力である教官の諒は、絢と洵の兄であると同時に【パイオニア】の一員だ。

 その諒に魔法アリの全力勝負であっても幾度の敗北を重ねてきた志道は、ここで相手のラベルを張り替えた。


 志道は左に保持していた剣を地面に突き立てる。


「片方でいいんですか?」


「欲しけりゃ直ぐに持ち直せますし、問題ないでしょう」


「では行きます」


 絢は再び、今度は浮いた状態で距離を詰めに行く。

 まだ遠い距離で志道は剣を左右に振り、小さく呟く。


「火炎よ」

「——えっ?」


 この一歩分は大丈夫なはずだった。

 揺さぶって勝ち目を作ろうと思っていた。

 残っているのは弓矢の魔法だけだと思っていた。


 なのに——剣から延伸してきた炎が、なぜかわたしを突き刺している。

 武器のリーチが突然変わるのは分かる。それは(にいに)もよくやっている。

 たとえ刀身が1.5倍になってもまだ触れないはず。ならどうして……。


 スッと剣が抜かれ、絢はその場に落ちる。

 そうして見えた、足の位置。


「重心を、落としたから……!」


 感心からの放心状態の絢へと志道は近づいて言う。


「そう。視点を変えるなら見えづらくなるものまで思考に入れといた方がいい。と思いますね」


 『ふわっ』と最後に一瞬光を増して、剣から炎が消える。

 同時に志道の腕からも火傷のような真っ赤な肌が露出した。


「熱量とおおよその持続時間を最初に決めるんですよ。あとはその火をどう使うかなんですけどね」


 そう言いながら、志道は絢の上体を優しく支える。


「……良い魔法ですね。魔法もきっと使い手が貴方で嬉しいと思います」


「そうですかね。とりあえず傷は治せますか?

 服に穴が開くのもよくないですけど、胸に穴が開いてるのはもっとヤバイですから」


 促され、絢は両方を数秒で元に戻す。


「はや……」


「まぁ寄せてないですから」


 『スクっ』と立ち上がった絢は「それよりも」と続け、


「次はお互いに殺す気で戦いませんか? こちらにある時間の魔法具——“悦楽の揺籃”を用いて」


 一度だけ、死合いましょう?」


 そう、愉しそうに志道へと誘いかけた。

 そりゃあ結衣/真尋抜きで学内1位ですわなという強さでございます。

 別枠扱いされてる二人と普通に実力勝負しても良い戦いになりそうです。

 火力の志道。妨害の直弥。堅実の悠人。機動の透。 榊原隊強いですわ……直弥も悠人も魔法出せてないですね。


 『力には責任が伴う。その責任とは他者に強要されるものではなく、強さと同等の優しさを自らに宿すことである』——志道はそんな考えを持ってそうです。


 道具の名称はどのように定まったのか? 謎プラス1です。



◇予告

 『相手を傷つけてはいけない』。そんな制約の上にある戦いに敗れた絢は、綺麗に負けた爽快感の裏に【パイオニア】の看板を傷つけた負い目を感じていた。

 次回——不死者。

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― 新着の感想 ―
校長も心配は納得の実力ですねー絢の不死身性知らなければそりゃ心配でしかない。空飛ぶのがメインかなって思われてそうですし 集団戦が多かった絢には個人戦のような1vs1の技術はいろいろと足りなさそうです…
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