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嵐の時代

 船に乗る友人達を風花は見送りに行った。同じように仲間達やご近所さん達も固まって盛大に見送ることになった。

 餞別の包みをまとめて渡すと柳は目を潤ませている。元はその傍らに寄り添っている。元の家族は涙をこぼしつつ柳の手を取ってこれから頼むと深々と頭を下げていた。

 李恩も家族と別れを惜しんでいた。

 風花がそっと盃に一杯ずつ酒を注ぐ、それを飲み干しまた涙をこぼす。

 寂しくもにぎやかなほんのひと時だけの別れの宴、それは怒号で遮られた。

 金切声に押されて思わず振り返る。

 なにやら捕り物らしい、なんだか見覚えのあるような顔も見えたが、取り押さえられ、縛り上げられて連行されていく。

「もしかして抜け荷かなんかかねえ」

 元がそう呟いた。

「いろいろあるから」

「あれ、佶家の息子じゃないの」

 柳が呟く。

「ま、なんかしらやらかしたんだろう」

 満場一致でそう決めつけ、再び気を取り直して見送りの挨拶を続けた。

 風花が、その顛末を知ったのは見送りの終わった翌日。佶家は異国に逃げている間に伝手を作り、国内の犯罪者を外国に逃がす副業を始めていたらしい。

 王宮に忍び込んだ反乱軍の残党から足がついたらしい。捕らえられた反乱軍は檻に閉じ込められ、かつて焼き払った農村に送られ、そのまま餓死するまで放置されたという。


 そしてそれからさらに時は流れる。

 今までの嵐の時代からは想像もできなかった平穏な時間が。

 風花は孫に昔のことを語る。あの時代のことは、孫たちにはまるで御伽噺のように非現実的に聞こえるようだ。

 しかし、確かにあのとんでもない時代はあった。

 そして、あのとんでもない時代から今の平穏な時代へとつなげる一助となった旧友、自分とその仲間達もささやかながら貢献していると思う。

 かつての仲間たちの消息は一番わかるのが、ずっと会っていない、いや会えなくなった彼女だった。

 数年前彼女の息子が帝位につき、この国の最高位に昇り詰めている。

 消息を国が広報してくれるのでいやでもわかるのだ。

 それ以外は遠方に住んでいた者達空は数年おきに手紙が届いた。遠方だと手紙を出すのも結構な金がかかる。

 柳と元達はまあ、幸せにやっていたようだ。最後の手紙が届いて、それからまた数年。もう届かないかもしれないが。

 かつてこの街で起きたことを風花は語る。風花と同じことをしている仲間はそれなりの数いる。

「孫の一番好きなお話は皇太后様のお話だね」

 王宮のあるあたりをそっと仰ぎ見る。

 そこにいることはわかっているけれど、決して会うことのできない旧友。せめて彼女の物語を語り継ごう。彼女の思い出だけでもこの街にいられるように。


 かつて、この国を襲った動乱は様々な物語を産んだ。

 それは例えるならば嵐の時代であった。

 その嵐を沈めた賢帝龍炎の物語は定番である。

 そして様々な美女の物語も語り継がれた。

 その中でも特に人気の高い物語は藩香樹の悲恋物語、反乱軍に婚約者を殺されて仇を討つために単身反乱軍に切り込み、斬り死にしたという悲劇の美女。

 もう一つは民衆を率いて反乱軍と戦った女侠客崔月姫の冒険譚である。

 か弱い女の細腕で反乱軍の頭目を惨殺した壮絶な物語。

 この二つは書物から演劇や人形劇などで人気を博した。

 かつて乱の犠牲者を葬ったとされる場所が掘り返されたことがあった。

 わずかばかりの骨片と犠牲者の名を刻んだ小石が見受けられたという。

 その中に藩香樹のものもあり、物語は間違いなく現実といわれたが、もともとこの悲恋物語は貴族の所有する文献から発見されたものであり、架空説もまた多い。

 崔月姫の物語も後半はまた混沌としており、戦いが終わった後重傷を負った彼女はそのまま息絶えたという妥当なものから、その美貌をもって、皇后まで上り詰めたという荒唐無稽なものまである。

 確かに皇帝龍炎は二人の皇后を持ち、その一人の名は崔皇后であるが。この二人が同一人物とは考えにくい。おそらくこの偶然からつなぎ合わされたものだろう。



長らくお読みくださりありがとうございます。

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