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 雨の天候魔法によって生成された雨が畑を濡らしていく。

 アメヤサイの特性は、雨に種子が流されないよう地面に根が張るまで一定の大きさに急成長すること。

 多くの魔力を含んだ雨水を吸収したことで、アメトマト、アメキュウリ、アメスイカの種子からあっという間に芽が出てきた。

「不思議な植物もあったものだな」

 俺とリオン、ノアはアメキャベツで見慣れているが、初めてそれを見るミリアにとっては珍しいものなのか、驚きの声を漏らしていた。

 瞬く間に苗ほどの大きさにまで成長した三種類のアメヤサイ。

 アメトマトは紅葉に似た形の葉を、アメキュウリは大きく柔らかい葉を、そしてアメスイカは他のものとは少し違い、茎が太く、ややしわの寄った葉をつける。

 それぞれの成長を確認した俺は、一旦雨を弱めてからノアとリオンへと向き直る。

「さて、ノアは分かっているかもしれないけれど、一応説明するぞ」

 これからするのは、三つのアメヤサイを育てる上で必要な作業だ。

 まずは簡単なアメトマトから先にやるか。

 俺は以前作っておいた木の棒を小屋の方から運び、畑の傍らに置く。

「まずは、アメトマトの苗を支える棒を地面に刺す」

「どうして?」

 そう質問してきたリオンに答える。

「トマトに実がついたとき、その重さで茎が倒れないようにするためだ。あとは、アメキャベツと違って雨の力をもろに受けてしまうから、それで倒れてしまわないように支える役割を担っているんだ」

 アメトマトがどれほどの大きさの実をつけるのか分からないけれど、恐らく内包された栄養と水分からすれば相当な旨味が凝縮されているはずだ。

 つまり、それだけ実が重い可能性がある。

「ただ地面に刺して終わりってわけじゃないわよ。ちゃんと紐とかで茎を結んであげなくちゃ意味がないし」

「まあ、紐で結ぶのはもう少し大きくなってからでもいいだろう。とりあえず、今は棒だけ刺しておいて、頃合いを見て茎を縛って倒れないようにしよう」

 五本ほど棒をまとめて抱えた俺は、苗ほどの大きさにまで成長したアメトマトのすぐ隣に干渉しない程度に棒をしっかりと差していく。

 なんというか、トマトを育てるって小学校の時を思い出すな。

 どんなトマトができるか子供ながらに楽しみにしていたけれど、結局は水のやりすぎ……というより雨に晒しすぎたせいで枯らしてしまったっけ。

 でも、今の俺は子供の時のようなワクワクとした感覚を思い出していた。

 少し上機嫌になった俺に、ノアが話しかけてくる。

「ハルマ、トマト自体は育てるのは簡単だけど、油断だけはしないでね」

「ああ、分かってる」

 トマトは育てやすい野菜ではあるけど、放っておくとあっという間に駄目になってしまう野菜だ。

 小学校時代のエピソードで、友達が自分で育てたトマトを喜びながら収穫した話がある。

 大喜びで収穫したはいいものの、実は中身を虫に食べられていたっていう話は割とトラウマになりかねなかった。

 というより、手に取ってそれを近距離で目撃してしまった友達はトマトが食べられなくなってしまっていた。

「うん、俺も気を付けて育てよう」

 特に虫対策は厳重にしておかねば。

 そんなことを考えながら、棒を地面に刺していく作業を終える。

「よし、とりあえずはこれでよし。次はアメキュウリの方へいこうか」

「そっちも支柱を立てていくの?」

「ああ。だけど、こっちは少し大きいのを使うんだ」

 今度は森の中で苦労して集めた大きめの枝と、ケヴィンさんが王国から持ってきてくれた網を持ってくる。

 これは一人でできるわけじゃないので手伝ってもらおうとすると、お願いする前にノアが二つの大きめの枝を持ってくれる。

「私もキュウリの支柱は知識だけ知っているから、手伝うわ」

「ありがとう。リオンもノアと同じように二本もってくれるかな」

「うん」

「じゃあ、まずはこの二つの長い棒を地面に斜めに刺して、上の部分で交差させるようにしてくれ」

 リオンに手本を見せるように、アメキュウリの苗がある列の端に二つの棒を差す。

 二人は俺の説明通りに同じようにしてくれたので、俺はポケットからあらかじめ用意しておいた紐を取り出し、斜めに地面に刺された二つの棒の交差した部分を固く結んで倒れないようにする。

「二人ともそのまま持っていてくれ」

 続けてノアとリオンのものも紐で結ぶことで、アメキュウリの苗がある列を覆うようなアーチができあがる。

 その紐で結んだ部分に長めの棒を一本乗せ、再び紐で固定する。

「本当は竹とかの方がいいんだけど、とりあえずは木で代用ってことで」

「これでこの部分は終わり?」

「いいえ、まだやることがあるわ。そうよね、ハルマ」

「あ、ああ」

 この村でキュウリは育てていないはずなんだが、どうしてそこまで詳しいのだろうか。

 あれだろうか? 普通に本とか勉強しているのだろうか。

 いやいや、今は支柱づくりに集中しよう。

 俺は傍らに置いてある網を手に持って、リオンとノアへと向き直る。

「あとはこの網を、今作った支柱に取り付けて完成だ」

「なんで網を取り付けるの? 虫を絡ませてアメキュウリを守るの?」

「いや、違う。キュウリは蔦を伸ばす植物なんだよ。伸ばした蔓からキュウリが実るから、この網に蔦を絡ませて、広く、そして大きく栽培しようとしているんだ」

 他にはゴーヤとかもそうだったか?

 感心したのか、アメキュウリを見て感嘆の声を漏らすリオン。

「さあ、これと同じのをアメキュウリの苗があるところに作っていくぞ」

「うん」

「やりましょう」

 二人が頷いてくれたのを確認してから、俺は次の長めの棒とネットを取りにいった。

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