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調査団が王国へ帰った二日後、俺達はようやく新しいアメヤサイを栽培する準備を整えることができた。
今日はリオンとノアも手伝いに来てくれており、護衛のミリアもアメヤサイの種を植える場に立ち会うことになった。
数日放置してしまった新しい畑にスコップをいれた俺は、額に滲んだ汗を拭いながら最初の下準備である畑を雨で濡らす作業を行う。
畑に十分な雨が降り注ぐまでの間、説明をしておこう。
「さてと、それじゃあ今から植えるアメヤサイについて教えるぞ」
こくりと頷いたノアとリオンだが、どこか複雑そうに畑を見ているミリア。
まだ彼女と打ち解けられていない現状に歯がゆさを抱きながらも、俺は近くの椅子に乗せておいた本『アメヤサイの極意』を手に取る。
「一度目はアメキャベツだったけれど、次に栽培するアメヤサイはアメトマトとアメキュウリ、そしてアメスイカの三つだ」
「そんなにいくつも育てるの?」
「育てる種類は多いけれど、畑の広さは前と変わらないから大丈夫」
なにせ栽培する場所を分けて植えるわけだから、そこまで作業が多くなることはない。
……気にかけることは多くなりそうだけどね。
続いてリオンが首を傾げながら質問してくる。
「あれ? でもスイカって果物じゃないの?」
「あぁ、それは……」
「果物は木に成るものだから、そうじゃないスイカは果物ではなく野菜って話らしいわね」
リオンに解説しようとするが、その前にノアにされてしまった。
「でも、果物でもあるっていう人もいるし、そのへんはは結構あやふやよ」
「あ、そうなんだ。ハルマも知ってた?」
「あ、ああ、勿論さ」
どうしよう、完全にスイカ=野菜って決めつけてたなんて言えねぇ。
内心の動揺を顔に出さないようにしつつ、『アメヤサイの極意』から小さな包みを三つ取り出す。
つぶつぶとした白い種がアメトマト。
楕円形の白い種がアメキュウリ。
そして、日本人の誰もが見慣れている黒色の種が、アメスイカだ。
それらをノアとリオンに見せながら、手に持ったスコップでどこにどれを育てるかを線引きする。
「今回も五列の畑を作ったけれど、アメキャベツの時とは違って、今回は育てる作物によって三つの区画に分けることにした」
まず、畑の三分の一の部分に線をいれる。
列を分断するような形になってしまうが、スイカを栽培するにはこれぐらいの広さが必要だ。
「スイカはこれぐらいだな」
「こんなに広く作るの?」
「スイカは横に蔓を伸ばしていく野菜だから、結構な広さが必要なんだ。そして、こっちの残った部分にアメトマトとアメキュウリを植えていく」
だいたい、アメトマトが三列分でアメキュウリが二列分くらいかな。
そう思いながら線引きをしていると、ノアが声をかけてくる。
「ハルマ、キュウリなんだけど……その、大丈夫なの?」
「ん? なにが?」
「キュウリって繊細な野菜らしいから、ちょっと気になっちゃってね」
「あぁ……」
本当に詳しいな、この子は。
キュウリはデリケートな野菜だと、小さい頃に両親が話していたことがあった。
うどん粉のようなカビが葉っぱに出てしまう『うどんこ病』というものにかかったり、虫に菌をうつされたりして、簡単に病気になっちゃったりするらしい。
「その点は多分心配ないと思う。それを考えて、アメキュウリを育てる規模を狭くしたからな」
「そう、貴方自身が分かってるなら大丈夫そうね」
「俺としては、君の知識の多さに驚くしかないのだけど」
「私を誰だと思っているの? 大抵の野菜のことは知っているつもりよ」
貴女、農家じゃなくて貴族ですよね……?
胸を張っている彼女に苦笑しつつ、種をまく準備に取り掛かる。
スコップの先の部分で、アメトマトを植える場所に点々と印をつけていく。
「それじゃあリオンとノアにはアメトマトの種をお願いしようかな。植える深さはアメキャベツの時と同じだけど、気持ち長めに感覚を開けていかなくちゃならない。だから、印がつけられたところに種を埋めてくれ」
「「はーい」」
元気に返事をしてくれる二人に、アメトマトの種が入った包みを渡す。
「ノア、リオンもまだ不慣れだと思うから、君がみてやってくれ」
「ええ、分かったわ」
「ありがとう。俺の方はアメキュウリの種を植えてくる」
アメトマトをノアとリオンに任せ、俺はアメキュウリの種を埋める作業に移る。
すると、俺達のやり取りを畑の外で見ていたミリアと視線が合う。
「ミリア、君も植えてみる?」
「……私は護衛だ。だから、その……遠慮しておく」
言いづらそうに俺から視線を背けるミリア。
もしかして、アメヤサイに対しての苦手意識があるのかもしれないな。
彼女自身が王国から左遷させられたと思い込んでしまった原因は、外ならぬ俺自身とアメヤサイにあるからだ。
「そっか。それじゃ――」
彼女の言葉に頷いてから、森に潜んでいるサニーラビットのことを思い出す。
あのウサギ共が、新しい獲物であるアメヤサイを育て始める日に来ていないはずがない。
正直、訓練をつけたウサギ共と相対するにはフウロだけでは足りない。
「ミリア、君はフウロと一緒に森の方を見ていてくれないか?」
「……それは私に護衛に徹しろ、と言っているのか?」
「え? いやいや! そんな意地の悪い意味で言ったんじゃないって!」
どんだけ性格が悪いと思われてんだ、俺は。
いや、今の言葉はよく考えればそう捉えられてもおかしくはなかったけれども。
必死に否定してから、サニーラビットのことを話す。
「アメヤサイを栽培している時に、それを狙ってくる魔物がいるんだよ。君にはそれを追い払うか、できれば捕まえてほしいんだ」
「ほう、どんな魔物なんだ?」
ミリアは興味を持ったのか、少しだけ頭の耳が動いた。
どんな反応が返ってくるか気になりながらも、彼女の質問に答える。
「サニーラビットだよ」
「……は? サニーラビットぉ?」
肩透かしを食らったように表情を歪めた彼女は、額を手で押さえる。
「サニーラビットなんて、そこらにいるウサギとあまり変わらないだろう。そこまで警戒に値する魔物とは思えないのだが」
「「甘いわ!!」」
「わぁん!!」
「ひぇっ!?」
俺、後ろでアメトマトの種を埋めていたノア、そしてフウロの声が重なった。
突然の叱責に、特に身構えていなかったミリアは驚愕の表情を浮かべた。
「ミリア、あいつらはサニーラビットでありサニーラビットじゃない。あれは……悪魔だ」
「いやいや! 真面目に訳が分からないんだが!?」
「一度相対してみれば分かるわ。あいつらは、私達農家の天敵よ」
「貴女は貴族なのでは!?」
「わぁん!」
「怒っているのは分かるけど、なにが言いたいのかさっぱり分からない!」
むむ、実際に相対してみないと分からないか。
俺もそうだったけれど、ミリアもあいつらの可愛らしい見た目に騙されて屈辱を味わわされないか心配だ。
怒涛のツッコミをしたミリアは、やや疲れたような表情を浮かべる。
「わ、分かった。私はこの子と一緒に森の方を見張るから……」
「私達の背中、預けるわよ」
「頼む、君が最後の砦だ」
ミリアにフウロを預け、背中を向けた俺とノアは畑へと向かう。
王国でも有数の騎士団に所属していた彼女ならば、あのウサギ共とも渡りあえるはずだ。
「どうして戦でもないのに、こんなに気合が入っているのだろうか……」
「わんっ!」
「やる気になっているのはいいが、相手はウサギだぞ……?」
呆然とそう呟いた彼女の声が後ろから聞こえたが、あえて俺はそれに反応せずにアメキュウリの種を埋める作業へと取り掛かるのだった。




