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人質

 それからテロリストグループは、二階の大部屋に集まり、私も両手を縛られ、そこに軟禁された。

 携帯電話を奪われ、助けを呼ぶ事も出来ない。

 男たちの会話や、ニュースの記憶から状況を、まとめてみると――

 F県でテログループの強制捜査があり、それから逃げ出した残党が、人目を避けるようにして山間部へ向かい、こちらまで来ていたらしい。

 それは、なかなかの強行軍だったみたい。

 全員が無精ひげなところからも、ロクに休息がとれなかったらしい事が明らか。

 夜通し車を飛ばし、足がつかないようそれを途中で山中に乗り捨て、歩いて来たようだ。

 そして、人目につきそうなキャンプ地のコテージ群ではなく、少し外れた位置にあるログハウスを見つけてしまった。

 無人と勘違いし、休息を取るべく侵入して来たのだ。

 ……まさか、あのストーカー野郎の妄想がここまで現実化するとは――

 男たちは相当お(なか)が減っていたらしく、一階を調べに行った長身の男を残し、昼食の残りのカレーにがっついていた。

 リーダー格の男――バンダナを巻いた筋肉質の男――だけは、私にライフルを向けて警戒を解かないまま、カレーを片手で食べていた。

「……ねぇ、私をどうするつもり?」

「……考え中だ」

 やつらも、正直私の処遇に困っているらしい。

 やはり休息や食事のために使われていない山小屋を使いたかっただけのようだ。

「……あのさ、見なかった事にするから見逃してって言ったら……見逃してくれる?」

「駄目だ。信用できない」

 取りつく島もない。

「……目的を聞いても?」

「……ふん、肝の据わったガキだな」

 そうかしら……? もしかして万が一にだけど、あの二人に毒されているのかな……?

「……俺たちはこの国を変える。格差が広がり続け、貧富の差は増すばかり。政権を変えなければならない。そのためにはテロを起こし、政権への不信感を国民に植え付けるのが一番効率的だ。そもそも――」

 バンダナは、急に熱っぽく語りだした。

 何というか、男ってそういう所あるよね……。なんでこう、政治とか趣味とか語りだしたら止まらないんだろ。

 正直、こいつの思想とかどうでもいい。

 別に今の生活に不満もないし。

 そんな事より、どうやってこの状況を打破できるかが問題だ。

 外部に連絡はとれそうにないし……いや、でもそのうちコングたちも戻ってくるよね。

 だとして、その時籠城されていたら、あの二人だって解決できるか……。

「――愚昧なる政権運営に任せていては、既得権益を……おい、聞いているのか」

「え? ああ、うんうん。聞いてるわよ」

「……本当に心臓に毛が生えているようだな。まぁ泣きわめかれても面倒だが」

 男は、私に興味を無くしたらしい。

 それからはロクに返事もくれなくなった。

「アルファー、これからどうする?」

 カレーを平らげたスキンヘッドが、バンダナに言った。

 なるほど、バンダナはアルファーと呼ばれているらしい。もちろん偽名というか、コードネームだと思う。

「取る方法としては二つだな。プランA、サツに勘付かれないうちに県西部の海へ移動し、本州に渡る。プランB、このままここに籠城(ろうじょう)して、ガキを人質に、F県で捕まった同志の釈放を要求する」

「……なるほどな」

 と、そこに一階から長身の男が戻ってきた。

「チャーリー、どうだった?」

「一階を調べたが、泊りがけ用の荷物が大量にあったぞ。そのガキ一人分とは考えにくい」

「何だと……?」

 バンダナ――アルファーの目つきが途端に険しくなる。

「他に誰かいるんだな。なぜ言わなかった」

 銃口を私の心臓に向けて凄んでくる。

「と、特に聞かれなかったし……」

「じゃあ今聞いてやる。何人で来た」

「……四人よ」

 下手に刺激しないようにここはもう本当の事を言うしかな――

「嘘だ! アルファー! こいつ、嘘ついてるぜ! じゃがいもだのニンジンだの、修学旅行一クラス分はあった! そんな少人数のはずがねえ!」

 あちゃー……。

 確かにあの段ボールの山が四人用だなんて誰が信じるだろう。

「……だそうだが?」

「……長く泊まるつもりだったし、あと、周りのグループにも配ろうと思ってたのよ。嘘だと思うなら、カバンとか調べてごらんなさい。そんな大人数分なんかないから」

「調べてこい」

「あ、ああ……」

 チャーリーとやらは再び下に降りて行った。

「……他の奴らが三人だとしてだ。いつ戻ってくる?」

「わかんない」

「オマエなめてるカ!」

 太っちょが怒鳴ってきた。そのイントネーションから、おそらく日本人でないだろう事が容易に想像できる。

 少し、モノマネ芸人のやる香港映画のモブに似ていて笑いそうになった。笑ったりしたら殺されそうだから必死でこらえる。

「落ち着けブラボー。……嘘は言わん方が身のためだと思うが?」

「し、仕方ないでしょ。買い出しに市内に行ってるのよ。いつ戻ってくるかとか、よくわからないわ。そろそろ戻ってくるとは思うけど……」

 でまかせだけど、そう言うしかない。

 まさか警察に行ったなんて言ったら、それこそ殺され――

「おい、アルファー、これ見ろよ」

 スキンヘッドが、奪っていた私のスマホをアルファーに向けた。

 何を見たか知らないけど、アルファーの目が驚愕に見開かれる。

「……おい、どういう事だ」

 その声には、はっきりとした怒りの色があった。

「な、何よ」

「嘘は言わん方が身のためだと言ったはずだが」

 そう言って、スマホの画面をこちらに向けた。

 そこには、無料トークアプリのメッセージ通知が表示されていた。

『奈菜:警察へ行ってきたよ。もうすぐだから待ってて』

「おぅふ……」

 最悪のパターンだ。

「……警察というのはどういう事だ。いつ連絡した。……午前中にこの辺りを調べた際に、姿を見たのか」

「え? え?」

 あ、そういえば、コングが林で何かを見たって……。

「車が出て行ったからとここを選んだのは、逆に失敗だったか……くそっ、やってくれたな」

 何もやってないってば!

 でも、コイツら……、林の中からこの辺りで潜伏できそうな所を探してたのか。

 それで、車が出て行ったから帰ったと勘違いしたって事……?

 ……厄日としか言いようがないわね……。

「ど、どうするアルファー」

「落ち着けデルタ。……今からプランAの本州へ逃亡は、おそらくもう無理だろう。プランBの籠城しかない。……幸い、人質もいて、食料も潤沢なようだしな」

 あ。

 あの大量の野菜……。特にじゃがいもは主食になるし、長期戦に向いている。

 最悪の最悪だ。どんどん状況が悪くなる……。

「……何にせよ、ふざけたマネをしたんだ。それだけの覚悟はできているよな」

「拷問ヨ! 拷問にかけるヨ!」

 太っちょ――ブラボーが喚きたてる。

「じょ、冗談でしょ?」

「冗談でテロをやる人間がいると思うか? 拷問も悪くないが、それより死んでもらうというのも一つの手だ。死人が出れば、より政権批判は大きくなる。そんな事をすればテロリストの思うつぼだというのに、大衆とは愚かなものだからな」

「ちょっ、ちょっと待って」

 洒落になってない。

 流石にまだ死にたくない。

「まぁ安心しろ。まだ利用価値がある。警察が来るというなら人質は要る。……だが、余計な事は考えるなよ。俺たちは死ぬ覚悟をしている。計画が上手くいかないなら、お前を巻き込んで自爆したって構わないんだからな」

 言ってアルファーがジャンバーのジッパーを下すと、そこにはダイナマイトが巻かれていた。

 漫画か映画でしか見た事のないそんなものが、まさか目の前に出てくるなんて……。

「う、嘘でしょ……」

「……なんだ。普通に怯えた顔も出来るじゃないか。ふふ……まだ殺さんと言っただろう? 怯えるなよ」

 何がまだ、よ。

 悔しいけど、今は何も出来ない。

 とにかく、あいつらが来るまで時間を稼がなきゃ……。

「でも拷問はいいデショ?」

「……俺たちに嘘をつくとどうなるか教えてやるのもいいだろう。だが、程々にしろよ。死んだら人質にもならん」

「!?」

 じょ、冗談じゃない。

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