プロローグ
キャラクター紹介
神楽 零
年齢:16歳
性別:男性
身長:160cm
本作の主人公。
黒髪に白い肌、整った顔立ちを持つ少年。
細く柔らかな黒髪に、長い睫毛。
すっと通った鼻筋と薄く形の整った唇。
少年らしい幼さを残しながらも、どこか少女のような繊細さを感じさせる、中性的な美貌を持つ。
その容姿は、初めて彼を見た者が一瞬だけ性別を迷ってしまうほど。
本人は自分の容姿を特に気にしていない。
静かで穏やかな性格をしており、年齢の割にどこか大人びた雰囲気を持っている。
~境界の向こう側~
夜が明ける。
それは世界が目を覚ますには、あまりにも静かな朝だった。
東の空が夜の名残を薄くほどいていく。黒に近かった空は群青へと移ろい、やがて淡い白へ溶けていく。その境界から生まれた光が、まだ眠りの中にある街へ静かに降り注いでいた。
朝日は何かを急かすこともなく、ただそこにあるものすべてを等しく照らしていく。屋根も、窓も、街路も。そして一人の少年も。
カーテンの隙間から差し込んだ一筋の光が静かな部屋をゆっくりと横切り、ベッドの上で眠る少年の頬を撫でる。
少年はゆっくりと瞼を開いた。
神楽 零。
十六歳。
まだ眠気の残る瞳で天井を見つめ、しばらくしてから身体を起こす。
朝の光を受けた黒髪がさらりと額へ落ちた。夜の色を閉じ込めたような深い黒。一本一本が細く柔らかく、光を受けるたびに淡い艶を返している。寝起きだというのに不思議なほど乱れがなく、その髪は少年の顔立ちをより際立たせていた。
白い肌に細く整った輪郭。すっと通った鼻筋と薄く形の整った唇。長い睫毛に縁取られた瞳には、まだ少年らしい幼さが残っている。
けれど、その顔立ちはあまりにも整いすぎていた。
可愛いと言うには少し違う。綺麗と言うには、どこか儚い。
少年らしい幼さと少女のような繊細さ。それらが不思議な均衡で一つの顔に同居している。
初めて彼を見た人間なら、きっと一瞬だけ言葉を失うだろう。
男なのか、女なのか。
そんな些細な疑問さえ忘れてしまうほどに、ただ美しい。
それが神楽零という少年だった。
零はベッドから降り、窓辺へ歩み寄った。
カーテンを開く。
朝の街が目に入った。
いつもと変わらない景色。いつもと変わらない朝。
零は窓の外を眺めながら、ふと意識を内側へ向けた。昔から、ときどきそうすることがあった。
身体の奥にある、言葉ではうまく説明できない感覚。それは形もなく、音もなく、ただ自分の内側を流れているようなものだった。
零には、それが何なのか分からない。
ただ、それを感じると周囲の人間のことが少しだけ分かった。
笑っている人が本当に楽しいとは限らない。優しい言葉の奥にわずかな苛立ちが隠れていることもある。何も言わずに俯いている人が心の中では誰かに助けを求めていることもある。
零には、それがなんとなく分かった。
まるで人の感情が微かな揺らぎとなって伝わってくるように。
けれど、それはいつも曖昧だった。言葉として聞こえるわけでもない。相手の心が見えるわけでもない。
ただ、感じる。
だから零は、それを特別なことだとは思っていなかった。幼い頃からずっと、そうだったから。
零は窓の外へ目を戻した。
今日もほんの僅かに感じる。胸の奥を静かに流れる何かを。
それ以上、気にすることはなかった。
今日もいつもと同じ一日が始まる。
零はそう思っていた。
何も変わらない朝。昨日と同じように陽は昇り、昨日と同じように街は目を覚ます。そして昨日と同じように、一日が始まる。
――それだけのはずだった。
けれど、人が知らぬ間に人生を分ける境界はいつだって何の前触れもなく訪れる。
その日も、そうだった。
朝の光は優しかった。まるでこの世界に別れを告げる少年を惜しむように、まるでこれから失われる「当たり前」を最後に焼き付けるように。
零はまだ知らない。
この空を見上げるのが最後になることを。この街の音を聞くのが最後になることを。そして、この世界で生きる「神楽零」という少年の物語が今日という日を境に、その姿を大きく変えることを。
*
遥か彼方。
この世界の理から外れた場所で、何かがゆっくりと瞼を開いた。
そこには光がなかった。音もなかった。
ただ永い永い時の果てに、一つの意思だけが存在していた。
待っていた。
ずっと。
ただ一人の少年を。
やがて、その存在が静かに言葉を紡ぐ。
――時は、満ちた。
世界が軋んだ。
空間に亀裂が走る。
それは傷だった。
この世界とあの世界。本来なら決して交わることのない二つの世界を隔てていた見えない境界に生じた、最初の傷。
そして、その傷はゆっくりと開いていく。
*
朝の光が一瞬だけ揺らめいた。
零はそれに気づかなかった。ただ窓の外を眺めている。
いつもと変わらない街。いつもと変わらない朝。
その背後で誰にも知られることなく、世界の外側から伸びた何かが一人の少年へと手を伸ばした。
次の瞬間。
零の姿が消えた。
声を上げる暇もなかった。驚く暇も、何が起きたのか理解する暇もない。
ただ世界から切り取られたように、神楽零という少年だけがそこから消失した。
残された部屋には何もなかった。
開かれたカーテン。
静かな朝。
そして誰にも知られることのない空白だけが残った。
――世界が一つ、少年を失った。
そして同時に。
別の世界が、一人の少年を迎え入れた。




