表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の大地ー神話・伝承群ー  作者: すけろくこぞう
ヘレオルの語り
PR
34/39

泉の乙女

 昔々、魔法の泉があったころ。泉には5人の娘がいた。


 テーナ、ズァン、ウイグ、ゲウデ、ヘレー


 一番最後に末娘のグロムが生まれてちょうど六人。

 それぞれが生まれたときに祝福されて、望んだものを与えられた。


 テーナが望んだのは歌。

 ズァンが望んだのは知恵。

 ウイグが望んだのは風。


 それを見てゲウデが望んだのはたくさんの腕、大きな力だった。欲張りなゲウデの望みも泉は叶え、姉妹たちはその姿に驚いたがすぐに慣れて彼女の腕にたくさんの腕輪をつけてやった。


 そしてヘレーの番になったときヘレーが望んだのは死者だった。理由を尋ねられたヘレーは物を言わないものが好きだと静かに語った。

 泉は死を望むヘレーの願いを退けると末娘の願いを聞き、彼女に彼女が望む天秤を与えた。



 そのことはヘレーにとってとても悲しいことであったから、ショックを受けた娘は泉を出るとぐんぐんと進んでいった。


 後ろには気高い氷の山脈ができて霜が降り注ぐ、そして全て白く染めると氷の乙女は段々と悲しみも忘れ嬉しくなって舞い踊り始めた。

 そうして積もった雪は音を消して、姿を消して、何もかも呑み込んでしまったから皆は困った。


 けれどもヘレーは静かな白い世界に満足してそのまま目的もなく歩き続けるのだった。



 そうして泉の元に戻ったヘレーは姉妹たちにカンカンに怒られた。ヘレーが降らせた雪は多くのものを凍えさせ、痛めつけ、閉したのだったから。

 おかげで彼女たちの母も半分凍ってしまい、大変であったのだ。


 テーナは穏やかな熱を送り、雪を溶かして春の訪れを告げた。


 寒さで眠っていたアナグマも巣穴から出てきて新しい朝を向かえはじめたところだ。

 けれども泉の半分はまだ眠りについたままだ。


 春のまどろみに身を任せいまだにウトウトとしていた。

 泉は凍った半身を見て酷く激昂してヘレーをアナグマの巣へと追いやってしまった。


 そのアナグマの巣は薄暗く、寒く、とてつもなく深い場所で彼女の姉妹たちは彼女を酷く哀れんだ。

 末娘はそこで姉妹に知恵を授けて、テーナは歌い、ズァンが泉を宥めている間にウイグがまどろむ泉の氷を揺り動かして彼女たちの母を起こすことになった。


 揺れ動く巨大な氷たちは轟々と音を立てて大地が揺れ動いたかのような衝撃を与える。

 それはテーナの歌声でも消せないほどに大きく、しまいに父の耳に届いてしまうのだった。


 彼女たちの父はそれまで機嫌がよかったが、体に響くその音に驚いてズァンに尋ねた。


「私を揺らすこの音はなんだ?」


「これは母のいびきにございます。」


 頭の回るズァンは咄嗟にそう答えたが、父は母がこのように大きないびきをかくはずが無いと一蹴した。

 ズァンの嘘に姉妹たちはクスクスと笑ったが父の瞳がぎらりと輝きすくむのだった。


「さあ答えろ、本当はなんだ。」


 普段済ましているズァンが慌てふためくのが面白くゲウデは思わず大笑いをしてしまった。

 それを見たズァンはまた咄嗟に申し出る。


「実は…あれはゲウデのお腹の音にございます。

 あのように腕が多くてはそれだけお腹も空くでしょう。

 あまりに大きい音で彼女も気づいていないのです。」


 恥をかかされたゲウデは驚きのあまり固まってしまった隙に、ズァンはそのまま話続けた。

 末娘がもっと静かにとウイグに耳打ちして、静かに小さく揺らし続けたものだからいつしか氷は霜となってしゃなりしゃなりと音を立て始めた。


 その音は美しく、どんな子守り歌よりも綺麗だったので父もまたウトウトとまどろみに中に潜っていくのだった。



 そうして立ち替わるように目覚めた母はヘレーのことを酷く嘆いて、彼女を連れ戻すようにと姉妹たちに言いつけた。

 そこで長女のテーナーと賢いズァン、力あるゲウデが選ばれたがゲウデはズァンに恥をかかされ姉妹に笑われたばかりだったので怒って着いて行こうとしなかった。


 ウイグは暗い場所や死体のある場所は嫌だと言って聞かなかったので、だから代わりにグロムを使いにやってようやく三人はアナグマの巣へと旅立ったのだった。




 アナグマの巣に向かう途中、テーナは花畑を見つけウイグは美しい鷹の羽を見つけた。

 それはきっと大高の羽だとウイグは思い、羽で風を起こして遊んでいると花畑の花びら全てを巻き上げてしまった。

 だから花は怒りイバラを身につけて一行の道を塞いでしまった。

 そして花畑の中にいたテーナは閉じ込められてしまったのだった。


 テーナは悲痛の歌を歌い悲しんだから薔薇はテーナのことを気の毒に思って、その綺麗な髪を一房と引き換えに逃すことを約束した。

 しかし一房も与えるのをテーナは嫌がったので彼女は出られない。


 ウイグはもう一度風を起こしたがイバラは硬く、舞い上がらない。

 火をつけてしまおうとしたが中にいるテーナを思い、二人は考えるのだった。

 最終的にグロムは自分の髪を半分差し出して、テーナから一房も取るのをやめるように言い聞かせた。


 テーナも歌い疲れていて素直に髪を出すことを誓うとようやくイバラは彼女を解放した。

 ウイグも彼女たちだけに髪を差し出させることを恥ずかしく思い、自身の美しい髪を手放した。


 それで薔薇は色とりどりの色を手に入れて、着飾るようになったのだった。

 しかし青い髪だけはなかったから、青い薔薇はない。



 さっぱりした彼女たちがさらに進むと、次は深い谷があった。

 長い髪がなくなった彼女たちには降りることができないほど深い谷だった。

 その底にヘレーはいるのだ。


 吸い込まれる闇に石を投げ込めば音は返ってこない。

 地の底のアナグマの巣に大きな声で呼びかけると微かに小さな声が聞こえた。


 グロムはウイグの羽を借りると小さな枝に括り付けて矢を拵えた。

 それを見たウイグが髪で糸をより、しなる枝でテーナが矢をつがえる。

 その声の元に矢を飛ばせば次はその矢にハシゴがついて帰ってきた。

 長い道を下ると、いつしか底についてアナグマたちの棲家にいたのだった。


 こんにちは、お嬢さんとアナグマたちの中で一番大きなアナグマがフスフスと語りかける。

 その醜い姿に三人は怯えることなく口々にヘレーの居場所を問いただした。


 気の毒な娘に迎えが来たと聞いてアナグマたちは喜んで彼女たちを案内した。

 アナグマは薄寒い石膏の洞窟、その際奥まで案内するとヘレーを呼ぶ。


 姉妹が辺りを見渡すとそこにはあらゆるものが転がっていた。

 アナグマ曰く、この場所には様々な物が捨てられてゆくのだという。

 輝く骨たちが埋もれる山の頂上に彼女はいた。


 とても寒く暗い場所であったがヘレーはモノともせず、帰ることを拒んだ。

 それどころかアナグマたちさえも拒み、みんな追い出してしまったのだ。


 これには驚いて、アナグマもすっかり冷えた谷の底からいそいそと引っ越して行った。

 幸いアナグマには家が沢山あって、今度はもっと暖かくて人の来ない場所に越して行った。


 すっかりまいった姉妹たちにヘレーは伝言を頼んだ。

 帰った姉妹から泉は経緯を聞き、もう戻らないと言った娘をひどく悲しんだが、

 代わりにいつでも彼女の顔が見れるようにと自身の一部を明け渡した。


 それは姉妹にとってとても面白くないことだったが

 ヘレーは受け取り、一生大事にその鏡を守るのだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ