表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソラと向こうへ  作者: 魚の涙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/2

自由の選択

 もうすぐ軌道車両が閉都の外に出る。

 閉都を覆い尽くす防壁に開いた大穴の外に、灰色の空が見えていた。


 防壁も同じ灰色だと言うのに、大穴の向こうが開放的に見えるのは何故なのだろうか。

 閉都の外に用事のない者達がばらばらと車両から飛び降りる。

 その殆どが優形種だが、ちらほらと闇人も混ざっている。

 車両に残った者達の大半もまた優形種で、そこに数人の闇人もいる。


 その中で異彩を放つ者が二人。


 一人は全身真っ白で穴のない人形。布の様に滑らかな光沢を放っている。

 スライム種と呼ばれる、戦争最後期に突如として現れた者達だ。

 戦後は滅多にお目に掛かれなくなった謎の多い種族で、私も実物をを目にするのは二度目だ。


 もう一人は金属光沢を放つ人形。だから最初は金属種だと思っていた。

 だが、よくよく観察しているとそうではなさそうだ。

 確かに肌は金属光沢を放っているし、手足と胴体は複雑な金属構造が見て取れる。

 だが、顔が金属種とは異なる。

 金属種であれば顔も金属構造である筈なのだが、そこにあるのは優形種に近いそれだ。

 顔は硝子の様な透明な板の向こうにあって、頭部は金属の被り物に覆われている。

 一言で表現するのなら金属種を模した服を着た優形種と言った所で、私はその様な容貌をした者達に心当たりがあった。


 普段であればそれなりに騒がしい車上が妙に静かなのは、周囲の誰もが同じ結論に行き着いたからだろう。

 あれは外に出る事を選択した保護種だと。


 その上で話し掛けるかどうか迷っている。そんな空気だ。

 保護種の身体は有用だが、スライム種がその人権を保護している限り話のネタ程度しか価値はない。

 まあ、それでも、物珍しい事には違いない。


 ぐるりと同乗者を見渡すが、ちらちらと視線を送るばかりで近付こうとする気配は感じない。

 そうこうしている間に軌道車両は閉都の大穴を抜けて減速を始めた。

 ばらばらと残っていた同乗者が飛び降り、私もそれに続く。


「うわあ!」


 頭上を間の抜けた声が飛び越えて行く。

 慣性を両手の爪と肉球で強引に殺して立ち上がると、目の前に保護種を担いだスライム種が着地した。

 ずしんと地面が揺れて、ぐええと保護種が呻く。


 衝撃を気にもしない、大陸最強種族の豪快な着地だ。

 その衝撃から、少なくとも二人のどちらかは見た目より重い事が伺える。

 軌道車両が減速しながら遠ざかって行く様子を背景に、二人の様子を観察する。

 スライム種が肩に担いだ保護種を無造作に降ろした。

 ずしりとした着地音から、少なくとも保護種は見た目より重そうだ。


「口から中身が飛び出るかと思ったよ」


 保護種が籠った声でそう言った。若干非難する様な口調だ。

 その事から、金属光沢は素肌ではなく保護服である事が伺える。

 もし金属種への種族転換処置を施されているのなら、あの程度で飛び出る中身はないだろうし。


「まあ、いいんだけどさ」


 やれやれと言った感じで肩を落とす保護種。

 何だか思っていたより普通だなと、そう思った私は思わず声を掛けていた。


「保護種の方ですか?」


 二人が顔を私に向けた。

 スライム種に目は見当たらないが二つの視線を感じた気がする。


「ええ、そうですよ。隣の白い人は案内人のアオさんです。貴女は熊系の獣人ですか?」

「熊系と言っても形質が発現しているのは両手足だけですけどね」


 獣人と言う単語に、一瞬視線が閉都へと流れ掛けた。

 貴族連中に聞かれていないかが気になったからだが、聞かれていた所でスライム種が対応するだろうと思い直す。

 そのスライム種に視線を送ると、周囲を警戒する様子もなく立っていた。

 スラリとした緩やかな凹凸を持つ身体は何かの芸術品の様ですらあった。

 爪を肉球に隠した手の平を見せて敵意がない事を示しつつ、保護種へと笑みを向ける。


「私は斂都御用商人のクトーと申します。貴金族から金羽毛を買付けて、各地で売る仕事をしています」

「ああ、これは丁寧に。僕は保護種のソラと言います」


 ソラと名乗った保護種は一旦スライム種へと視線を向けて、何やら相槌を打った。

 スライム種が念話で何かを言ったのだろう。


「クトーさんはこれからどちらに向かう予定で?」

「近隣の集落を巡ってから東領へ向かう予定ですよ」


 戦後の閉都周辺はどんな様子なのか、今回はその辺りを確認するのも目的だ。

 組合から情報は得ているが、実際にこの目で見て肌で感じる事も重要なのだ。


「へえー。ご一緒しても? 良いですか?」

「ええ、構いませんよ。ソラさんも東領へ向かう予定でしたか?」

「目的地は決めていないんですよ。色々と見て回ろうと思っていて。世界は広いと聞いていますから」

「それは面白そうですね。仕事柄色々な場所に行きますが、未だに新しい発見があるものです」


 話を続けつつスライム種の様子を伺うが、びっくりするくらい何も読み取れない。

 置物の様にただそこにあるだけだが、ソラさんは時折スライム種の様子を伺っている。

 主導権がどちらにあるのかが今一分からない。


「クトーさんでも知らない事があるんですか?」

「知らない事の方が多いですよ。世界は広過ぎますからね」


 広過ぎて、移動するだけでも一苦労だ。

 もうちょっと小ぢんまりとしていたって良いのに。


 どの様な旅路で東領へ向かおうかと思案し始めた所で、ソラさんが斂都を離れる前に見てみたい所があったのだと言う。

 寄り道は避けたい所なのだが、一方で保護種が見てみたいと思う場所が気になって続きを促してみる。


「暴力装置を、この目で見たくて」


 ……ああ。うん。

 見た事がないと、そう思うものかも。


「暴力装置ですか……」


 我ながら煮え切らない声音でそう言いつつ、スライム種に視線を向ける。

 スライム種はつるりとした何もない顔をこちらに向けて、顎に指を添えて思案する様な素振りを見せた。


『安全は保障します』


 暗黙の懸念は十分に伝わっていた様で、顔にそんな文字が表示された。

 ……スライム種の意思疎通方法、念話以外にそんな方法があるんだ。


 ともあれ、大陸最強種族が保証してくれるのであれば良い機会かも知れない。

 今の暴力装置がどうなっているのか。その情報を私は知らないのだから。


「では、見に行きましょうか、暴力装置を」


 問題は、現存している暴力装置までの距離が少々遠い事だ。

 予定を少し組み替えなければならないかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ