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44. クラウド・ノード零

 夜明け前の東京。

 闇のタワーが崩れた直後、空に黒い電波が走った。

 それは稲妻ではない。

 ――データの叫びだ。


「見ろ……」

 ノブナガが指を差す。

 雲の切れ間から、黒い螺旋がゆっくりと天へ昇っていく。

 コードの光が集まり、雲の上に巨大な“円環状の構造体”を形成していた。


「これは……サーバでも、衛星でもない」

 イエヤスが家紋レンズを起動させる。

 検出不能。だが確かに存在する。

 “クラウド・ノード零”――。

 それは、すべての理念データが最初に生まれた、未知の中枢だった。


「どうやら私たちの戦いの、原点のようだな」

 ケンシンの瞳が、薄明を見据える。


「行くぞ」

 ノブナガが刀を抜くと、6人のスーツが同時に光を放った。


『スーツ侍、改革――最終モード!』


 6色の光柱が夜空を貫く。

 彼らの身体が光に包まれ、データの粒子になって天空へ転送された。


 

 ※※※


 

 雲上の空間――“クラウド・ノード零”。

 そこは、都市の記憶そのものだった。

 ビル群がホログラムのように浮かび、社員たちの笑顔、苦悩、叫びがデータの光として流れていく。


 目の前にいたのは――


「……黒田!?」

 織田がその名を呼ぶ。


 そこには黒いスーツにマントを翻した黒田の姿があった。

 

「えぇっ!? どうして黒田がここに?」

 ヒデヨシの目が飛び出そうになっている。

「おい、どういうことなんだ? まさか」

 シンゲンに焦りが見える。


「皆さん――私のことを話す時がきましたね」

 黒田が侍たちにそっと触れるように話す。

 

「まずブラック企業団のボスは――

 

 私の元上司です」


「「「「「「え!?」」」」」」

 

「名を天嵐院(てんらんいん)道元。私は彼の会社で働いておりました。天嵐院社長は……かつては立派な“企業理念”を掲げていた」


 ノブナガたちは息を整える。


「ですが、ある雷の日を境に――社内で“管理”という言葉が、急に重くなったのです」

 

「雷……!?」と呟くイエヤス。

 

「ええ。時空に歪みが生じたあの日。彼はそれを啓示だと思ったのでしょう。成果を出せない者は切り捨てよ。管理できない感情は不要だ、と」


 全員が、息を呑む。

 

「私は彼と決別した。そしてその後だった。ブラック企業団が結成され、東京でサラリーマンたちの悲鳴が起こったのです」

「元上司がそんな姿になるなんて、辛かったな」とケンシンが慰める。


 黒田の眼差しは、遠い過去を見つめていた。

「そしてブラック企業団を調査していく中で、気づいたのです。私自身は戦国の世から転生した者だと。そして……」


 彼のタブレットに光が満ちる。画面には5つの家紋が映し出されていた。


「――この時代には、再び“(いくさ)”が必要だと」

 静寂の中に、その声だけが澄んで響く。


「刀を捨てた時代に、理念の戦を。数字に支配されかけた社会を、心の力で立て直す戦士を――私はそのために、このプログラムを開発した。過去の魂を現代に呼び戻す“理念転生プログラム”です」


「……それで俺たちはこの時代に転生したのか」とノブナガ。

「はい。あなた方が転生後、ビジネスを学びスーツ侍として目覚めるまでは、私がブラック企業団に微力ながら対応していましたが……この時代の人たちも“働き方改革”を掲げたりして、労働環境を良くしようとしてきました。ブラック企業団に対抗しようとしたのか、それとも偶然なのかはわかりませんが」


 諸悪の根源であるブラック企業団のボスも、元はこの世界で働く者だった――だが、誰しも簡単に闇に落ちる可能性がある。

 

「信じる力が揺らいだこの時代に、再び“志”を示せる者――それが、かつて戦国の世で生きるために“理念”を持ち、最後まで戦い抜いたあなた方“スーツ侍”でした」


 黒田の拳が震える。

 ノブナガの声が静かに響く。

「天嵐院の誠意を取り戻したかったのだな、黒田」

「はい。あなた方であれば……人々の想いを、互いに信頼し合う大切さを、そして“理念”を、この時代にも示せると。私には前世同様に、侍たちを支援する使命があったのです」


 夜の風が通り抜ける。

 外の街にはまだ戦いの残光が揺らめいていた。


 その時、黒田のタブレットが黒く光った。

 画面には、ひとつの名が浮かんでいる。


 ――天嵐院道元。


 次の瞬間、スピーカーから低い声が流れた。

『何者かが侵入したと思ったら黒田……やはりお前だったか。まだ“志”を貫こうとしておるのか』


 空気が一変する。

 その声は、かつての上司の声に似ているようで、違うもの。


 黒田は目を閉じ、静かに答える。

「……天嵐院さん。もう一度、あなたに問わせてください。本当に、あなたは……ご自分の中にあった“理念”を捨てたのですか?」


 通信の向こうで、一瞬だけ沈黙。

 次いで、冷たい笑みを含んだ声が返る。

『理想では飯は食えん。私の周りにいた人の心とやらはすでに“経営データ”に変換した。だがそこまで言うのなら面白い――見せてもらおう、お前たちの“理念の成果”をな』


 通信が途絶える。


 黒田は6人を見渡す。

「……始まる。最終決戦が」


 ノブナガがうなずく。

「ならば我らの信念を、侍魂を……彼に示す時だ!」


 6人の侍が立ち上がる。

 黒田が彼らの背を見送りながら、静かに呟いた。

「天嵐院さん、どうか……もう一度、あなたが信じたものを思い出してくれ」



 ※※※

 


 暗黒に飲み込まれるように続く道。

 6人が向かった先に――ブラック企業団のトップ、天嵐院道元の気配。

 

 どこからともなく、低い声が響いた。


「ようやく、ここまで来たか。6人の侍たちよ」


 上空が黒く裂け、数百万のデータ粒子が流星のように降り注いだ。その中心から、黒いマントを翻す男が現れる。

 漆黒のスーツに、マント。

 その姿は、圧倒的な威厳を放っていた。


「……天嵐院か」とノブナガ。

 男は奇妙な笑みを浮かべる。


「その通りだ、スーツ侍よ」


「元々お前はサラリーマンだったはず。なぜブラック企業団の長に?」

 ノブナガが刀を構える。


「理想など幻。何度裏切られ、いくたび歪められてきたか――私はそれを見た。人は企業理念を語りながら、他人を使い潰す――人間は結局己のことしか考えない。ゆえに、私は“感情なき世界”を選んだ」


 天嵐院の背後に、黄金のデータが広がる。

 それは、かつて仲間だったブラック企業団幹部たちの記憶データでできた、ホログラムだった。


「彼らは……!」

 イチリンの瞳が揺れる。

「……バルカー!」

 シンゲンが叫ぶ。


「安心しろ。彼らは“理念の結晶”として、永遠に保存されている――苦しむことも、悩むこともない。理想的な組織だと思わないか?」


「それは“生きている”とは言わない!」

 ヒデヨシが言い返す。

「人は悩み、痛み、愛するからこそ進化する。貴様の世界はただの墓標だ」とケンシン。


 天嵐院が微笑を消す。

 その瞳は、データではなく“かつて人であった光”を宿していた。


「ならば見せてもらおう。お前たちがどんな想いを受け継いだのか――」


 空間全体が震えた。

 下界の都市が裏返り、雲の上に“逆さの東京”が浮かぶ。

 数千万のデータラインが光の鎖となり、天嵐院の周囲に集まっていく。


「アルゴリズム・コード――オーバーロード・レガシー」


 天空が黒炎に包まれ、光がねじれる。

 都市の夜景が崩壊し、全データが彼の意識に統合されていった。


「行くぞ、皆の者!」

 ノブナガが叫ぶ。

「俺たちの信じる力で――この世界を取り戻すのだ!」


 6色の光が閃き、黒と光の世界がぶつかり合った。

 それは、理念と無機の最終戦。

 “志”を貫くための――最後の戦いの幕開けだった。



 

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