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64、おかしなユーザー達

「さぁ、お仕事、お仕事」


 りょうちゃんは、草原のあちこちに視線を走らせている。彼はもう、さっきの言葉がなかったかのように、完全に切り替えているのかな。なんとなく告白されたような気もしたけど、それにしては言い方が軽かったよね。


(私の勘違いかな)


 私も、フレンドさんとしてのりょうちゃんは好きだけど、それは、りょうちゃんのことを女の子だと思っていたからで、女性同士の親しい友達としての好きだったから……うん、やっぱり私、変に意識しすぎてたみたい。




「みかんちゃん、あのユーザーさん達、ちょっと変だね」


 りょうちゃんが指差した先にいた人達は、プレオープン初日なのに、初期装備ではなかった。


「運営さんでもなさそうだけど、なぜ初期装備じゃないんだろう? 淡く輝いてるから、ゲームアバターだよね?」


 私達は、異世界交流の監視委員会というものに参加している。たぶん、この草原近くに住む人は、半数以上が参加していると思う。つまり、ゲームアバターと会話する役割だ。


 さらに私達は、物語ストーリーへの出演者側にも回るわけだけど、これは、現地人には話せないことらしい。あっ、りょうちゃんは、神託者さんだから、出演者ではなくて物語を描く側みたいだけど。


 異世界交流の監視委員会からは、淡く輝いているのが異世界人だと聞いている。異世界人は、こちらから話しかけると怖がるから、話しかけられたら優しく答えてあげましょうということだったかな。



「確かに、運営さんではなさそうだね。しかも初日から、あんな装備を身につけているってことは、不正をしたみたいだな」


「課金して装備を買ったかもしれないけど……バグを誘発したのかもね。まるで錬金術だな」


「ふふっ、みかんちゃんの出番かもよ? だけど、家名は名乗らないでね。エリザ・ダークロードが悪役令嬢だということは、プレオープンでは明かされてないから」


「わかったよ、りょうちゃん。もうちょっと近寄ろうか。こちらからは、話しかけたくないもの」


「ふふっ、了解!」


(りょうちゃん、楽しそう)


 りょうちゃんは女装して化粧もしているけど、地味なローブを身につけているから、パッと見た感じだと性別不明に見えるかな。近寄ると、色気の半端ない妖しい女性に見えるだろうけど。



 ゲームユーザーの立場から見れば、頭上にユーザー名が表示されるのがゲームユーザーだ。フィールドではユーザー同士は、オープンチャットを使って話すことができる。


 一方で、表示のない人のことはNPCというかゲームキャラというか、関係ない背景のような人達だと思ってる。


 ゲームの世界の人に話しかけるときにも、チャット機能を使うけど、定型文のリストもあるから、面倒なときはリストから適当に選んでたっけ。


(なんか、不思議な感覚だな)


 今、私達は、ゲームの中の架空の人物だと思われてるよね。自分のアバターと遭遇すると、きっともっと不思議な気分になるだろうな。


 ただ、ルール無視のゲーマーには気をつけないといけない。もし交戦することになったら大変だ。


 ゲームユーザーは、戦闘不能になるとフィールドから強制ログアウトさせられてマイページに戻るだけだけど、私達が負けると、本当に殺されてしまうかもしれないもの。



「みかんちゃん、私達は運営さんじゃないんだから、彼女達に不正があったとしても、何もしないよ。ただ、そういうタイプの人って、他にもいろいろとね」


 りょうちゃんは、途中でごまかしたけど、彼女達がこの世界に害を与える可能性が高いってことだよね。


(中身は女性とは限らないけど)


 以前、とあるネットオークションで、『フィールド&ハーツ』のアイテムを売っていたのを見つけたことがある。換金目的で、不正をしてアイテム集めをする人達もいるんだよね。




 私達が会話可能な距離まで近づくと、ゲームユーザー達は、すぐに気づいたみたい。そして、嬉々として近寄ってくる。


(あれ? 何?)


 私の目には、ゲームユーザーのアバターの前に、見慣れた画面のようなものが見えた。あれは、ユーザー本人しか見ることができないはずの、ステイタス画面だ。


「りょうちゃん、なぜか、ステイタス画面が見える」


 小声でそう囁くと、りょうちゃんはふわっと笑った。


「彼女達は、弱いね」


(りょうちゃんも見えてるんだ!)


 まぁ、りょうちゃんは神託者さんだもんね。だけど私は、今の自分がどんな能力があるのか、わからない。ステイタス画面のような数値化された情報なんて、ないもの。



『こんにちは! 貴女達は、冒険者?』


 頭に直接響いてくるような不思議な声。でも、ちゃんと音声として聞こえる! すごいな。どんな魔法なんだろう?


「こんにちは。私達は、グリーンロードに住んでいるの。冒険者というわけではないよ」


 りょうちゃんが、自然に返答してる。その声を、ゲームユーザーは文字で読むのよね? すごいな、この魔法。


 彼女達の返事は少し遅い。チャットを打ってるからかな?


『この先には、どうやって進めばいいかな? 見えない壁があるみたいなんだけど』


 彼女達は、ユフィラルフの町の方向を指差している。


「草原の先には、進めないよ」


 りょうちゃんは、やはりという顔をしてる。ゲームユーザーが、立ち入り設定をしてない町に入るとどうなるか知らないけど……たぶん、町が荒らされるよね。


『私達は、この先に行きたいんだ。見えない壁を壊す魔法具とか、売ってないのかな』


 りょうちゃんは、困った顔を作って、首を傾げて見せている。でも、彼女達は、諦めるとは思えない。



「貴女達! この先にはアバターは入れないわ。まさか、おかしな方法を使って、その装備を手に入れたんじゃないでしょうね?」


(あっ、アバターって言っちゃった……)


『何、この子供』


『やだ、感じわるーい』


『叩いちゃえば? そっちのお姉さんも冒険者じゃないなら、何もできないよ』


(この人達……ムカつく)


 フレンド同士のオープンチャットをしてるんだろうけど、私にもまる聞こえなんだからね!



 彼女達が、剣を抜いた。しかも、初期武器ではない。


(叩くんじゃなくて斬るってこと?)


 りょうちゃんの方をチラッと見ると……怯えたフリをしてるよ。私と目が合うと、ニヤッと笑ったけど。


『モブを倒したら、経験値は高いかな』


『検証しようぜ』


『でも、子供だよ?』


『まぁ、やってみようや』



 彼女達は、一斉に、私に剣を振り下ろしてきた。



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