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65、ミカン、ちょっとやらかす

 私は、ゲームユーザーにまで命を狙われるの?


(そんなの嫌だ!)


 私を狙って振り下ろされた剣をスッとかわした。りょうちゃんが言っていたように、ゲームユーザー達は、それなりの武器を装備していても弱いのかな? 黒服達と剣術の練習をしてきた私は、簡単に避けることができた。



『すばしっこい子供だな』


『これは確定だな。倒せば経験値ガッポリのモブキャラだろ』


 ゲームユーザー同士のオープンチャットは、私達には直接頭に響く声として、まる聞こえだ。だから悪役令嬢エリザ・ダークロードは、私達の行動を見透かしたかのように動くことができたのね。


(私達の方が有利な仕様ね)


 これは当たり前のことかもしれない。ゲームユーザーは斬られても痛くも何ともないけど、私達は斬られたら痛いでは済まないもの。


 言葉を理解できないモンスターは狩れても、ゲームキャラが予想以上に強いと感じたのは、このためだったのね。



『魔法アイテムを使ってみる?』


『こんな子供に使うのは、もったいなくないか?』


『プレオープンの間は、不具合祭りになるだろ? お詫びの石もバグを利用すれば増やせるし、何より有益な情報は高く売れるぜ』


(やっぱ、不正してるじゃない)


 この会話が聞こえても、ゲームを知らない現地人には意味がわからないよね。


 ゲームに不具合があると、運営さんからお詫びとして、アイテムをもらえることが多い。石というのは、ゲーム内通貨のことね。でも『フィールド&ハーツ』での通貨は、クリスタルと金貨銀貨銅貨だから、他のゲームで使っている言葉だと思う。



 彼女達の一人の手から剣が消えた。これがアイテムを使うときの動作かな。そのユーザーのステイタス画面に『氷の魔法書』という表示が見える。


(強いアイテムじゃない!)


 あれは、氷の刃みたいなものが付近一体に降り注ぐアイテムだ。私達だけじゃなく、他の現地人も大怪我をしてしまう。こんな場所で魔法書を使うなんて、どうかしてる。あっ、初日だから威力がわかってないのかな。


「りょうちゃん、強い魔道具だよ」


「みかんちゃん、何とかして〜」


 りょうちゃんは怯えたフリをしてるけど、その表情には余裕がある。彼は物語ストーリー勢だったから、フィールドの戦闘を知らないのかも。



 そのゲームユーザーは『氷の魔法書』を使う選択をしたみたい。ステイタス画面に、OK確認の表示が出ている。これを押されたら、氷刃の雨が降る!


(バカでしょ!)


 私は、左手をゲームユーザー達に向ける。


「こんな場所で、バカなことしないで!」


 私は、ゲームユーザー達を吹き飛ばそうと、風の魔法を使う。ただの強い風で吹き飛ぶだけの魔法だけど、人のいない草むらへ移動させることはできる。



 ボフッ!



 私が放った強い風が、アイテムを使われる前にゲームユーザー達に当たった。でも、アイテムのOKボタンは押すかもしれない。ゲームユーザーは、この場所をスマホ画面で見ているだけだもの。


 私は、空をパッと見上げた。草むらでアイテムを使ったとしても、やはり少し被害が出るかもしれない。


(どうしよう)


 氷の刃を打ち消すような広範囲の火魔法なんて、私は知らない。あっ、魔剣! うっ、今日は剣を持ってきてないよ。こんなことなら装備してくればよかった。りょうちゃんは持ってるかな。



「りょうちゃん、剣を持ってない?」


「みかんちゃん、オーバーキルだよ?」


「へ? オーバーキル?」


「空じゃなくて、前を見てごらん」


 りょうちゃんにそう言われて、草むらの方を見てみる。目をこらしてみても、キラキラとした光が邪魔で、ゲームユーザー達の姿を見つけられない。


「見失っちゃった」


 空を気にしながら、私がそう呟くと、りょうちゃんは、ケラケラと笑いだした。



「さっきのゲームユーザー達は、みかんちゃんが強制的にログアウトさせたみたいだね。魔道具を使われる前にと焦って、威力の調整を間違えたかな?」


「ただの強い風だよ? 草むらに吹き飛ばそうとしただけなんだけど……あっ、もしかして、あのキラキラした光は、ログアウトの光?」


「うん、そうだよ。まぁ、彼女達のことは、運営さんがそのうち排除するだろうけどね。あっ、また来たみたいだ」


 私達から随分と離れた場所に、さっきのゲームユーザー達が現れた。戦闘不能になって強制ログアウトしたらマイページに戻るだけだけど、体力は1になってるはず。すぐに戻ってくるってことは、全回復アイテムを使ったのね。


(仕返しかな)



「りょうちゃん、剣を持ってたら貸して欲しいんだけど」


「ん? 騎士貴族であるダークロード家のお嬢様に剣を持たせるのは、ちょっと危険だなぁ」


「もうっ、私は何も持って来なかったからー。あの人達、絶対に私を捜して報復する気だよ」


 私が必死に訴えても、りょうちゃんはニヤニヤしてるだけだ。さっきの人達は、やっぱりこちらに向かってきてる。だけど、まだ私達のことは画面に表示されてないと思う。


(これも、私達が有利ね)


 ゲームでは、対象に結構近寄らないと、画面に表示されない。広域図もあるけど、それだと何かがいることを点で表しているだけだから、近寄らないと人なのかモンスターなのかさえ、わからない仕様だったと思う。



「みかんちゃん、あまり目立つことはしないでね。彼女達は不正者だからいいとして、10周年まではおとなしくしておいて」


(あっ、過去を変えることになるんだっけ?)


 時差の関係は、私にはわからない。だけど、自分の記憶にないことはしちゃいけないのよね? しかも私がやっていた5年ちょっとの期間は、エリザの妹は物語ストーリーでは少し出てきたけど、フィールドで見たことはない。


 悪役令嬢の妹が物語ストーリーの序盤で消えてしまうということを、ゲームユーザーは皆、知っている。でも死んだという表現は見たことないけど。



「うん、じゃあ、あっちに行こ」


「ふふっ、暇だからデートしようか。あの先に、綺麗な花畑があるんだよ」


「りょうちゃん? 女装してるのを忘れてない?」


 そう反論すると、彼は意味深な笑みを浮かべた。


「じゃあ、明日は女装しないからデートしようよ、みかんちゃん」


「えっ? 明日もこの草原の監視をしなきゃいけない日だよ?」


「わかってるよ。監視をしながらデートしようよ」


 りょうちゃんは、デートの意味がわかってるのかな? この世界にはない言葉だけど。


「うーん、まぁ、いいけど」


「ふふっ、楽しみだね〜」


 りょうちゃんは、無邪気な笑みを浮かべていた。



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