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18、名も無き冒険者からの告白?

「イチニーさん? 貴方みたいな人が、なぜ初等科の制服を着ているんですか」


 私達を取り囲んでいた人達の何人かは、彼を知っているみたい。さっきまでとは表情がガラッと変わって、イチニーさんに媚びているような人もいる。


 そういえば、前にカードを見せてもらったとき、彼の冒険者ランクはAランクだった。このランクがどの程度高いのかは、私にはわからない。でも、凄そうな称号を持ってたよね。


 私は、あの頃は文字が読めないフリをしていたから誰にも聞けなくて、ちょっとモヤモヤしてたけど。



「私は、そちらのお嬢さんと同級生なんですよ。レオナード坊ちゃんが片想いしているみたいだから、彼女に変なことをするとキミ達は全員、呪い殺されるよ?」


(あのチビっ子が?)


 イチニーさんは、彼らの質問を笑顔でスルーしている。レオナードくんの監視だとも、名前を得るためだとも言わない。



「レオナード? トリッツ家の坊やか」


「ひっ! 偉大なシャーマン家の……」


(トリッツ家?)


 乙女ゲーム『フィールド&ハーツ』では、聞いたことのない名前。ゲームには、シャーマンも出てこないもんね。



「そんなことより、遅れてしまったな。階段を塞いで女の子を捕まえようとするなんて、逆に嫌われますよ?」


 イチニーさんは、反論を許さない雰囲気。階段を塞いでいた人達も、彼に威圧されたのか、横に寄っていく。


「お嬢さん達も、冒険者ギルドに用事があるのでしょう? お先にどうぞ。受付カウンターは先着順ですから」


 そう言って、またウインクしてる。チャラいけど、私達が先に来ていたから順番を守ろうとしてくれるのね。


「じゃ、お先に失礼しますよ」


 時雨さんはそう言うと、私達を取り囲んでいた人達を睨み、階段を上がっていく。私も侍女のサラと一緒に、彼女の後についていった。



 ◇◇◇



 学生食堂の2階は、グリーンロードの冒険者ギルドと似た雰囲気だった。ガヤガヤと賑やかで大勢の人がいる。


(誰でも利用できるのね)


 ユフィラルフ魔導学院の魔術科の敷地にあるけど、一般の冒険者っぽい人達でいっぱいだった。



 私が初等科の制服を着ているからか、私達を見つけた職員さんが駆け寄ってくる。


「初等科の学生さんですね。ユフィラルフ魔導学院の学生さんの受付カウンターは3階です。ご案内しますね」


「お願いします。私は魔術科ですが、彼女は初ミッションだと思います。フィールド実習です」


 時雨さんがそう説明すると、職員さんは軽く頷く。当然、お見通しだったみたい。


 2階にいる冒険者達からは、私はあまり見られることはなかった。時雨さんの方が注目されてる。宿屋ホーレスの娘さんだから、顔を知る人が多いのかな。



 ◇◇◇



「これから学生さんがたくさんいらっしゃると思って、増員したばかりなんですよ」


 3階に上がると、案内の職員さんがにこやかに説明してくれた。だからこんなに多くの職員さんが、暇そうにしているのね。


「私達は、行動が早かったのですね。パーティ申請なんですけど」


「えっ? 実習補助ではなくてパーティですか。そちらのお嬢さんが初ミッションなら、初等科後期が開放されたばかりですよね?」


(やはり、無理っぽい)


「そうですけど、パーティは組めないですか? 私、冒険者ランクはDランクですが」


 そう言って、時雨さんは職員さんにカードを見せた。


「あっ、シグレニさんでしたか。Dランクからは確かに新人冒険者の世話ができますが、そちらのお嬢さんの問題です。お嬢さん、この丸い玉に手を置いてください。身分照会の後、お名前のカードを発行します」


(ん? カードあるよ?)


 私がどう話そうかと戸惑っている間に、職員さんが私の右手をガチャの玉みたいなものに乗せた。



「あら、もうカードの発行は終わっていますね。えーっと、家名は伏せますからご安心ください。ミカンさん、でよろしいですね?」


「は、はい」


 職員さんが何かをすると、その玉が淡い光を放った。


「まぁ、初等科前期の科目をすべて合格されていますね。優等生特典により、パーティ申請は許可できますよ」


「えっ? ぜんぶ?」


(魔法学は不合格だったよ?)


「あぁ、魔法学は、初等科前期から授業は始まりますけど、初等科で合格はできません。魔術科の基礎魔法学ですから」


「えっ? でも、イチニーさんは……」


 私は思わず、他人の成績を暴露しそうになって、慌てて口を閉じた。



「ふふっ、嬉しいな。私のことを気にしてくれるんだね、ミカンさん。全科目の試験を受けた甲斐がありましたよ」


(わっ、出た!)


 いつから居たのか気づかなかった。でも、私達を先に行かせてくれたけど、当然、すぐに追いついてくるよね。



「イチニーさん? どうしてそんな制服を着ているの?」


 ギルド職員さんも、彼のことを知ってるのね。


「私は、アレですよ」


 イチニーさんは、事務所の奥の方を指差している。


「まさか、坊やの監視ですか? やらないと言ってたじゃないですか」


「気が変わったんですよ。ついでに名前をもらうのもアリでしょ」


「名前を得るには、魔術科の卒業が必要ですよ? そもそも、貴方は剣士登録の冒険者ですよね」


「魔法も使える方が、モテるでしょ」


「イチニーさんは、魔法も普通に使うじゃないですか」


「でも、異世界交流が始まるでしょう? 学生をしている方が逃げ場にもなりますからね」


 そう言って、職員さんにもウインクしてるよ。


(チャラい)




「おい! イチニー、遅刻だぞ! もう雇わな……なっ? なんでミカンがここにいるんだよ」


 声が聞こえたのか、奥の部屋からレオナードくんが出てきた。このチビっ子と待ち合わせだったのね。


「あたしは……」


(何を話して大丈夫なのかがわからない)


「レオナード様、女の子にそんな強い口調で話すと、怖がらせてしまいますよ? 言っておきますが、ミカンさんを狙っているのはレオナード様だけではありませんよ」


「なっ? 俺は別に、こんなガキは狙ってないからな」


「へぇ、そうですか。じゃあ、私がもらいますからね」


「は? イチニー、何を言って……」


「前期のオリエンテーションの日に、ミカンさんに一目惚れしたので、レオナード様、私の恋を応援してください」


(この人、何を言ってるの?)


「はぁ? イチニーは平民だし、オッサンじゃねーか」


「私は永遠に20歳ですから、10年も経てば、年齢差は気にならなくなりますよ。ねぇ、ミカンさん?」


 そう言って、パチッとウインクする彼。あぁ、そっか。レオナードくんをからかって遊んでいるのね。



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