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16、異世界交流の監視委員会って何?

「かんゆうって、なに?」


「ミカン、勧誘というのは何かに誘うことよ」


(それは知ってる)


 まぁ、私は5歳児だから、エリザがそう答えるのも無理はない。私が転生者だと知る時雨しぐれさんは、笑いをこらえるのに必死みたいだけど。


「なにをかんゆうしてるの?」


 私がそう尋ねると、エリザは時雨さんに視線を向けた。もしかして、エリザもわかってないのかな。あっ、エリザは他の魔術学校から転校してきたばかりだから、まだわかってないのかも。



「ミカン様、勧誘というのは……」


「シグレニさん、ミカンへの様呼びは不要だわ。そういう所からミカンの素性を知られてしまうと困るもの。私は、ダークロード家の後継者だと知られているから、呼び方はどちらでも構わないけど」


 エリザはこういう所は徹底するようだ。寮の部屋にいるのにね。いや、違うかな。私に教えているつもりかもしれない。


「では、ミカンさんと呼ばせていただきますね。えーっと、勧誘は、異世界交流の監視委員会に参加されないかということです」


(はい? 異世界交流?)


 私が首を傾げているのと同じく、エリザもわかってないみたい。異文化交流じゃなくて、異世界交流って言ったよね?



「シグレニさん、私も、まだ内容の詳細は知らないのよ。ダークロード家にも案内は届いたとは聞いているけれど、まだ3年ほど先のことよね?」


「エリザ様、正式な交流開始は3年半後くらいを予定しているそうですが、お試しとして、この秋からグリーンロード領だけで交流が始まるそうです」


「あら、もうすぐじゃないの」


「ええ、そうなのです。これまでも異世界との交流は定期的に行われていたらしく、その監視が必要だそうです」


(宇宙人が来るの?)


 エリザは時雨さんの話を、大きく頷きながら聞いている。宇宙人が来るのは普通のことなのかな。



「お爺様が若い頃に、ひどい事件があったことから、監視委員会が設置されることになったと聞いているわ。ダークロード家の参加は必須でしょう。秋からグリーンロード領に異世界人が来るなら、私も当然、監視委員会に参加しますわ」


(エリザが勧誘されてる)


「宿屋ホーレスも、多くの異世界人が訪れることになります。グリーンロードの冒険者ギルドも、その中心になるようです」


「そう。それなら私がダークロード家として、宿屋ホーレスの一室を借りますわ。一般の冒険者が利用する部屋で良くてよ?」


「エリザ様! ありがとうございます。とても心強いです」


(なんか、仲良くなってない?)


「ふふっ、任せなさい。どんな異世界人が来ても、規律を守れないなら叩き斬ってあげるわ。どうせ本当の身体は安全な場所に保管していて、ここに来るのは分身でしょう?」


「えっと、私にはそのあたりの情報は……」


「あら、違うのかしら? お爺様の話だと、無礼な異世界人は、叩き斬っても半日もしないうちに素知らぬ顔で現れるのよ? 本当の身体のままで来る異世界人なら、非常に危険だわ。それほど自信があるということだもの」


(えっ、ヤバくない?)


 秋から恐ろしい宇宙人が来るなんて、この世界はどうなるのだろう?



「エリザ様、ミカンさんは……」


「当然、ミカンも、ダークロード家の者として監視委員会に参加するわ。数が必要なのでしょう? 当家の主要な使用人にも、お父様が参加命令を出すはずよ」


(ええっ? 私、5歳児だよ?)


「おねえちゃま、あたしも?」


 私が慌てていると、時雨さんがクスッと笑った。


「ええ、当然よ。王家に仕えるロード系貴族は、この世界を守る義務があるの。とはいえ、ミカンは普通にしていればいいわ。異世界人が困っていたら手助けしてあげなさい。来たばかりの異世界人は、皆、赤ん坊のように弱いらしいわ。慣れてくると、だんだん図々しくなってくるそうよ」


(ん? 来たばかりの異世界人は弱い?)


 なんだかまるで、ゲームを始めたばかりのレベル1の冒険者がすぐに戦闘不能になる、みたいな?


(えっと、3年半後?)


 ちょっと待って。偶然かもしれないけど、エリザは今15歳。いや、16歳になったんだっけ。3年半後ってことは、私が初めて見た悪役令嬢エリザ・ダークロードは……。


 いやいや、まさかね。一瞬、これから、この世界に『フィールド&ハーツ』のユーザーが来るのかと思ってしまった。そんなこと、あるわけがない。


 でも私は異世界から、乙女ゲームの世界に招待されて転生してきたわけだけど……。


(あー、頭がごちゃごちゃになってきた〜)



「ミカン、そんな思い詰めた顔をしなくていいのよ? 異世界人は、この町には入れないわ。ここはグリーンロード領の中にあるけど、王立学校だもの。異世界人が嫌なら、このユフィラルフの町から出なければ会うことはないわ」


「えっ? えーっと……」


(この町には、ゲームでは入れなかったけど……)


 時雨さんの方をチラッと見ると、彼女は意味深に頷いた。めちゃくちゃニヤニヤしてる。




 コンコン!


 誰かが扉を叩いた。この部屋にお客さんが来ることなんてないんだけどな。


 黒服が扉を開けると……。


(レグルス先生だ! どうして?)


 まさかのメガネ男子の訪問に、私の頬は一気に熱くなっていく。半年ぶりだけど、やっぱカッコいい! 今日もキラキラエフェクトを背負ってるように輝いて見える。



「おや、先客がいらっしゃいましたか」


 彼は、エリザと時雨さんを見て、ふわりと微笑んだ。


「レグルス先生も、勧誘に回られているの?」


「勧誘? あぁ、エリザさんは監視委員会ですか。僕は注意喚起のために、初等科の寮を回っているんですよ。秋になるとその件でバタバタするでしょうから、春夏の間にフィールド実習を終えてもらう方がいいようです」


「えっ? レグルス先生に、そんな使いっ走りのようなことを学長がさせているの?」


 エリザの表情が変わった。これは怒っている。


「ふふっ、僕は新入りですから、顔見せの意味もあるようですよ。妹さんには一度お会いしましたね。歴史学を担当するレグルスです。よろしくお願いしますね」


「は、はいっ!」


 私が勢いよく返事をすると、なぜか、みんなが一斉に笑った。ちょっと声が裏返ってしまったから、かも。


(うっ、また、レグルス先生に笑われた……)



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