そうじゃない。
「カツリキ、お前はなんで部隊を二つに分けたんだ?」
毎度おなじみ、モリアの前に立つカツリキ。マガホニーの机を挟んで、第一竜騎士団長は、小さいが筋肉の詰まった身体を手すり付きの椅子に預けている。
「それは、より迅速に哨戒任務を――」
「そうじゃねえよ。迅速なんてもんは、確実な行動があってこそだろうがよ」
「ええ。まあ、はい……」
「それで、敵の規模は分かったのか?拠点の場所は?」
「いや、部隊が襲われたので――」
「でも、隊員は怪我もしてねえし、竜も走れたんだろう?じゃあ、まだ哨戒任務を続けられたんじゃないのか?」
「ええ、しかし――」
「しかし、じゃあねえんだよ。いいか、カツリキ――どんなに竜の戦闘能力が高くても、それを効率的に使えなくちゃあ、お前達はいる意味がないんだぞ?敵にぶつかって、強そうだからって逃げ出したら、軍隊の意味がねえじゃねえか。もちろん、お前だけの問題じゃなくて、隊長を支えるすぐ下の人間が、それを進言しねえのもダメなんだけどな。お前らは部隊として、成り立ってない!」
モリアの声はでかい。
当然、同じ部屋にいるドクの耳にも入る。思わず、眉間に皺が寄る。
「ドク!!」
「はい」
呼ばれて、カツリキに並ぶドク。
まあ、矛先が自分に向かう事を予測していたから、落ち着いたものである。
「お前は何をやってたんだ?」
ずいぶん、端的な問い。
ドクは、とりあえず訊いた。
「どの場面でですか?」
訊き方も悪い。
「そうじゃあねえよ!カツリキが部隊を2隊に分けるって言った時、何をしてたんだって言ってんだ」
何が「そうじゃねえんだ」と言いたくなるが、立場があるからぐっとこらえなくてはならない。
「……一応、意見具申はさせてもらいました」
「だから、お前はダメなんだよ!『一応』なんてもんは、やってないのも一緒!!」
「はい……」
「隊長がどうしてもと言ったので」と言えてしまえば楽。しかし、ドクは2隊に分ける事を(不承不承ながら)受け入れた事実から、そうは言えない。誠実というか、不器用というか、とにかく生きづらい性格をしている。
「しっかりしろよ!そんなんじゃあ、竜騎士なんて名乗ってられねえぞ?結局、今日一日、無駄足じゃあねえか」
「それでも捕虜を確保しました。まったくの無駄じゃあ――」
「だから、そうじゃあねえって言ってんだよ!!捕虜なんて意味ねえんだ。どんなに拷問したって、嘘を言うかもしれねえだろうが。そんな曖昧な情報で、俺は部隊を動かさねえからな」
「捕虜の確保は、作戦任務に――」
「そうじゃあねえんだよ。作戦は作戦。じゃあ、今の状況で、お前なら部隊を動かせるのか?誰の命も危険にさらさないで、指揮をとれるのか?」
「いえ――」
ドクは、ここであきらめた。
聞く気の無い人間に届く言葉などない。
後は、双方にとって無駄な時間を、ただ過ごすだけ。ドクは、カツリキとともに、短くない時間をドブに捨てた……。
「悪かったな」
更衣室。ロッカーの前で、ドクはカツリキに声をかけられた。よっぽど「どのことですか?」と聞き返してやろうかと思ったが、そこまで嫌味な性格はしていない。
「決断に失敗はつきものですよ。明日から、また頑張りましょう」
無難な返事。
だが、心がぐちゃぐちゃになっている今のドクにしてみれば、気の利いた返事と言えるのかもしれない。
「だけどさ、明日からは作翼(作戦翼竜騎士隊)と重陸(陸竜重騎士隊)が出るみたいなんだよ。私等の出番は無いかもしれない」
参謀本部の思惑通り。
作戦陸竜騎士隊の失敗を足掛かりにして、部隊を動かすことに成功させたのだ。
「部隊の誘導くらいは、やらせてもらえるかもしれませんね。モリア団長の気分次第でしょうけど」
「まったく、最初からモリア団長が部隊を出してくれれば、こんな事にはならなかったのにな」
そのとおりだが、今、言う事じゃない。サイゾウですら、出発前にソレを危惧していた。
それに、失敗の遠因はモリアにあったが、失敗そのものを呼び込んでしまったのは自分達である。任務に真摯な態度で取り組んで入れば、襲われて逃げ帰るなんて事にはならなかったはずだ。
――馬鹿は経験すらできない。
ドクは、昔、信頼する上司に言われた言葉を思い出した。
失敗を誰かの所為にせず、分析し、次に生かす――当たり前の事だが、それを行うことがいかに難しいか……。
「私達は、もっと良くなりますよ。今回の件も、自分達の糧にしていきましょう」
ドクは笑って見せた。
けっこう、頑張って笑っている。
――早く、リンダの胸に戻りたい……。
ドクは少し現実逃避した。
まあ、これぐらいは社会人として許される範囲だろう?




