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 はてさてどうしようか。

 朝の挨拶をしてからの接触一切なし。こっちから話しかけるほど親しくもないので、ただアイツを見てるだけ。

 休み時間あたり向こうから接触があるかと思ってたけれど、それもなし。それどころか、いつものメンツでバカ騒ぎをして教師からお小言を頂戴していた。バカが。

 休み時間もなく、お昼休憩もなく、残すは放課後。と意気込んでみたものの、アイツはバスケに行ったきり今も戻ってきていない。

 私から聞くの癪だとずっと声をかけなかったけれど、やっぱり気になってこうしてアイツが戻って来るのを待っている。

 放課後、部活をしている生徒以外ほとんど生徒が残っていない今なら話しても問題ないはず。

 向こうから説明がないのなら、私から聞くしかない。朝の決意が今ここで再燃している自分に、口がへの字になるのが止まらない。

 本当にムカつく男だ。向こうから意味深げなセリフを言ったと思ったら、朝の挨拶だけで接触してこないし。

 絶対私がモヤモヤしているのを楽しんでいるに違いない。


「あーあ、早く来ないかな。スッキリしたい」


 右斜め向かいの席がアイツの席。その脇には鞄がぶら下がっているので、教室に戻って来るのは分かっている。

 何か話の流れでバスケに誘われてそのまま。いつものことなので、特に気にしてなかったけれど、いつもこんなに遅いのか不思議。

 外を見れば夕焼けで、外での活動を切り上げる部活も出てきている。

 私の手元のスケッチブックの風景デッサンも完成で、やることが無くなってしまった。

 アイツの席を一瞥して凝った肩を軽く揉む。肩凝ったし目も少ししょぼしょぼする。

 

(もう待つのやめて帰ろうかな。……でもモヤモヤしたままってのがイヤだし)


 まだ太陽は姿を隠していない。もう少しだけ待ってみよう。

 開けている窓から吹く初夏の風が涼しくて、私はそのままうとうととしてしまった。





「ん……っ」


 頬がくすぐったい。それに少しだけ髪が引っ張られている気もする。

 人が気持ちよく寝てるのに、邪魔するな。

 触れてる何かを振り払おうと手を振ると、頭上で忍び笑いする声が聞こえてきた。

 なにが面白いのか、クスクス笑いながら振り払う私の手を避けつつまたちょっかいを出してくる。

 何度かの攻防の末、とうとう私の堪忍の緒が切れた。


「ちょっと!人の安眠邪魔しないでよ!」

「ゴメンゴメン。けど面白くてっ」


  ……安曇の声?

 慌てて上体を起こせば外はもう薄暗くなっていた。遠くのオレンジのグラデーションもあと数分で沈む。

 眠ってしまう前に聞こえていた部活動の声もなく、少しだけ吹奏楽の音が聞こえる程度に時間が経っていた。


「もしかしなくても爆睡……マジか」

「うんマジマジ。随分気持ちよく寝てたね」


 茫然と呟けば安曇はニコニコ笑いながら、左手を机に乗せ右手を私の頬に沿わせてくる。


「よだれついてるよ」

「ぎゃ!?」


 慌てて袖で口元を拭う。なんでよりによって、コイツを待ってる時に寝ちゃったんだ私!


「あはは!ウソウソ!ほっぺたに服の痕がついてるだけだって」

「……」


 本当にムカつくヤツ!

 焦りと怒りと羞恥とが混ざりぎっと安曇を睨み付ける。

 安曇はニコニコ笑っているだけで何も堪えてなかった。それどころか笑みを深め、ニコニコからニヤニヤに変わりつつある。

 すでに日は落ち、教室の照明を背にニヤニヤする安曇。嫌な予感がして、すぐさま体を後ろに引いた。


「そんなに警戒しなくても何もしないって」

「あんたの噂くらい耳に入ってるんだけど。女の子をとっかえひっかえの遊び人って有名じゃない」

「とっかえひかってってヒドイな。皆オレと付き合いたいって言うから、付き合ってるだけ。ふるのも向こうだし」

「ふーん」


 本当なんだかウソなんだか。

 話半分で聞いていたほうが得策と、半眼で流しておくことにする。


「それよりこんな時間まで残ってどうしたのさ?」

「あんたを待ってたの。悪い?」

「え?マジで!?それって付き合っていいって返事――」

「じゃないよ!なんでそんな話になるのよ!」

「だって昨日、オレ美紀ちゃんに告白したじゃん」

「それって別の意味での告白よね!?あんな爆弾発言した後で、暢気に生活できると思ってたの!?」

「だって美紀ちゃんも転生者でしょ?」


 キタ!聞きたかったこと!この話をするために残ったんだから。

 私は「そうよ!」と声を張り上げる。

 お互い転生者と分かっているんだから、遠慮はいらない。


「転生者って分かっているってことは、ここがどういう世界かわかってるのよね?」

「あー、まあ、ほどほどには」

「ならさ!私があんたの攻略対象者ってなに?ここってギャルゲーと乙女ゲームの世界でしょ?」

「そうだよ。美紀ちゃんは前世って言えばいいのかな……。前世でプレイしてない?」

「したけど、同級生枠の対象者は私じゃなくて、あの書記の妹ちゃんでしょ。それに主人公はあんたの親友のはずだし、色々おかしいじゃない」

「……あー、もしかして二作と思ってるんだ。だから他人事みたいに見てたのか」


 二作じゃないの?制作会社の横着作品だし、あれ以上ゲームは作れないじゃない。

 色々使いまわしだし、攻略時期もかぶってるし。

 納得いかない私に、安曇はいつもの飄々とした態度で「そりゃしょうがないか」ともったいぶった言い方で続ける。


「あのゲームって二作だけじゃないって言ったら、美紀ちゃんは信じる?」

「は?」


 二作だけじゃないの?

 言葉が出てこない私を見て、安曇は「実は」と続けたところで、誰かが教室に入ってきた。


「あれ?安曇君と潮見さん?」

「吉田ちゃん。何か忘れ物?」

「あ、うん。友達から借りた雑誌忘れちゃってて……。えーと、もしかしてお邪魔して」

「――ない!全然ないから!!」

「わ、わかった」


 入ってきたのはクラスメイトの吉田さんだった。

 それに驚きもせず軽い調子で答える安曇と私を交互に見て、彼女は何を勘違いしたのか顔を赤らめとんでもないことを言おうとしたのを遮る。

 それはもう全力で!なんで転生の話をしているだけなのに、恋愛関係を想像するの!そういうお年頃ってか!?

 私のくい込み気味な否定に、吉田さんはビックリしつつ頷きながら雑誌を回収していた。こそこそした動きが挙動不審すぎて、頬が引きつる。

 これってもしかして、もしかするかも。


「そのサヨウナラ。絶対秘密にするからね」

「ね。じゃないから!ちょっと吉田さん!?」


 やっぱり誤解してる!

 否定したはずなのになんで誤解してるの!?

 慌ただしく走っていく音が廊下に響き、徐々に聞こえなくなっていった。


「……ただ疑問点の話してただけなのに……」

「ヒミツにするって言うんだし別にいいんじゃない?」

「よくないし!」


 本当に最悪。遅くまで学校に残ってなきゃいけないし、コイツには揶揄われるし、極めつけは恋愛的な意味でクラスメイトに誤解されるし。

 ゲームは二作だけじゃないとかいうし、本当に今日は最悪すぎる。泣けてくるよ。



 項垂れる私は頭上で意地わるく笑う安曇の顔を見ることはなかった。







ぴこん!

スチル1 【夕暮れに微睡む】 を手に入れました。

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