ギフテッド ダンスの試練
(足やばい……踊る? なんて無理無理、どーしよ)
シオリは完全に萎縮していた。カナタ様やヒナコさんは凄い! 大人の女性を心から尊敬した。シオリの元にも次々と男性陣が挨拶をしてくる。目まぐるしくて顔と名前を覚える暇もない。
「あら、シオリちゃん、大人気! ロリコンオヤジに息子の嫁探し、そんな感じねっ(笑)」
挨拶が少し途切れたところにヒナコさんが話しかけてきた。ヒナコさんも一通りの挨拶が済んだようである。シオリもヘトヘトだが……
「ヒナコさん、私まだお嫁には行きませんから(笑)」
シオリは笑っているが内心は気が気でなはない。そろそろ始まるのだ……ダンスが。そしていよいよ……
「シオリ嬢、良かったら踊ってくれませんか?」
「あ、は はい」
真っ先に誘われたのは、比較的若い男性。とは言ってもシオリよりは10歳以上年上である。確か名前はランドといった。まあロリコン親父ではなさそうなので誘いを受けてみたのだが……。
初めてのダンス。ステップは容易だが、如何せんヒールとモコモコしたドレスが邪魔、鬱陶しい。相手に合わせるだけのぎこちない動きになってしまい……辛い。その後も次から次へとダンスの申し込みが来た〜もううんざりだった。
「シオリ嬢、でしたよね? お疲れのようで……少し休まれたらどうですか? 私はマークスと申します」
ダンスを申し込みに来た男性を押しのけてマークスという男性が飲み物をさしだしてきた。シオリはそれを受け取り、お礼を述べた。
「ありがとうございます、マークス様」
「少し夜風にあたるといいですよ さぁ、こちらへ……」
マークスくん、分かっているではないか! それにカッコいい〜歳は18歳くらいか、陛下と同じ金髪で背はそれほど高くはない。シルバーのタキシードがよく似合う。シオリはマークスくんとバルコニーに出た。
「シオリ嬢、ダンスはお嫌いですか? まああんなに踊らされては楽しくなんかないか(笑)」
「私、ダンスなんてしたことなくて。2日でステップは覚えたんですけど……どうしてもヒールで踊るのは」
「シオリ嬢、ダンスって実はとても楽しいものなんですよ。少し休んだら私が楽しさをお教えしましょう! そろそろラストダンスですし(笑)」
マークスくんの言葉に躍り上がる! ダンスが終わる、それはこの苦痛からの開放。あと一曲我慢すればいいのである。
「はい、では楽しさ教えてもらいます(笑)」
マークスくんと暫し談笑していたが、ラストダンスのコールがあった。長かった晩餐会がやっと終わる……
「ではシオリ嬢、行きますか!」
「はい」
シオリはバルコニーを後にする。
最後のダンス曲、マークスくんは手を取り膝をつく。そして立ち上がると……
「ではシオリ嬢、失礼!」
何とマークスくんはシオリをお姫様抱っこしてしまった。そして履いていたヒールを脱がした。これには周囲がざわついた……
「マークス様……」
「大丈夫、君だけに恥はかかせないからっ!」
そう言うとシオリを降ろしたマークスくんも自身の靴を脱ぐ。そして最後の曲が流れた……。
この開放感! たまらない……マークスくんにリードされながら、カナタ様から教わった剣技のステップのように、優雅に舞う…………え? 楽しい…………そしてマークスくんの笑顔、シオリも自然と笑顔になる。このまま踊り続けたい……
ラストダンスが終わった。あんなに苦痛だったダンスが……終わったことに寂しさを覚えた。
「どうだったかな? ダンスを楽しめた?」
「はいっ! とても!」
シオリの鼓動は早くなっていた。
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晩餐会は終わった。余韻が残る中カナタはバルコニーでマティーニを飲んでいる。シオリのダンス、思い出すだけで、微笑ましい。
「久々のダンスはどうだったかな?」
「フレッド……ありがとう」
今はバルコニーに2人きり、名前で呼んでも問題はない。月が綺麗な夜だった。
「最後のダンスには度肝を抜かれたな。まさかマークスが……あんなことを」
「フレッドのデジャブを見ているようだった。笑うのを堪えるの大変だった(笑)」
「まさか12年前の私と同じ行動に出るとは……カナタ、決して12年前の話をマークスに話してはいないぞ(笑)」
「さすがに似てるわね。実の兄弟なだけあるわ(笑)」
12年前の晩餐会を思い出した。貴族に父を殺され、スラムを這いつくばった少女が剣を学び王子様と出逢う、人生で最高の瞬間だったかもしれない。作り笑いではない、自然な笑みが溢れる。
「やっと笑ってくれたね…………カナタ」
「フレッド……」
「私はカナタを一時たりとも忘れたことはないよ……」
「嘘つき(笑)」
心地よい風と月明かりだけが2人を見守っていた。