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終末のメスガキ  作者: 終乃スェーシャ(N号)
五章:向かい合う刃先
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燃え焦がれる心

 二人の間合いに誰もが立ち入ることを許さなかった。


 便利屋、レーヴェ、シルヴィ。酸素を焼き尽くす烈火が広がるなか、混戦の火蓋が切って落とされた。


「早く僕を殺さないとあの二人だって無事じゃ済まないだろう!?」


 ルドヴィコは【白影】の刃を振るった。薄く鋭い斬撃の円弧は白光の粒子を零しながらエストの首元へ狙い澄ましな横薙ぐ。


「何故そう考える。彼女達は優秀だ」


 迫り輝白する連撃を全て打ち流し、エストは身を翻し剣戟の応酬を仕掛け出る。刀身がぶつかり合い苛烈な火花を散らし稲妻のごとき炎が舞った。


「嗚呼そうだろうね。【緋刃】の弟子が弱い訳がない! ルドヴィコ・アーヴェも強かったんだろう!? だけど僕にあるのは記憶と思い出だけだ!! 弟子でいられた事実なんて……ないじゃあないか」


 咆哮にも等しい怒号。【白影】が描く純白の一閃、斬撃波に幻影フェイクが織り交ぜられていく。一度、【緋刃】を致命傷にまで追い込んだ異界道具の斬撃による猛攻。


「そうだ。お前に何かを教えたことはなかった」


 だが、僅かな隙を掠め取ることさえ叶わなかった。緋の一刃、その一振りで対処すべき斬撃だけを受け止める。刀身が交錯し刃が震え合った。


「嗚呼。……だが同じだ。全く同じだ。注意した悪癖もお前のなかではただの造られた記憶だったのだろう。俺が改めて言う必要があった。向き合わなければならなかった」


 エストはそのまま力でルドヴィコを押し飛ばすと長物では近すぎるほど間合いを詰め、鍔で頭部を殴打する。


「ッ――!?」


 小さなうめき声。打撲による出血。血が目に入る前に拭い取るとルドヴィコは態勢を整え直した。


「……攻撃の動線に規則性があるぞ。アーヴェ、刀で斬り下ろした後だ。遠心力に振るわれて次の攻撃が単調になる。刃で撫で斬ることを意識しすぎるな」


 ルドヴィコは僅かに立ち止まった。ほんの一瞬、向けるべき視線に迷うように虚空を見詰め、しかしすぐに凶暴に笑ってみせる。


「今更、師匠面ですか? 師匠……! 嗚呼、師匠とずっと……楽しみにしていたんだ。僕らに言葉は無用だろう? こうして殺し合うときだけは、本気で向かい合えてるんだ。…………僕は師匠の知ってるルドヴィコじゃあない!」


 同じ声、同じ顔、涙に濡れた鋭い睥睨、翡翠の瞳に映る緋色の業火と怪物が心を穿つ。胸が震えた。吐く息に煙が交じる。


 隠しようもなかった。今もなお、後悔をしないために覚悟を決めたはずだというのに恐怖が、脳裏に焼き付いた記憶が心臓を強く打ち鳴らす。


 ――立て。立て♡


 憎たらしい言葉を思い出した。恥を知るべきだ。何も知らない小娘メスガキに何度救われた?


「……笑えてくるな」


 凝縮された時のなかで思い出が巡り続ける。混ざり合い、相殺されるように静寂が満たした。波が消え、心音は穏やかに、しかし強く熱望し続ける。


 便利屋として守るべき最も重要な誓いが灰となって消えていく感覚。端から守れてもいない約束に何の意味がある。ただの逃避行為でしかない。


 【緋色の剣】を握る手から震えが消えた。心中、炎を舞い上げて猛火が滾る。迷いなく身体を突き動かす意思の緋炎だった。


 上体を前に倒し斬撃を掻い潜り再び距離を詰める。そのままルドヴィコの両肩を掴み、地面を踏み蹴って宙へ跳んだ。


 身体全体でルドヴィコを振るい持ち上げ、手加減もできずに地面へ叩きつける。鈍い衝撃と音が腕を伝った。


「――――ッ!!」


 ルドヴィコはうめき声を押し殺し、焼けた地面を構わず転がり臨戦態勢を取り戻すと【白影】とは違う、もう一振りの小さな黒刃を構えた。


「罪の重さを知るがいい。縛り付けろ!! 【八咫黒烏】」


 罪悪感に作用し対象を捕縛する無数の鎖が伸びた。エストの四肢を捕らえるように身体に突き刺さる。


「……後悔ばかりだ。こんなにも鎖が重い」


 じゃらりと、手を動かすと黒い鎖が音を鳴らし軋んだ。ガスマスクに隠れた苦悶の表情を見透かすように、ルドヴィコは余裕なく引き攣り笑う。


「師匠は……ハハ。強い。嬉しいよ……! 師匠を殺すために色んな方法を用意したのにいざこうして、本当の【緋刃】を前にしたら何も意味がないように思えてくるんだ」


 ルドヴィコは擲弾を取り出しスイッチを強く押し込んだ。山なりに、レーヴェの頭上へ向けて投じる。


 エストが咄嗟にナイフを投げ澄まさんとするよりも早く、薄藍の空を何条もの緋跡が巡った。鋭く細い糸の刃が擲弾の軌道を逸し寸断して見せる。


「いくら私達が魅力的だからってこんなときまでこっち見てる場合じゃないでしょぉ? ざーこ♡ ……もっと信じなさいよ!」


 シルヴィは彼女のやり方でエストを叱責した。自分自身が一番よそ見をして、隙丸出しに小さな身体を震わせあらん限りの声で叫ぶ。


「ッ――そうです。師匠、わたしは少なくとも正面戦闘なら強いんです。不意打ちとか奇襲が苦手なだけで。それでも、師匠の――そこのバカと同じで【緋刃】の弟子です」


 シルヴィの回収をせんと迫る便利屋達を、レーヴェは一刀一振りで斬り伏せる。長い髪が炎に照らされながらゆらりと揺れた。切っ先一寸で正確無慈悲に撫で下ろし、血さえ流さずに無数の死体を作り上げる。


 【緋の糸】は生きているように不規則な動きで便利屋を斬り裂いていく。


 エストは鼻で笑い、自嘲した。広めていた意識を僅かに狭め、ただ一心にルドヴィコ・アーヴェと対峙する。

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