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つららさんの可能性  作者: やばくない奴
軍事基地編
37/59

スーパーヒーロー

 寧々(ねね)は自分の非力さをよく知っている。彼女はこの場に残り続けても、足手まといになるだけだ。しかし彼女は逃げられない。

(不可視の縄で不可視の柱に縛り付けられてさえいなければ……すぐにでも逃げだせるのに……)

 それこそ寧々がここに残っている理由だ。メルが意識を失うまで、彼女の拘束が解かれることはない。

「安心しなさい、ランボル少将。あの人質は大切な交渉材料です。例え364番がこちらの依頼を断り続けても、ただ人質の内臓が一つずつ減っていくだけですよ」

 アルケミア軍の中でも、メルの冷酷さは一二を争うほどだ。仕事を遂行するためであれば、彼女はいかなる犠牲を伴うこともいとわない。対するランボルは、アルケミア軍屈指の善人だ。

「安心しな、メル中将。つららちゃんがここに来るまでに、俺様がアンタを虫ちゃんたちの餌にしてやるぜ!」

 例えそれが与えられた仕事であったとしても、道義に背くことはしない。とても勝ち筋の見える戦況ではないが、それでも彼は寧々のために戦い続ける。


 突如、ランボルの脇腹に刺し傷が生まれる。彼の脇腹を貫いたものは、メルが先ほどまで振り回していた刀ではない。

(ちっ……流石にこの距離じゃ、可視化する前に体に届いちまう! 間違いない……たった今、コイツは二本目の武器を作りやがった!)

 今まで同じ軍に従事してきただけのことはあり、彼は彼女の魔法や立ち回りをよく理解していた。彼はすぐに自分の脇腹から不可視の物体を引き抜き、それから間合いを取り始める。虫の群集は二本目の刀の表面に張り付き、その全貌を可視化した。メルは虫の集った二本の刀を使いこなしつつ、どこまでもランボルを追い掛け回していく。彼女の攻撃をかわしきれないランボルは、体に切り傷や刺し傷を刻まれていく。もはや防戦一方どころの騒ぎではない。彼は一方的にいたぶられているも同然だ。メルは二本の刀を結合させ、刀身約二メートルの太刀を作り上げた。彼女がそれを振り下ろしたのも束の間――――


――――ランボルの足下に、一本の腕が落ちた。


 彼は自分が右腕を失っていることを確認した。それは瞬きをする暇すら与えられない、ほんの一瞬の出来事であった。それでもランボルは戦意を喪失しない。右肩の断面から血を零しつつ、彼は強気な微笑みを浮かべる。

「……俺様の腕なんざ、いくらでもくれてやるぜ。あいにく後一本しかないけど、それで満足か?」

「見上げた威勢ですね。しかしあなたに勝機はありませんよ?」

「いいや、勝つのは俺様だ。俺様が昔っから憧れてきたスーパーヒーローたちは皆、どんなピンチに陥っても最後には必ず勝つんだ。俺様は人殺しだった……だが今ならヒーローになれる!」

「なぜそう思うのです?」

「わからないのか? だったら教えてやるよ。俺様には、命を懸けてでも守りたいモンが出来たからだ!」

 新たに追加された虫の大群が、辺り一帯を覆い尽くす。その一部はメルの顔面にまとわりつき、彼女の視界を塞いでいく。

「小癪な真似をしますね……」

 このままでは標的を見失ってしまう。メルは両手で何度も顔面の虫を振り払うが、すぐに別の虫が彼女の目の前を覆っていく。これで彼女に攻撃が通るようになったわけではないが、ランボルはほんの少しだけ勝機を得た。

(アイツは呼吸をしている。関節だって動いてる。つまり、あの透明の鎧にも絶対に虫が入れる程度の隙間は空いているはずだ! 寧々ちゃんも言っていたが、やはり狙うべきは関節だ!)

 この好機を逃すわけにはいかない。彼は無数の虫を操り、畳み掛けるように攻撃を試みていく。ここでメルは考えた。

(……ここに来て名案が浮かびました。ランボル少将の性格を鑑みれば、確実に攻撃を当てられる方法が一つあるではありませんか)

 彼女は太刀を槍に作り変え、眼前の虫を左手で振り払った。そして視界が開けた一瞬を逃さず、メルは咄嗟に寧々の方へと槍を投げる。当然、見えない柱に縛り付けられている寧々には槍を避けることなど出来ない。

「寧々ちゃん!」

 ランボルは彼女の前に飛び出した。メルの投げた槍は、彼の腹を容赦なく貫いた。それから後続して、何本もの槍が投げられる。ランボルは寧々を守るため、その全てを全身で受け止める。彼が失血死するのも時間の問題だ。

「あはははは! あなたは実にわかりやすい男ですね! その女を庇って、名誉の死を遂げると良いでしょう!」

「まったく、卑怯者もここまで極まると見事なモンだぜ。だが、お楽しみはこれからだぜ? スーパーヒーローが必殺技を使うのは、いつだって勝負の最後だからな」


 その直後、メルの全身から大量の幼虫が溢れ出してきた。


 幼虫は彼女の肉体を体内から食い破っているようだ。

「何をしたのです……ランボル・ギーニザルト!」

「虫ちゃんを何匹か鎧に侵入させて、アンタの体内に産卵させまくっといたのさ。俺様の魔法は痛みを与えないからな……楽に死ねるぜ」

「やめなさい! 今すぐ攻撃をやめなさい! 私は、こんなところで死ぬわけには……!」

 メルの頭部から、おびただしい数の虫が湧き出てくる。おそらく脳を捕食されたのか、彼女は頭から血を流しつつその場に倒れた。

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