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第41話 お礼にチーズバーガーあげるね。はい、あーん

 俺と御世ちゃんは手を繋ぎ続けながら、スーパーに繋がる大通りを歩く。


 この大通りは俺たちが通う学校に繋がる道とあって、生徒に合う確率が上がる。

 知り合いに出くわさなければ良いけど……。

 仮に七山などに出くわしたら、一発で付き合っていることがバレるので、非常にマズい。

 御世ちゃんと手を繋いでいること、知り合いに遭遇してしまわないかということ、二つの意味で心臓がバクバクしている。


 幸いにも、誰にも見つからないまま、スーパーに到着。

 スーパーが入っている建物は小規模な商業施設のようになっていて、1階にスーパー、2階に飲食店がある。


「ねえ、お腹減ったし、ここでご飯食べない?」

「あー、その手があったか。さんせい」


 お昼も晩も御世ちゃんに料理してもらう気でいたが、普通に考えれば彼女の負担が余りのもデカすぎる。

 いくら御世ちゃんの手料理食べ放題という契約を交わしているとはいえ、毎度毎度、彼女のお世話になっていたら、俺の罪悪感が募る一方。


 ……それに、御世ちゃんと二人で外食するのも、めちゃくちゃ楽しそうだ。


「どこにする?」

「へー、結構飲食店あるんだね」

「この商業施設、あんまり行ったことないの?」

「二回くらいしか行ったことないかな。俺の家から少し離れているし」

「じゃあ、ワクワクだ!」

「御世ちゃんと一緒なら、どこへだってワクワクだよ」

「嬉しいこと言ってくれるじゃん。で、どこがいい?」

「迷うなあ」


 商業施設のマップを確認すると、五つの飲食店があるようだ。

 パスタ屋、ラーメン屋、かつ丼屋、ハンバーガー屋に、回転寿司屋。

 和洋中揃い踏みしている、バランスの取れた最高のラインナップである。


「良いこと考えたんだけどさ、せーので、行きたいところ指ささない?」

「おっ、面白そう。流石は動画配信者だ。面白いこと考えるね」

「でしょ? 行くよ」

「おう」


「「せーの」」


 俺はかつ丼屋、御世ちゃんはハンバーガーショップを指さした。


「あちゃー。分かれたかー」

「ワンチャン、一緒になるかなぁ、って思ったけどね」

「どうしようか?」

「ここは漢のジャンケンといきましょう!」

「いつの間に性転換したの? まあ、ジャンケンしかないわな」


「「最初はグー、ジャンケンポーン!」」


 俺はグー、御世ちゃんはパーを出し、見事に敗北した。


「はーい、私の勝ち~。いや、勝負強いね、相変わらず」


 登録者数10万人超の成功者の言葉、言葉の重み半端ない。


「ぐうの音も出ない。まあ、レディーファーストということで、潔く譲りましょう」

「ちゃんと勝負したのだから、レディーファーストとかないから」

「ごもっともです」


 正論をぶっこまれ意気消沈してしまう。

 ……将来は御世ちゃんの尻に敷かれるのだろうなあ。それもそれで、ありかも。

 なんて、なぜか遠い将来のことを夢想しつつ、俺たちはハンバーガーショップへと入った。


「「いただきま〜す」」


 俺と御世ちゃんは手を合わせ、息ぴったりのかけ声で、目の前にあるハンバーガーを食べ始める。

 ちょうど窓際の4人用のテーブル席が空いていたので、そこを陣取った。

 俺はてりやきチキンバーガーのセット、御世はチーズバーガーのセットだ。


「うんま〜! 美味しいね、吾郎君!」

「うん! 久しぶりにハンバーガー食べたけど、こんなに美味しかったっけ」

「ね!」


 御世ちゃんは美味しそうにハンバーガーを口の中に目一杯入れて、もぐもぐと咀嚼している。

 

「御世ちゃんはチーズバーガー好きなの?」

「うん! だって甘くて美味しいもん! 吾郎君はてりやきチキン好きなの?」

「だね、ハンバーガーの中では一番かも。このもも肉とてりやきソースの組み合わせがたまらないんだよねえ」

「なんかそれ聞いたら食べたくなってきた! 一口ちょーだい。逆に私のチーズバーガーもあげるから!」

「うん。いいよ」


 俺は食べかけのてりやきチキンバーガーを一口サイズにちぎって、御世ちゃんの口もとに差し出す。

 御世ちゃんはまるでエサをもらった池の鯉のように、大きな口を開けてパックリと食べる。その時に俺の指が御世ちゃんの舌と僅かに触れ合った。


「うんま〜! てりやきチキン初めて食べたけど、こんなに美味しかったんだ!」

「でしょ? 美味しいよね!」

「うん、今度買ってみよ! あっ、それとごめんね、吾郎君の指舐めちゃって」


 御世ちゃんはハンバーガーを頼んだとき、一緒にくっついてきたふきんを差し出してくれるが、なぜか俺は指を拭くのを躊躇ってしまう。


「拭かないの?」

「なんかもったいなくて。アイドルと握手したら手を洗いたくなくなると同じ現象で」

「その発想はなかったよ。これで確信したよ。やっぱり、吾郎君はヘンタイさんなんだね」

「うぐっ……! 否定できない……!」

「じゃあ、お礼にチーズバーガーあげるね。はい、あーん」


 御世ちゃんはさっきの俺と同じように、チーズバーガーを一口サイズにちぎり、俺の口もとに差し出してきた。

 御世ちゃんの指まで食べてしまわないように、細心の注意をはらっていると、なぜか彼女の指が俺の舌に伸びてきた。

 そのせいで、ついうっかり御世ちゃんの指を舐めてしまった。

 ペロ……! 美味しい……! じゃなくて!


「どう? チーズバーガーも美味しいでしょ?」

「美味しいけど……ゆ、指が……!」

「さっきの罰かな」

「いやご褒美のような」

「でも、なんか舐められるの悪い気はしないね。私も拭きたくなくなってきた」

「もう、お互いヘンタイじゃないか……!」


 自分たちのバカップルぶりに辟易しながら、ハンバーガー、そしてセットで付いているフライドポテトを、もしゃもしゃ食べる。


 ようやく食べ終わりそうになった時、御世ちゃんがドリンクを手に持った。


「さあ、メインディッシュの時間がやって来ました!」


 なぜか一人で盛り上がる御世ちゃん。


「飲み物がメインディッシュ? 普通逆でしょ?」

「ふっふっふ。吾郎君、分かってないね〜。このままでは私の彼氏は務まらないな〜」

「ごめん、意味がわからない」

「飲み物の中身は何かな?  っていうお話」

「飲み物の中身……? はっ!」


 遅ればせながら、ようやく気付いた。

 確かにこんな簡単な論法に気付かないなんて、彼女の言う通り彼氏失格かもしれない。

 なるほど。だから御世ちゃんはハンバーガーショップが好きなのか。

 点と点が線に繋がった。


「分かった?」

「よっちゃんオレンジ!」

「大・正・解」

「なるほど。ハンバーガーというよりも、むしろそっちが狙いだったわけか」

「ご名答。私の彼氏として認めてあげよう」

「あんまり居ないのよ。ドリンクメインでランチ決める人」

「だって、ここのハンバーガーショップのオレンジジュース、よっちゃんオレンジなんだもん」

「凄い、分かるんだ。初めて聞いたよ、効きオレンジジュース」

「当たり前じゃん。今まで何杯のよっちゃんオレンジ飲んできたと思っているの?」

「説得力が違う……」

「ちなみに吾郎君は飲み物何にしたの?」

「アイスコーヒーだよ」

「わぁ、大人だ〜」


 そんなことを和気あいあいと喋りながら、二人きりの時間を過ごす。

 何気ないランチの時間も、彼女と一緒ならこんなに幸せだなんて。


「ちょっとお手洗い行ってくる」

「うん。いってらっしゃい」


 幸せを噛みしめながら、店の反対方向にあるお手洗いに向かう途中に事件が起こる。


「あれ、二宮?」


 その聞き馴染みしかない声の正体は……。


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