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第26話 これが本当のハニートラップ……?

「やっと来た~」

「待ちわびたよ」

「ともに迎えに行こうよ、二宮君」

「うむ」


 俺たちは勢いよくドタドタと足音を立てながら、階段を降りる。

 にゃあ、と騒ぎを聞きつけたさてぃが合流する。二人と一匹という手厚すぎる出迎えだ。

 玄関のドアを開けると、相変わらず強い雨が打ち付ける中、合羽を着たあんちゃんが外に立っていた。

 道路にはバイクが止まっており、この雨の中大変だったろう、と心中を察する。


「お待たせしました~。『黄金寿司』で~す。『煌』三人前とサラダとフライドポテト大盛りでお間違いないでしょうか」

「はい。バッチリです」


 一ノ瀬さんの代わりに俺が受け取る。こういう時こそ、パワーのある男の出番だ。

 あんちゃんが手渡したビニール袋には、ずっしりと重かった。

 俺たちがどれだけ注文したのか伺える。一ノ瀬さんに持たせなくて良かった。

 あんちゃんを見送り、俺たちは家の中へ入る。

 あんちゃんはこれから雨の中帰らないといけないのか。宅配の仕事は大変だな。


「持ってくれてありがとね」

「別に大丈夫だよ」

「二宮君は優しいな」

「面と向かって褒められると照れるよ」

「照れ殺したい」

「なんか、とんでもないワードが爆誕している⁉」

「ささっ、早く部屋に持っていこうよ」

「だね。ところで、何で三人前?」

「お腹すいているでしょ? それに、さてぃの分もね」


 一ノ瀬さんは、廊下でゴロゴロくつろいでいる飼い猫・さてぃを流し見る。さてぃは言葉が通じたのか「にゃあ!」と嬉しそうに鳴いた。


「猫って寿司食べられるの?」

「多分、食べられるよ。だって魚じゃん」

「ガバガバの判定」

「フリーゲーム並みにね」

「これは一級ゲーマーの見事な例えだ」

「そんなこと言って、落とさないでよね」

「大丈夫だって」

「一級フラグ建築士かな?」


 なんとかフラグをへし折って、無事に部屋まで寿司を運ぶことに成功。


 一ノ瀬さんの部屋の丸テーブルに、寿司桶がでーんと置かれる。桶を彩るようにサラダとポテト大盛りも並ぶように置かれている。壮観な画だ。


「いただきまーす」

「待って。手、洗った?」

「あ……ごめん、洗ってない」

「もーう。手が焼けるんだから」

「世話が焼ける男ですまねえ」

「もう、何言ってんの? 部屋を出て右に真っすぐ行ったところに二階の洗面所があるから、そこで手洗ってきて」

「へーい」


 俺は一ノ瀬さんに言われた通り、部屋を出て右に真っすぐ進む。


 一ノ瀬さんと長い時間居るからか、つい素が出てしまうことが多くなったな。まあ、それだけ仲が良くなったということなので良しとしよう。


 しかし、相変わらずこの家はバカみたいに大きいな。

 浴室の隣にあった洗面所の他に、二階にも洗面所があるなんて聞いたことがない。


 暫く歩いていると、引き戸を発見。

 どうやらここが、ノ瀬さんが言っていた洗面所のようだ。

 引き戸を開け、中に入ると、なぜだか「もにゅっ」とした感触が顔面を覆う。


 ……そこには、一ノ瀬さんのものと思われるパンティが数着、物干しハンガーにかかっていた。

 その衝撃で天井に吊るしてあった物干しハンガーが外れ、俺の頭に降ってきた。

 ちょうど、一ノ瀬さんのパンティが俺の顔面に乗っかってしまった。


「ぎゃああ!」


 びっくりしすぎて、思わず奇声を上げて横転してしまう。


「どうしたの⁉」


 俺の叫び声が聞こえてしまったのか、一ノ瀬さんの足音がこちらに近づいてくる。


 ……マズい、来ちゃダメだ。


 今俺は、一ノ瀬さんのパンティを顔面に乗っけている、史上最低の変態野郎になっているから!


 そんな願いとは裏腹に、一ノ瀬さんは早々に現場へ到着した。


「えっ?」

「あっ。どうもっす」


 人間おかしくなると、逆に冷静になってしまうらしい。

 血相を変えてきてくれた一ノ瀬さんに対して、偶然先輩に合った時みたいな反応をしてしまう。


 事態を把握した一ノ瀬さんの顔が、熟したリンゴのようにどんどん赤くなっていく。


「そうだ……洗濯物干したままだった……」


 ようやく頭を整理できた俺は、気づくと土下座の態勢になっていた。


「ごめんなさい! ドアを開けたら、急にパンティが降ってきたんです! 嘘じゃないです!」


「これが本当のハニートラップ……?」


 とんでもなくキレッキレなワードをぶちこむ一ノ瀬さんであった。

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